修士論文要旨 萩原留美
論文題名:企業買収における人的資源内部化のプロセス
−技術系新興企業買収におけるPMIの実例−
本論分では企業買収を通じた人材の獲得と買収後組織への統合を人的資源の内部化と捉え、内部化された人材を維持し活用する方法と併せて研究のテーマとしている。焦点を大企業による技術系新興企業を対象とした買収に置き、業界や市場の特性に依存した内部化プロセスの決定要因を分析し,通信機器産業に属する米国の二社を取り上げ事例研究を行っている。
本論文は次の問題意識と狙いに基づいて作成されている。進歩の著しい産業において競争優位を目指す企業にとって、買収は必要な能力を持つ人材を獲得する手段としての有効性を高めている。昨今の米国情報技術産業の中で頻繁に見られる買収のモデルは、高株価に支えられた大企業が株式交換を利用して新興企業の買収を進めるという形である。この産業では、過去に実績のある企業といえども、既存の内部資源を用いた研究開発に固執していては技術進歩のスピードに遅れをとってしまう。そこで、革新的な技術をもつ新興企業の買収が経営戦略上の重要性を増しているのである。技術系企業の買収は、その時点で完成された技術を利用する権利だけでなく、将来に亘り価値を生み出す可能性をも獲得することを意味する。
一方、産業分野に拘わらず、企業が成長を維持し差別的優位性を持続する鍵は、内部化された人材の能力をいかに最大活用するかという点にある。。人的資源は企業が他の経営資源を活用する能力を決定付ける要因であり、企業間で異質性が最も著しい経営資源であるからだ。しかし人の行動をコントロールするのは、経営者と従業員という関係であっても大変に難しい。特に買収する側とされる側の企業が異なった組織文化をもっている場合には、人材に絡む問題は深刻さを増す。
事例研究の結果、以下の事柄が発見された。新興企業の買収を通じて人材の獲得と維持活用に成功する企業は、独自のM&Aプロセスを確立し社内で共有していること、買収後の統合を円滑に進めることを主な役割とするPMI専任マネージャーが存在すること、被買収企業において象徴的リーダーの役割を果たしていた人物を買収企業の幹部に登用していること、の三点である。また、事例企業の現状では、買収後の統合方法や金銭的インセンティブが人材の意地に重要な役割を果たしていることも明らかになった。
以上の研究を踏まえ、論文の最後には日本の情報技術系企業の経営者に向けた提言を述べている。まず、新興企業買収の重要性を認識し、経営戦略の文脈の中で検討すること。次に、新興企業の組織文化や自社との類似点・相違点を理解した上で買収後の統合をいかに進めるかを密に構想すること。最後に、M&Aに関連する国内法規制の緩和を条件とした報酬制度を組織再編と組み合わせ、買収の目的に合わせ最適化することである。