慶應義塾大学大学院 経営管理研究科(M23)
國領研究室 村田 慎
本稿は、インターネットの企業間取引(B2B)への適用が業界に与えるインパクトを考察することを目的に、日用雑貨・化粧品業界を題材に事例研究を行ったものである。具体的には、事例研究を通じて、「インターネットは、業界を革新する力を持つのか」「インターネットを企業間取引に有効に活用するにはどのような取組みが必要なのか」かというポイントを考察する。
今日、日用雑貨・化粧品業界は、グローバルな再編の影響も受けながら“消費者起点のサプライチエーン構築”に向けた構造変化の中にある。
消費者起点のサプライチエーンとは、消費者の満足を満たしながらも付加価値を創出するメーカー・卸・小売が、各々、規模の経済性や範囲の経済性を発揮して、適正な利潤を上げられる仕組みである。
しかし、メーカー・卸・小売を通じたトータルな生産・流通プロセスにおいて、「需要予測に基づく在庫の情報的処理」、「中間流通における品揃え形成、扱いロットの拡大」を通じた投機型システムのメリットを追及することが、重要となる。
その際、インターネットが提供するTCP/IPによる高い接続性とWEBから得られる高い可視性は、そのような生産・流通プロセスを効率よく実現する基盤技術となりうる。また、その為には、組織間協働の促進、取引インターフェースの標準化が同時に達成されなければ、その効果は限定的なものになってしまう。
日本の日用雑貨・化粧品業界においては、“帳合”などメーカー別縦割流通の商慣行が、卸・小売間における情報流や物流の効率化の阻害要因となり、需要予測の精緻化、中間流通における品揃え、扱いロットの拡大を困難にしている。
しかし、今回の事例研究では、企業活動のグローバル化、インターネットによる革新への期待が高まる中、いよいよ、日本においても、メーカーの取引制度改革、小売の直接取引戦略、卸の自己改革など、そのボトルネック解消への動きが観察された。
本稿における事例研究は、「欧米企業のグローバル展開と日本市場への影響」と「日本企業の環境適応戦略」の2つのテーマから構成されている。各事例の要旨は下記の通りである。
<GCIとeMarketplace>
欧米の消費財企業がグローバル活動を強化する中、1999年以降、2つのことがおきた。1つは、インターネットをベースとした取引基盤の構築に向けたGCI(Global Commerce Initiative)などの標準化機構の設立と、2つ目は、GNX(Global Net Exchange),WWRE(WorldWide Retail Exchange),TransoraなどeMarketplace構築を通じた合唱連衡である。
消費者起点のサプライチエーン構築がインターネットと結びつきグローバルに展開されようとしているのである。
これらの試みが果たす機能は、まだ限定的ではあるが、潜在的な競争圧力となり業界企業の革新を促している。
<P&G>
グローバルメーカーの日本法人による取引制度改革が中心テーマである。消費者起点のサプライチエーン再構築とインターネットを軸とした取引基盤構築への動きが出てくる中、合理性を失った日本の商慣行に改革の先鞭が付けられた。リベート、建値制度が廃止されると共に、透明性、簡潔性、公平性を旨とする制度が実施される。この制度が目指すのは、製・配・販を通じたマーケテイングとロジステイックスの統合である。また、情報ネットワークで結ばれた企業間協働に向けた仕組みも、盛り込まれている。
「日本企業の環境適応戦略」
<イオン>
日本の大手小売は、規模と収益性の面で欧米企業の後塵を拝している。その中、グローバルな視点から経営戦略の再構築をイオンがスタートさせた。グローバルeMarketplaceであるWWREへの参加を通じたグローバルソーシングの強化とメーカーとの直接取引を志向する国内物流の再構築である。これは、従来、メーカーや業種毎に系列化された卸売業による中間流通を前提にした日本の流通構造に大きな衝撃を与えるものであり、取引先との軋轢を抱えながら改革はスタートした。
消費者起点のサプライチエーン構築に向けて、メーカーと卸の帳合制度が阻害要因となる中、卸売業の自己改革も始まった。
その中、2000年末に日本で事業を開始した仏カルフールと取引をする日用雑貨卸・中央物産の取組みは、一つの方向性を示している。ABC会計を利用した中間流通サービスの「可視化」と「値付け」である。クリアにされた中間流通のコストは、信頼に基づく企業間協働に結びつく。
日用雑貨業界のVAN運営会社プラネットは、メーカー・卸間のEDIの基盤整備だけでなく、業界のビジョンリーダーとして、いち早く消費者起点のサプライチエーン構築に尽力してきた。インターネットの登場や、顕在化し始めた流通構造の変化は、同社にとって大きな成長機会でもあり潜在的脅威ともなっている。
これらの事例研究からの含意としては、インターネットは、消費者起点のサプライチエーン構築において企業間取引を効率化させる大きなオポチュニテイを提供する。同時に、インターネットは、主体を結合する力を持っており、その主体が大規模でその活動がグローバルであればあるほど、その業界の革新を促進する要因となりうる。
しかし、その影響が持続的なものとなるには、業務プロセスの変革を伴うものでなければ、技術の問題以前に、その効果は限定的なものとなってしまう。
消費者起点のサプライチエーンとインターネットが結びついた行く先は、サプライチエーン参加企業、各々の企業価値の提示とその合計値による競争である。そのためには、自社のコアビジネスの強化と信頼関係に基づく組織間協働を促す仕組み作りと業界全体での競争と協調によるスパイラルな高度化を重視する企業姿勢が何よりも重要となる。
以 上