M17(平成8年卒業) 藤田 修一
(PFD03076@niftyserve.or.jp)
<はじめに> 最近、電子商取引(エレクトロニック・コマース)が俄に注目されているが、そこ における問題点、特に法律面に関わる問題点も数多くの指摘がなされている。法的問 題は広範囲にわたるが、本稿では特に、今日的問題の一つである電子市場における信 頼担保の問題を取上げている。 電子市場・電子商取引の環境整備という観点から、信頼担保機能としての仮想モー ルの果たす役割に注目される。仮想モールが、消費者の信頼誘発に対して積極的に担 保する機能・役割を果たすことが、仮想モール運営というビジネスにとって必要にな ると考えられる。また同時に、法的責任論からみても、信頼保護原則等により、仮想 モールが消費者に対して法的責任を負うという場面が発生するのではないか、と考え られる。 また、法的責任を果たすという観点から、仮想モール・出店業者間における出店契 約の解約を考察する。特に出店業者が信頼を破壊する行為を行った場合、仮想モール による懲罰的な強制排除を認め、信頼回復・信用維持を図るべきではないかという点 を検討している。 他方、信用ある仮想モールが独自に業者を評価・格付するサービスを行う場合を想 定し、悪質業者・不良業者とは言えない場合でも、仮想モールの運営方針から、解約 を適宜行う必要のある評価型・格付型仮想モールについても検討している。
<仮想モールの定義> 本稿では、仮想モールを次のように定義している。 「仮想モールとは、 (1)商用サーバーに関するデータベースを構築し、事業とし てユーザーに対し利便性を提供し、(2)通信販売業者の提供する商品情報を流布・ 伝達を行う媒体であり、(3)さらにその商品を発注する手段に関する情報を伝達し、 場合によっては発注書書式を提示して契約プロセスを媒介することを目的として、オ ンライン上のあたかも現実のショッピング・モールや商店街のような商業集積地の形 成を事業としているものである。」 言い換えるならば、(1)情報検索媒体、(2)情報伝達媒体、(3)契約仲介媒 体・契約手順提供媒体としての要素が組み合わさっているものと言える。
<消費者・仮想モール運営者間の関係について> 消費者が電子商取引により通信販売等を利用する背景には、次のようなことが考え られるであろう。 「仮想モールは社会的信用があり、それだけに広告の受け手は、広告主たる出店業 者が仮想モールを通じて流布、伝達を図る広告について、広告主を信頼するよりも、 仮想モールを信頼し、その信頼に基づいて出店業者と契約するのが普通である。」 そうすると、広告が虚偽等であった場合や購入した商品に瑕疵があった場合等出店 業者の行為により受け手が被った損害を仮想モールとしても賠償すべきではないだろ うか、と考えられる。 この点について検討するには、広告媒体に関して提起された裁判を参考にできるも のと思われる。昭和60年6月に判決のあった「ニュー共済ファミリー事件」である。 この事件は、Y社が発行する共済組合員向け月刊誌「ニュー共済ファミリー」に、 「ニュー共済ファミリー特選分譲地情報」と題する分譲地広告が掲載されたことから 端を発する。そこには、掲載されている分譲地が全て優良物件である旨の推奨文の記 載があったこと、Y会社宛の資料請求ハガキの綴じ込み、現地案内係員が共済の文字 が入った腕章をしていたこと等から、Xはそれを信頼して不動産会社A社と接触した。 その社員CがY社の社員であると称し、Aに代わって交渉している旨説明したので、 XはCをY社からA社へ出向し仲介業務をしていると信じていた。結局Xは、広告物 件以外の第三者所有の未造成松林にA社との売買契約を作成し、一部代金を支払った ところ、A社は約定の宅地造成、所有権移転登記手続をせず、宅地建物取引業の免許 取消処分を受けた。Xは、この事実を知り、代金を詐取されたことを知るに至り、Y 社に対し、A社との共同不法行為による損害賠償を請求した。 判決は、A社の詐欺による不法行為を認めたが、Y社が積極的にA社の不法行為に 加担していたものとは認められず、予見可能性も認められなかったが、信頼誘発がY 社に寄せる信頼から惹起している点を認め、広告を見て取引に入る顧客の信頼を裏切 らないようにする注意義務があることを認めた。そして、原告Xが被った損害と前記 注意義務違反の間に相当因果関係にあるとして、損害賠償を認めた。 (東京地判 昭和60.6.27判例時報1199号94頁) このように広告媒体の責任を認める裁判例や、取引関与者の責任を認める学説の動 向を鑑みると、仮想モールについても法的責任が発生する可能性は十分有り得る。ま た、最近の消費者保護の傾向を考慮すれば、仮想モールの責任はより重くなっていく ことが考えられる。
<仮想モール運営者・出店業者間の関係について> 上記で述べたように、仮想モールの法的責任が認められる可能性は高いが、それで は、仮想モールの果たすべき義務とは何であろうか。これまでの判例から、広告媒体 には広告主の信用を調査・確認する義務があると考えられる。しかし、既存のメディ アでは事前の調査・確認は有効かも知れないが、インターネットのようなオープン・ ネットワークにおいて果たして妥当であろうか。インターネットを利用した電子市場 の魅力の一つは、誰もが参入でき、ニッチを狙うベンチャー企業が容易に起業できる ことである。全国的な流通には載らないようなニッチ市場をターゲットにすることが 小規模企業によって行えることも、電子市場の場の魅力である。そうだとすれば、信 用力の事前の調査・確認義務はベンチャーの芽を摘みとることに繋がりかねない。む しろ、参入はオープンだが、一旦信頼を破壊する行為を行った業者に対しては、厳格 に排除する仕組を作るべきである。そうすることで、電子市場の信頼回復・信用維持 を図るべきである。しかしながら、解約は法的トラブルに発展しやすい領域であり、 特に注意を要する。そこで、仮想モールによる不良業者に対する強制排除権・懲罰的 排除権として、解約の問題を検討していくべきであることを提案したい。
<評価型・格付型仮想モール> 悪質業者・不良業者ではなくても、仮想モール運営の方針・サービスから、適宜解 約を行わなければならないケースがある。評価型・格付型仮想モールである。それは、 自己の信用を基に業者やその商品を評価し、格付を行う。評価が高ければ、仮想モー ルに掲載し、逆に評価が低くなれば、掲載から外されることになる。これは、仮想 モールの新しい付加価値サービスと言える。しかし、これにも、力の弱い企業が力の 強い仮想モールに排除されることになり不当なのではないか、という批判が考えられ る。この点を検討していくには、解約に関する法的処理の2つの基本理念のバランス を考えていく必要がある。それは、「弱者保護」理念と「自由競争」理念である。筆 者の考えとしては、これまでやや判官びいき的な判断に傾きすぎていた嫌いがあるよ うに思われる。契約自由の原則から、「本来終了すべき時には終了すべき」と判断す ることが、もう少し増えてもよいのではないかと考える。 また、上記に理念と、消費者保護・生活者保護の理念とは、別の次元で重視される べきことであることを強調しておきたい。
<提言:信頼創造のプラットフォーム>
(1)今後も仮想モールが続々誕生すれば、仮想モール間の競争も激化するであろう。
将来の競争優位の確立や、媒体価値を向上するためにも、仮想モールが積極的に信頼
担保の機能を果たすべきである。
一方、広告媒体責任を認める動向等からみて、仮想モール運営者が全く消費者に対
して法的責任を負わないと考えることは困難であろう。そうであるならば、仮想モー
ルはやはり積極的に信頼担保機能を果たすべきである。
(2)仮想モール運営者と出店業者間で発生の恐れのある法的問題に対応する為に、
仲裁機関等の第三機関の創設についても今後検討し、不良業者の強制排除が適正且つ
迅速に行えるシステム作りの必要があることも提案しておきたい。
全ての問題の解決は困難を極めるが、法的問題を解決する努力は続けていかなけれ
ばならない。インターネット時代に入り、問題の全てをあたかも突然降って湧いた問
題であるかの論調をされがちだが、本稿で検討したように、実は既存メディアでも問
題となり得たものに対して、十分な議論をしてこなかったにすぎないというものも多
い。このような検討が、電子市場・電子商取引の環境整備につながり、新しい時代の
ビジネスが成長する基盤が生み出されることを期待してやまない。
以上 (Shuichi Fujita)