「情報財の収益モデル −デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境における音楽情報財の収益モデル−」
服部基宏
1. はじめに
インターネットに代表されるメディア環境のデジタル化・ネットワーク化により、パッケージメディアの制約を越えた情報の流通形態が登場し、低コストで誰もが簡単に楽曲の受信、複製、改編そして発信が可能となった。音楽業界の収益モデルにおいては、基本的には、レコードなどのパッケージメディアに音源を固定し、その音源にかんする複製権を中心とした排他的独占権と、音源の複製やその流通にかかわる技術や資産を独占的に有することが、その収益の主要な源泉であった1)。
ところが、新しいメディア環境においては、一般の消費者が低コストで簡単に音源を複製し公衆にそれを流通させることが可能になり、レコード会社、卸、小売、消費者、という旧来の楽曲流通の枠組みが揺らぎ始めている。こうした現象は、ブロードバンド化が進展するメディア環境においてますます加速すると考えられるが、既存の著作権制度や音楽業界の収益モデルでは十分に対応できないことから、音楽業界のありかたに大きな影響を投げかけている。例えば、公衆送信権や送信可能化権などの著作権法改正(1998年)のように新しいメディアにあわせた権利構築や2)、米国におけるNapster裁判(1999年)において、新しい収益モデルを掲げた企業と既存のレコード会社が衝突した事例は記憶に新しい3)。
情報財の価格に目を移すと、デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境における情報財の取引において、価格が平均的・長期的にゼロに近づいてゆくことが指摘されている(国領、2000; Shapiro and Varian,1998)[1]。そもそも情報財は社会的限界コストがゼロ円であるという公共財的な特性をもっている。インターネット上では、情報財の複製や流通などの限界コストが殆どタダに近いことにより、市場競争化では、価格がゼロ円になるまで値下げ競争が継続するからである4)。
それらの対策として、レコード会社のように情報財を扱う企業にとっては、著作権制度や法の実効性を強化して既存の収益モデルを確保する方向が考えられる。例えば、既にスーパーCDという他のメディアに録音できない形式のCD販売が検討されている[2]。また、技術的保護手段の回避規定(1999)などは、既存の収益モデルの実効性を強化しようとするものである。一方、消費者間での自発的な情報財のファイル交換を利用したものや、無償デジタル財を利用したものなど、新しい収益モデルが出現している。これらは権利の保護と言う側面からは両極にある収益モデルであるが、これら収益モデルを設計する際の本質的な課題は、ネットワークの特性や情報財の特性を活かしながら、新しい消費者ニーズを疎外せずに、いかに収益を確保するかということである。例えば、音楽産業におけるレンタルレコード(やビデオ)の事例では、CD(やビデオ)をレンタルしてダビングまたは視聴するという新しい消費者のニーズを取り入れることにより需要を拡大することに成功した。情報財の収益モデルは、新しい技術や消費者の消費形態によって柔軟に対応することが重要であるといえる。
本稿は、それらの観点から、レコード会社における音楽情報財の収益モデルを題材にし、デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境と新しい情報財の収益モデルにかかわる先行研究を概観しながら、そのようなメディア環境にたいして情報財の創作者・伝達者が、どのような収益モデルを検討すべきかという視点を提示することを試みるものである。
具体的な問題設定は以下である。
1)音楽情報財の収益モデルの類型はどのようなものか?
2)音楽情報財の収益モデルの母体となる消費者像はどのようなものか?
2.1 情報財の収益モデル
情報財の収益モデルをデジタル化・ネットワーク化されたメディア環境との関連で論じた先行研究は多くはないが、代表的なものとして、国領(2000)、Shapiro and
Varian(1998)そしてDyson(1997)の研究がある。ここでは、それらの研究をレビューすることにより、音楽情報財の収益モデルを検討する上での課題を考察したい。
2.2 国領の収益モデル
国領(2000)の整理では[3]、情報財の収益モデルにおいて、収益を最終的に何の希少性に帰着させているかという点に着目し、情報財の収益モデルの類型を分類している。分類にあたっての軸は、(1)希少性、(2)支払い主体を採用している。この分類における特徴は、情報財の収益モデルを検討する際に、提供価値と収益ドライバーを分離していることである。そのために、例えば、情報財はタダで提供し(提供価値)それ以外の補完財(グッズなど:収益ドライバー)で収益をあげるというようなモデルの類型化が可能になる。
このモデルは、現実にある収益モデルの客観的な分類を目的とするため、収益の源泉を物財やサービス容量といった物理的な希少性に還元している点に特徴がある。定量的な分類によるマクロ的な分析をするにあたっては有用であり、収益モデルの日米比較や時系列比較などの分析に適している。その収益モデル類型を図示すると以下のようになる。
図2-1 収益モデルの類型(出所:国領、2000)
*( )は筆者の加筆
情報の受信者からいただく
擬似物財型(物財の希少性:ダウンロード)
物財帰着型(物財の希少性:物品販売、手数料)
サービス帰着型(サービス提供容量の希少性:会費)
情報提供者からいただく
物財帰着型(物財の希少性:仲介、サイトへの出店手数料)
サービス帰着型(サービス提供容量の希少性:会費、広告料)
2-3 Shapiro and Varianの収益モデル
Shapiro
and Varian(1997)のモデルの特徴は[4]、市場における情報財の取引について、(1)「インフォメーション製品に対する価値判断は個々の消費者によって大きく変化する」ことを前提とし、(2)そのような消費者に対しインフォメーション製品を消費者セグメントにあわせて「バージョン化」することにより、情報財の価格の維持または競争優位の確保が出来ること主張している点である。また、デジタル化・ネットワーク化の特徴と情報財のコスト構造を利用した、コンテンツの無料配布による収益モデルも示している。その結果導出された “Versioning-Free Version” は、国領(2000)の主張する「サービス帰着型」や「物財帰着型」とほぼ同様のものである。Shapiro and Varianのモデルの概要と事例は以下の通りである。
•Delay: PAWWS Financial Network
•Convenience: AOL
•Comprehensiveness: New
York Times
•Manipulation: Borland
•Community: Silicon
Investor
•Annoyance: Silicon
Investor
•Speed: Wolfram
Research
•Data Processing: H&R
Block
•User Interface: Adobe
•Image Resolution: PhotoDisk
•Support: Netscape
•Building
awareness: Computer
game
•Gaining Follow-on Sales: McAfee
Associates
•Creating a Network: Adobe
•Attracting Eyeballs: Playboy
•Gaining Competitive Advantage: Microsoft
2-3 Dyson(1996)の収益モデル
Dyson(1996)は、現実的に存在する情報財の取引形態を解釈的に類別し、「情報の価値を収益に結びつけるモデル」として、以下のように分類した[5]。
定期購読
パフォーマンス
知的サービス
電子知的サービス
メンバーシップ・サービス
オフライン会議
製品サポート
派生商品
広告
スポンサーシップ
複製販売
国領(2000)の指摘する通り、Dysonのモデルは「結果としての」収益モデルであり、根源にどんな要素が存在しているかが明確でないために、体系的な理解が困難である[6]。しかしながら、企業が収益モデルを採択するための選択肢の抽出という意味においては、現実に考えられるほぼ全ての取引形態を含むと考えられる。その結果として、市場取引とは異なる「スポンサーシップ」という後援や寄付のようなモデルも取り扱われている。また、情報財の使用は無料にし、サービスや実演などで収益を上げるモデルにかんしては、著作者人格権が保護されることを前提にしている。著作者人格権に固執しない創作活動との住み分けにかんしては、著作者人格権を保護したい創作者や企業が、他の人が創作した2次使用を許すなど著作者人格権を放棄したコミュニティーと距離をおくことで、自然に住み分けが図られるとの考えを示している。
2-4 各モデルのまとめと仮説構築
以上3者の主張する収益モデルを見てきた。これら3者のモデルは、デジタル化・ネットワーク化された環境における情報財の収益モデルのあり方を問題意識とし、情報財の特徴、メディアの特徴そして消費者意識の特徴といった様々な観点から、新しい収益モデルの可能性を論じたものである。そのような観点から3者の理論(国領、Shapiro and Varian、Dyson)の要点をまとめると以下のようになる。
(1) 情報財を無料で流通させ、情報財以外の財・サービスで収益を上げる(提供価値と収益ドライバーの分離)
(2) 情報財における顧客の価値判断の多様性に着目し、情報財自体を差別化させて顧客セグメントにフィットさせ、市場における価格圧力に対抗する(Versioning)
(3) 非市場取引により収益を上げる(スポンサーシップ)
これらの要点を援用しながら、筆者の問題設定である「レコード会社のビジネスアプローチ」への提言という視点で収益モデルをとらえなおし、実証可能な仮説に落とし込まなければならない。そして、今回採用したのが、以下の仮説である。
<仮説−1> 「取引形態:市場−非市場」そして「権利の運用管理:統合−分散」の2軸で分類出来る。それによって得られる収益モデルは次の4つである:「無償著作物モデル」、「有償著作物モデル」、「再配分モデル」、「互酬モデル」。
<仮説−2> 収益モデルそれぞれにたいし、それを支える消費者クラスターが存在する。
それらの仮説をまとめて素描すると、以下の通りとなる。
図2.2 情報財の収益モデル仮説(収益モデル類型)
市場における取引
無償著作物モデル
・物財帰着型(補完財)
・サービス帰着型(補完財)
・認知限界帰着型(広告など)
有償著作物モデル
・複製や使用料請求(CDなど)
非市場における取引
互酬モデル
・社会的関係により収益を上げる(寄付、投げ銭)
再配分モデル
・ 主体は国家や自治体、政治的決定により収益を上げる
図2.3 情報財の収益モデル仮説(分類軸と収益モデル類型、および消費者クラスター)

2-5 「取引形態:市場−非市場」の軸
2-6 「権利の運用管理:統合的−分散的」の軸
今回採用したもうひとつの軸が、「権利の運用管理」である。これは、財・サービスを提供する主体が、市場・非市場それぞれにおいて有する権利の運用管理を、その主体が統合的に行うか分散的に行うかという発想によって分類を行おうとするものである。その結果として、「取引形態」と「権利の運用管理」の軸により4つの収益モデルが得られることになる(ネーミングは筆者による)。
2-7 2つの軸によって得られる4つの収益モデル類型
まず市場における権利とは、基本的にはレコード会社が有する複製権である。それを分散されることは同権利を緩めるあるいは主張しないと考え、情報財をタダで流通させ補完財で収益を上げるようなモデルに相当する(「無償著作物モデル」)5)。逆に、これを統合的に行うことは、著作権やその実効性を強めることにより収益を上げるモデルに相当する。旧来のパッケージメディアによる収益モデルはこれに分類される(「有償著作物モデル」)。
非市場における「権利の運用管理:統合的」とは6)、国家や自治体が、国民の承認に基づいて行うような政治的権利を示し、いったん中央によって集められた税金が再配分されるようなモデルである。一般的に文化政策と言われるモデルがこれに該当する(「再配分モデル」)。「権利の運用管理:分散的」とは、権利をコントロールするような中央が存在せず、取引をする当事者が相対的に交換を行うモデルである。寄付や投げ銭がこれに該当する(「互酬モデル」)。
2.8 消費者クラスター仮説
情報財における消費者は多様である(Shapiro and Varian,1997年)という着眼点から、上記で得られた収益モデル類型にそれぞれ異なった消費者クラスターが存在する、ということを仮説とした。これを明確にすることにより、各収益モデルにどのような消費者クラスターがその母体となっているか、また、そのクラスターの属性を探ることにより、情報財の収益モデルが今後どのように変化するかを暗示できると考えられる。
3.1 実証方法
本章では、前章で導出した仮説の実証方法についての説明を行う。情報財の収益モデルの分類軸とモデル類型にかんしては、レコード産業に関連する事例研究による意味解釈法を用いる。それに対応する消費者像にかんしては、消費者アンケートによる統計帰納法を用いる。具体的な実証のフレームワークを以下に述べる。
3.2 仮説1:情報財の収益モデル仮説の実証
先行研究からの理論的な分析により導出した筆者の仮説(仮説1)の有用さを検証するために、レコードに関連した産業の事例研究を行う。それらの事例を筆者の仮説との対比から分析することによりどのような知見が得られるかを点検する事で、解釈的に仮説の確かさを確認する。事例の選択は、日本のレコード会社のトップ企業である「ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)」、「Napsterをとりまく音楽産業」そして「音楽にかんする非市場的取引」の3つの事例とした。分析のポイントは、デジタル化・ネットワーク化されたメディア環境において、レコード会社(楽曲の創作者・伝達者)がどのような収益モデルの採択を行っているか、また収益モデルはどのような方向に向かっているか、そしてその課題である。それらを筆者の収益モデル仮説を用いて有効に説明できるかが実証のキーとなる。
3.3 仮説2:消費者クラスター仮説の実証
消費者クラスターにかんする筆者の仮説の実証を行うために、消費者にたいするアンケート調査を行った。
消費者クラスターを導き出すための第一ステップとして因子分析を実施する。因子分析とは多数の質問項目に潜在する共通の変数を圧縮し、より少ない変数で音楽の消費意識の特徴を明確にする手法である。今回は音楽消費にかんする幅広い意識を20個の設問について「1. あてはまる」〜「5. あてはまらない」の5件法で質問を行う。その結果得られた因子と質問文の因子得点量を並べた因子負荷行列を作成し、これを手がかりに因子の解釈とネーミングを行う。次に、因子分析によって得られた被験者の因子得点をもとクラスター分析を行い、類似した被験者をグルーピング(クラスター化)する。これらのクラスターの各因子への反応の違いをもとに、各クラスターの特性の解釈とネーミングを行う。最後に、各収益モデルにあてはまると考えられる20個の具体的な質問項目を用意し、「1. 非常に魅力を感じる」〜「5. 全然魅力を感じない」の5件法で質問を行う。各クラスターのサービスへの反応をもとに、相対的にどのようなサービスへのニーズが強いかの解釈を行う。それにより各クラスターとサービスの関係を考察する。
4.1 事例研究:ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)
SMEの2001年3月期の売上高(単独)は、前年比13%減の1028億8700万円に落ち込んだ[7]。SMEをとりまくビジネス環境は、不景気による国内消費の厳しい状況が続き、少子高齢化という社会構造の変化、デジタル技術の進歩と通信ネットワークの拡大、DVDなど新しいメディアの登場、流通再編、そして消費者ニーズの多様化などの要因が絡み合い複雑化してきている。レコード業界でトップとして生き残るためには、これらの外部環境を様々な角度から分析し、収益の確保に向けて対応策を講じることが急務となっている。SMEは、こうした状況を踏まえつつ、売上の増加と利益水準の早期回復を図るため、いくつかの戦略的な施策を実行している。
SMEは、総合エンタテインメント企業として消費者の多様なニーズに応えるように、旧来のCDや著作権保護がなされたダウンロード(「bitmusic」)などの「有料著作物モデル」による収益確保を事業の柱として置きつつも、著作権の「権利の運用管理」にバリエーションを持たせて新たな収益モデルを実現している。例えば、デジタルコピー防止技術を用いた音楽CDの試験的な導入は「権利の運用管理」を統合化した例である[8]。2001年10月7日にリリースされたMichel Jacsonの新曲を対象に、ラジオ局などに提供するプロモーション用CDは、CDプレイヤーのみでしか再生できなくした。一方、「無償著作物モデル」の可能性も検討し始めている。2001年6月にブロードバンド専用サイトとしてスタートした「MORRICH」は、「無償著作物モデル」に近い事例である。「MORRICH」は、ネット配信を広告・販促活動の一環として捉え直し、無償でプロモーションビデオなどのコンテンツ(著作物)を配信し、収益は補完財から徴収しようというコンセプトで作られている[9]。「MORRICH」では配信にかかるコストは広告・販促費の扱いになる。ブロードバンド時代にレコード会社はどう対応していくかという問題に、SMEは「補完財や既存ビジネスとの連携で利益を上げる」という新しい収益モデルを模索し始めたのである。SMEの「無償著作物モデル」の試みは「MORRICH」以外にも波及している。2001年9月にはSMEのポータルサイトである「Sony Music Online Japan」でも「MORRICH」と同様のコンセプトで、24時間新曲のプロモーションビデオが無償で視聴できるコーナー「ビデオクリップ24」を開設した[10]。無償の楽曲映像を見て、気に入ったらその場でダウンロード購入をすることが出来る。ここでは、常時30曲程度の楽曲を用意しており、約45秒間の試聴ができる。コンテンツは動画であるが「MORRICH」とは違い一般回線でも利用できるようにしている。CDや公演、イベントなどのアーティスト関連情報もその場で検索することが可能になっており、関連商品の販売を促している。
また、ソニーは、特定公益増進法人である(財)ソニー音楽芸術振興会を有し、非市場における音楽事業を行っている。「再配分モデル」の主体は国家や自治体であるが、その承認・管理下に置かれる点で、広義の「再配分モデル」に該当する事例として分類出来る[11]。
4.2 事例研究:Napsterと音楽産業
P2P技術を中核にして音楽産業に新規参入を果たしたNapster Inc.,(以下Napster)を「無償著作物モデル」の事例として取り上げる。同社はネットワーク上で音楽ファイルの交換が無償できるサービスを提供し音楽ファンの囲い込みに成功した。Napsterは、インターネットを介して同社のサイトに接続するユーザーのPCのハードディスクに保管されたMP3音楽ファイルを一覧表示し、ユーザーが聴きたい曲を検索して他のユーザーのPCから自由にダウンロードできるようにするサービス(いわゆる「オンラインスワッピング」)を無料で提供した。「Napster」はソフトウェア公開後、米国の大学生を中心に瞬く間に世界中に広まっていった。1年余りで「Napster」ユーザー数はのべ4000万人に達し、利用者は音楽ファンや若者に限らず一般消費者の心も捉え、社会現象となるまでに成長していった[12]。
しかし、「Napster」には著作権者らから許諾を受けた合法的な音楽ファイルと違法コピーのファイルを識別する仕組みがなく、「Napster」が消費者の間に普及してゆくとともにインターネット上に違法コピーが蔓延するようになってしまった。この問題がレコード会社やアーティストに大きな衝撃を与え「Napster裁判」に発展した[13]。同社は設立当初、その集客力をもとに広告収入で収益をあげようと計画していたが、著作権侵害で全米レコード協会やアーティストに提訴され、そのサービス内容と収益モデルの見直しを余儀なくされることになった。
2001年6月、NapsterはBertelsmann、Warner Music Group、EMI Record Music、RealNetworksの合弁会社「Music Net」と楽曲の配信で提携関係を結んだ。現在は、大手レコード会社BMGの親会社であるBertelsmannと提携して、会員制の音楽配信サービスとして新たに生まれ変わろうとしている[14]。
「Napster」にたいして反対するアーティストがいる一面で、P2Pという新しい流通手段の出現により、アーティストの音楽活動の機会は増加したともいえる。レコード会社に依存しないで独自で楽曲を発信する手段を獲得したのである。これまでアーティストが音楽を世の中に向けて発信する手段は、実演するか、楽曲をパッケージ化して流通させるしか方法がなかったわけだが、音楽配信の登場によりパッケージ流通に頼らなくても、ノンパッケージのままで流通することが可能となった。レコード会社と契約を結べないマイナーなアーティストでも、インターネットを使用すれば低コストで簡単に世界中に向けて独自で楽曲を発信することが可能となった。彼等にとって、P2Pを利用した音楽配信は格好のプロモーション・ツールといえる。また、アーティストの中にも「Napster」を支持して自分の楽曲を積極的に無償提供しているアーティストがいる7)。彼等は、レコード会社に依存せずに自らが直接自分を支持するファンを囲い込みたいと考えているのである。このようなアーティストは、楽曲による収益はなくても、ライブやTシャツなどの補完財で収益を上げようとする試みを行っている。
Napsterは既存のレコード会社の収益モデルとの衝突により、安定した収益モデルを構築することが出来なかったが、その集客力やそれを支持するアーティストを見る限りでは、デジタル化・ネットワーク化されたメディアの特性や情報財の公共財的な特性を活かした「無償著作物モデル」の大きな可能性を示していると考えられる。
4.3 事例研究:音楽にかんする非市場取引
Fairtunes.com
Fairtunes.comは、カナダのワーテルロー大学の学生、John CormieとMatt Goyerが2000年に創業したベンチャー企業である[15]。彼等はインターネット上に「Fairtunes」を立ち上げ、「Napster」などのファイル交換サービスを使って楽曲を無償で入手している音楽ファンに対して、レコード会社を通さずに直接的にアーティストに金銭的な支援が出来る場所を提供した。「Napster」などを使用している音楽ファンは、気に入った楽曲やアルバムのアーティストに、「Fairtunes」からクレジットカードを使って安全に寄付をすることが出来る。
Fairtunes.comは、現在のところ収益はあげていない。今のところ「Fairtunes」のサービスは無料で行われており、ユーザーが寄付したお金はクレジット会社の手数料以外はすべてアーティストに支払われる。「Fairtunes」のビジネスモデルは、寄付サービスによる十分なアクセスを確保した段階で、広告による収益を予定している。また、Fairtunes.com自体も寄付対象としてアーティストのリストにリストアップされており、その活動を支持するユーザーからの寄付金による収益も検討している。さらに、同社のロゴ入りのTシャツも販売している。これらを筆者の収益モデル仮説から読み解くと、「Fairtunes」を利用するアーティストは「互酬モデル」で収益を上げることが出来、Fairtunes.comは、広告料(認知限界帰着型)やグッズ(物財帰着型)による「無償著作物モデル」そして消費者からの寄付による「互酬モデル」で収益をあげることになる。集まった寄付金の総額は、サイトを立ち上げてから約1年後の2001年7月で1万ドルを越えた。それらの寄付金は、「Fairtunes」のサイトを経由して、Ani DiFranco、Sarah McLachlan、Phish、David Bowie、Fiona Apple、Tom Petty、The Noisiesなどのアーティストに送られた[16]。
Amazon.com
米国オンライン販売最大手のAmazon.comは、2001年2月28日に自社サイトを通じた音楽の無料配信サービスを始めたと発表した[17]。Eagles、Nirvana、U2、Paul Simon、Pearl Jam、BeastieBoys、Coldplayなどの有名アーティストを含む、数百人の歌手・グループの楽曲数千カタログを無料で提供する。これにより売上が鈍っている同社のCD販売部門の活性化を狙っている。Amazon.comでしか入手できない楽曲や独立系アーティストの楽曲を提供して無料配信の規模拡大を目指す。このサービスの注目すべき点は、楽曲の無料配信とあわせて仮想の「チップ箱」を設置していることである。音楽ファンはクレジットカードで寄付が行うことが出来、自分が支持するアーティストを支援することが出来る。集まった寄付金は、アーティストが70%、Amazon.comが30%の比率で配分される。
今回のサービスでは、ユーザーはAmazon.comのページから音楽ファイルを無料でパソコンにダウンロードして再生出来るが、一定の期間を過ぎるとダウンロードしたファイルが再生できないようになっている。楽曲の自由な流通を実現しながらも、ある一定期間以上においては著作権の保護に配慮すると同時に、ネット上でのレンタル事業の展開の可能性を持たせている。
Amazon.comの音楽販売部門責任者、Greg Hartは、「今回の計画の目標は、基本的に、われわれがこれまでやってきたことを劇的に拡大することにある。これを、Amazon.comの既存の販売部門との統合をいっそう進める形で行っていく」と述べた[18]。
4.4 事例研究:まとめ
本節では、筆者の情報財の収益モデル仮説に従って、「ソニー・ミュージックエンタテインメント」、「Napsterと音楽産業」そして「音楽にかんする非市場取引」の事例研究を行った。これらの結果、「権利の運用管理(統合的−分散的)」そして「取引形態(市場−非市場)」というフレームワークを使って事例を説明・解釈・整理出来ることにより、仮説1は実証されたと考えられる。今回の事例を、筆者の「収益モデル」を用いて素描しておく。
@ P2Pによる「無償著作物モデル」の取り込み:「Pressplay」、「MusicNet」。「無償著作物モデル」を利用したプロモーション:「MORRICH」→「権利の運用管理」の分散化
A コピー防止技術付きCDの導入→「権利の運用管理」の統合化
B ダウンロードによる楽曲有料配信:「Bitmusic」→「有償著作物モデル」の多角化
C 大手レコード会社との戦略的提携:「Napster」→「MusicNet」
D アーティストのP2P活用による「無償著作物モデル」の取り込み:Alanis Morissetteら
E 「無償著作物モデル」と「互酬モデル」の組合わせ:「Fairtunes」、「Amazon.com」
F ソニーグループとしての「再配分モデル」の取り込み:「(財)ソニー音楽芸術振興会」
図4.5 収益モデル仮説と事例研究まとめ

5.1 消費者アンケート調査
調査対象:日本国に居住する自宅用にインターネット接続環境を有する男女個人
調査方法:クローズドアンケート(質問票をHP化)8)
実査期間:2001年10月29日〜11月05日
有効回答:合計1324票、年齢・性別による票数は以下

5.2 音楽消費にかんする消費者クラスター:仮説2の検証
音楽の消費意識に関する質問20項目を手がかりに因子分析(主因子法・Kaiser の正規化を伴うバリマックス法)を行った。因子負荷量0.50以上(絶対値)を採択したところ、音楽消費に関する潜在的な因子数として4つが得られた。各因子に対応した質問事項における因子負荷量を手がかりに、因子の解釈を行い、4つの因子のネーミングを行った。その結果、同調、関係、探索、保守の4つの因子が得られた。因子負荷行列詳細については資料1を参照のこと。
図5.1 因子のネーミングと主要な意識項目

続いて、クラスター分析により、各被験者の4因子への反応の違い(因子得点)をもとに、音楽消費について同じ志向を持つグループに分ける作業を行った。その結果、特徴を異にする4つのクラスターが得られた。全体を概観すると、同調、保守、探索の因子に際立って反応する3つのクラスターが確認できる、しかし、関係因子への反応において特徴的なクラスターは確認できない。各クラスターの因子への反応を総合的に検討し、同調・社会・主流・自立派というネーミングを行った。
同調派クラスター:保守、関係、探索因子にたいする反応は総じて平均以上であるが、同調因子にたいする反応が4つのクラスター中で際立って高い。よって、このクラスターを同調派クラスターと解釈することが可能である。
社会派クラスター:このクラスターは他のクラスターと比較すると、保守因子が際立って高いとともに、関係因子も最高得点を示している。保守・関係因子双方が最も高いことを解釈し、よりふさわしいネーミングとして「社会派クラスター」と名づけた。
主流派クラスター:全ての因子において、ほぼ平均値であることが特徴である。このクラスターは音楽における一般的消費を代表するものとして、主流派とネーミングした。
自立派クラスター:このクラスターは探索因子にたいし際立って高く反応し、また保守因子にたいしても高い反応を示している。同調因子と関係因子については平均以下であった。探索因子、次に保守因子の高さを解釈して、「自立派クラスター」と名前を付けた。
図5.2 音楽消費の因子得点によるクラスター化

5.3 各クラスターにおけるサービスニーズ
以上で音楽にかんする消費者のクラスターが得られたが、仮説2の実証のために各クラスターにたいし、情報財の収益モデル各々を代表するサービスを2項目づつ合計8項目の質問を行った(「1.非常に魅力を感じる」〜「5.全然魅力を感じない」の5尺度)。「1.非常に魅力を感じる」と「2.まあ魅力を感じる」を選んだ被験者の合計人数を分子とし、各クラスターの全人数を分母とする比率(%)で集計した(図5.3)。
図5.3 クラスターとサービスニーズの関係

その結果、各収益モデルには、特徴的に異なった消費者クラスターが存在することが得られた。従って、仮説2は採択される。情報財の収益モデルとそれに強く反応する消費者クラスターを対比したものが以下の図5.4である。本調査の目的は各収益モデルを支えるクラスターを明確にすることなので、サービスに相対的に強く反応したクラスターを選び出している。
図5.4 クラスターとサービスニーズの関係
|
情報財の収益モデル |
相対的に高いニーズを示す消費者クラスター |
|
有償著作物モデル |
社会派クラスター、主流派クラスター |
|
無償著作物モデル |
自立派 |