所属ゼミ

國領  研究会

学籍番号

89928019

氏名

蘆田 暢之

(論文題名)

 

デジタル教育コンテンツのプラットフォームビジネスの提言

 

MBA遠隔教育ビジネスの一考察

 

 

 

(内容の要旨)

 

 インターネットを中心とする高度情報化社会の出現により従来の常識では考えられなかった新しい教育パラダイムが出現しょうとしている。「デジタル教育コンテンツのプラットフォームビジネス」と定義されるそのビジネスモデルに関して、最初に当研究では文献調査によりネットワーク時代の情報財の経済的特質を明確にし、アメリカにおける最新の事例研究と日本における事例研究、実証研究に参画し日本における最適なビジネスモデルの提言を行った。

 筆者は文献調査によりネットワーク時代の情報財のビジネスモデルにはバージョニング、収穫逓増の法則と、情報の非対称性の逆転現象が働くことを確認した。

 次に、アメリカ企業の事例をネットワーク時代の情報財の特質というフレームワークで分析すると、彼らの多くのビジネスモデルは非同期を中心としたマス対象の収穫逓増型ビジネスを狙っているように伺える。しかし、本論文で取り上げたアメリカ企業のモデルをMBA等の高等教育に応用するのは「財」そのものの特徴とインターネット技術が現状ベスト・エフォートの上に成立していることから困難であるように思われた。つまり、高等教育であるMBAコンテンツは陳腐化のスピードも早く非同期デジタルコンテンツを多額の資金を投資して開発し回収すること自体が疑問視されるからである。よって、筆者は現状「収穫逓増時代の収穫逓減モデル」、つまり、同期中心で非同期と統合させた遠隔教育モデルが最適なビジネスモデルであることを提言した。

 また、同期中心で非同期と統合させたモデルは最も教育効果があり、授業価値を高くみる傾向にあることも明らかとなった。

 

 

 

 

 

 

Executive Summary

 

1. 研究動機

 

 アメリカではスタンフォード大学をはじめ、いくつものトップレベルの大学がベンチャー企業と共同のもと、より多くのユーザーを対象に遠隔教育プログラムをマーケティングしようとしていたり、インターネットによる履修コースを設け始めている。現在300億円前後といわれている我が国におけるネット教育市場は、2010年には1兆円産業(NTTデータ研究所)に膨らむものと予測されている。社内教育市場が全体の約40%、大学、大学院を含む高等教育市場が約27%、社会人教育市場が約18%を占めるとされ、インターネットを代表とする更なる知識情報化社会の流れから企業あるいは個人においてMBA教育に対するニーズは益々高まっている。しかし、今現在のところ我が国においてそれらの需要を満たす方法を遠隔教育で提供する大学、ビジネスが日本には殆ど存在していない。時代のニーズに答える大学が発展し、過去の伝統にこだわるだけの大学の衰退、倒産が促されるであろう。これからは規制産業である高等教育産業においても市場主義を導入するべきで、消費者の利益を最大化するため教育の担い手にも競争原理を働かせ消費者に選択権を与えるべきサービスを提供する必要があろう。それらの市場ニーズをインターネット、遠隔教育ツールを最大限活用することによって世界中の大学、大学院の優良コンテンツを提供するプラットフォームビジネスの可能性を考察したいという動機でこの研究に着手した。 

 

2. 研究手法

 

 研究手法として、まず文献調査において「デジタル教育コンテンツ」の情報財としての特質を明確化することによってビジネス全体のアーキテクチャを考察する上での基礎データとする。次に、この文献研究によって抽出された特質が情報先進国であるアメリカで競争優位を築きつつあると評価されている企業3(Unext.com社、Pensare社、Quisic)においてどこまで、どのような形で具現化されているかを知るために事例研究及び個別インタビューを行った。なお、アメリカで今現在最も注目されているUnext.com社においてはKelloggの学生との共同プロジエクトとしてUnext社のマネージメントチームに同社の日本進出戦略の提案を行った。

 次に、2000年度、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)で行われた日本初の完全在宅型遠隔授業と教室型遠隔授業の評価を、アンケート、インタビューをベースに行ない、次に、日本における市場規模と競争環境を分析し、最後に、文献研究、事例研究、個別インタビュー、実証研究から得られた知見をもとに、日本における最適な「デジタル教育コンテンツのプラットフォームビジネスの提言」を行った。

 

3.結論

 

遠隔教育は実用段階からビジネス段階へ

 國領研究室では長年様々な形式の遠隔授業実験を行ってきた。その結果として、システム的にもコストパフォーマンス的にも教育効果的にも十分堪えうる運営方法が確立された。

@ 固定費がかからず変動費ベースでの運営が可能

莫大な初期投資を行わなくても、小さな初期投資で受講生にとって高い授業満足

度が得られるシステムが確立した。

A 地方の分散された市場を取り込むことができる

@と同様の理由で、莫大な初期投資をかけずに全国展開することも可能である。

B 更に、都心でのニーズもある

 従来までの研究結果では、近郊地同士での遠隔授業(例えば、日吉と赤坂教室間等)に関しては多少距離が遠くなっても遠隔教室よりも主教室で受講したいとニーズの方が高かったが、今回の実験結果においては、会社もしくは自宅で受講できるのであれば遠隔受講したいというニーズが高かった。

 それを踏まえて、KBSでも20015月から正規のセミナーとして遠隔セミナー(10科目程度)を実施する。

 

現状、全てIPベースで大学院レベルの遠隔教育を行うのはシステム上不安定であり、テレビ会議システムとWeb等を融合させたモデルが最も安定しており信頼できるシステムであること

 本年度、動画・音声等を最新のテクノロジーであるIPV6(Internet Protocol Version 6)を核とした高速広帯域なテクノロジーを使っての遠隔授業を行った。大学院レベルの遠隔授業を最新テクノロジーでサポートするという意味では画期的な試みであった。しかし、IPベースということでシステム上安定しているとはいえず、結局は、バックアップ・システムであるISDNを使ったテレビ会議システムに切り替えて授業を行うことが多々あった。

 その点、ISDN等を使ったテレビ会議システムは安定しており、また、コスト・パフォーマンス的にも優れ、現状、信頼できるシステムであるといえる。

(音声が不調になると受講生からクレームが出たが、音声が良好であれば動画でなく静止画であってもクレームは殆ど出なかった)

 よって、現在のインフラ状況下では、動画・音声はテレビ会議システムで、事前課題・チャット・ML等はWebベースで行うというシステムが現状最も望ましい形態であるという結論に至った。

 

IT技術を使った遠隔教育の実現により、「教える側」から「学ぶ側」への教育パダイム・シフトを実現した

 通信教育も一種の遠隔教育と考えると遠隔教育自体は新しい概念ではないが、インターネットやテレビ会議システムというIT技術を使った遠隔教育の実現によりこれまでとは全く違った教育パラダイムが実現しようとしている。これまでの高等教育は供給側の力が強く、規制産業であるがゆえに競争原理が働きにくい組織によりバンドリング販売され、各教科は一人の教師による閉鎖的垂直統合モデルで管理され、生徒はブラックボックス化された評価システムで評価されるという学校、教師中心の世界であった。アメリカ企業の事例研究を行っていると、IT技術を使った遠隔教育の実現により教育コンテンツのアンバンドリングとモジュール化を可能とし、教える側から学ぶ側中心の本来あるべき教育の姿に移行しつつあるといえよう

 

本ビジネスにおいては、収穫逓増モデルの実現は困難であり収穫逓減許容型がベストなビジネスモデルである

 アメリカ企業の事例研究を行っていると、MBA教育をWeb中心の非同期型モデルで行っている企業が最近注目されつつある。いずれの企業もスタンフォード大学やコロンビア大学といった有名大学をコンテンツパートナーとし数十億円〜数百億円規模の初期投資を行いながら非同期デジタルコンテンツの開発を行っている。彼らのモデルに共通するのはマイクロソフト型の収穫逓増モデルを狙っているところである。しかし、MBAコンテンツは多額の初期投資を行って非同期デジタルコンテンツを開発してもPLC(Product Life Cycle)が短くクリティカル・マス達成が困難なことや、競合・代替品が多く自然独占性はなくネットワークの外部性が働きにくいこと、ナップ・スター等のPtoPソフト・ウエアの出現により非同期コンテンツのネット上での価格がゼロに近くなる傾向にあること(無料が常識になっているWebコンテンツの流れから)、MBA等の高等教育には同期でのインターラクションが学ぶプロセスにおいて重要なことから本ビジネスにおいてWebを使っての非同期型・収穫逓増型ビジネスモデルの形成は困難であるという結論に至った。

 

現状、遠隔教育の形態として同期中心で非同期と統合させたモデルが最も教育効果があがり、受講者の授業価値評価も高い

 文献調査では、通信教育での受講者の継続率は3%程度であるのに対し、WBTでは50%、KBSの同期を中心とした非同期と統合させたモデルだと95%の継続率があるという結果からも分かるように、規模や時間的制約は受けるもののテレビ会議システム等の同期中心でWeb等の非同期と統合させたモデルが学ぶ側にとって最も教育効果があり、受講者にとって最も高い授業価値があることが明かになった。これらを図にまとめたものが図1である。

 

 

図1 学習効果とコストの比較

爆発 2: 同期+非同期統合型遠隔学習
 


楕円: 集合教育
  高い

  

 

    

楕円: 同期
遠隔学習
EX)テレビ会議システム等
 

 


学習効果

 

 

 


  低い

 

       高い           費用           安い         

 


       低い           利便性          高い

 

 

MBA等の学位プログラムは副次的なものと考え、MBAプログラムをアンバンドリングしモジュール販売する形態が最も望ましい

 それでは、どういうモデルを構築すればいいのかであるが、できるだけ多くの優良コンテンツを確保し、MBAプログラム等をアンバンドリングしモジュール化して受講者の必要なニーズに従ってジャスト・イン・タイムで学べる形式が望ましい。従って、MBA等の学位プログラムは副次的なものと考えモジュール販売することを中心とするビジネスが最も望ましい形態であるという結論に至った。

 

4.今後の研究課題

 

運営のサポート、授業のサポート、授業の標準化の必要性

 遠隔授業がシステムとして十分成り立ち、ビジネスとして運営が可能なことは前述した通りである。但し、遠隔教育には計画、予算、設備、組織、マネージメントなど従来の大学とは異なる条件があり、対面教育中心の考え方の大学がそれにうまく対応していくことはそう容易ではない。よって、民間企業と共同のもと遠隔授業運営を行っていくのが理想である。また、講師側も遠隔授業に参加するためには従来の教育方法とは異なるノウハウが必要であり、より多くの先生方に遠隔授業に参加してもらうためには授業運営の標準化、マニュアル作りが必要不可欠である。

 

MLearningMobile Learning)への期待

 現状、映像・画像も含めて全てIPベースで安定した遠隔授業運営を行うのは困難であることは前述した通りである。一方、移動中で最大384Kbpsのデータ伝送が可能な次世代移動通信システム、IMT2000(International Mobile Telecommunications 2000) のサービスが世界で最初に首都圏で開始されることや、IPV6を核とした次世代インターネットプロトコルの登場により、IPV4時代の32ビットから128ビットのアドレス空間を持つことで、パソコンだけではなく、携帯電話、AV機器、カーナビゲーションから家電製品にいたるさまざまな電子機器・装置がIPアドレスを持ち、インタネットへの接続が可能となる。つまり、遠隔教育においてもユーザーフレンドリーな携帯端末を使っていつでも・どこでも・誰でも受講可能なM-learning環境の普及が期待される。70年代から80年代のパソコンが、マイコンといわれた時代に若者から圧倒的に支持され、当時の若者であったビル・ゲイツがマイクロソフトを作った。アメリカではすでに、現在のパソコンはクラッシックPCといわれている。これに対するモダンなPCはまだ現れていない。日本における10代から20代の若者の間でのI-modeの爆発的普及状況や彼らの使い方を見ていると携帯電話がモダンなPCとして普及してくる予感すらする。もしかしたら、我が国においてはM-learningの普及がパソコン等を使ったE-learning以上に早いかもしれない。今後の研究においては、携帯電話等を使ったM-learningの可能性についても考察していきたい。

 

低速低帯域(64Kbps以下)でも音声・動画がIP上で送れるソフトを利用した遠隔授業の検討

 本年度、IPV6を核とした高速広帯域な技術を使っての遠隔授業実験を試みた。結果は、高いコストと人件費を使った割にはシステムとしてまだまだ安定しておらず実用段階には至っていないことは前述した通りである。一方、アメリカ企業を中心に低速低帯域(64Kbps以下)でもAdapted Bandwidth Technologyを使って 音声・映像がIP上で送信できるソフトウエアが開発されつつある。例を挙げると、Live eLearning社が開発したCentraというソフトを使うと28.8Kbpsといった低帯域で安定した音声・動画が送れる。他にも、Lotus社がSametimeを、Interwise、Mentergy社も同様のソフトを開発している。

 今後は、このような低速低帯域でも安定した音声・映像を送れるソフトを使っての遠隔授業実験も行っていきたい。

 

バーチャル・スクールの可能性

 IT技術を使った遠隔教育の実現ににより各大学による閉鎖的垂直統合モデルから開放的水平展開モデルへ移行していくことは先述した通りである。アメリカ企業の事例研究を行っているとUnext.comはスタンフォード大学、コロンビア大学、シカゴ大学、カーネギーメロン大学等のコンテンツをアンバンドリングしモジュール化してCardean University(Unext.comがバーチャル上に設立した大学)を通して販売するビジネス・モデルを展開している。NTU(National Technology University)もUCバークリー、MIT、ジョージア工科大学等のコンテンツを同様の形式で市場主義に従ってデジタル教育コンテンツとして流通させるプラットフォームビジネスを展開している。

 我が国においても情報インフラの普及に伴い、遠隔地にいる受講者でもよりよいコンテンツへのアクセスが容易となり、より受講者にとってメリットのあるビジネスモデルが期待される。これは、地方の大学が都心の大学のサテライトキャンパス化してくることや大学の系列化等も考えられる。これは、規制産業であった我が国の教育業界におけるパラダイムの大変革を示唆している。今後、IT技術を使った遠隔教育がどのように我が国の教育業界にインパクトを与え、また、大学としてどのように対応していくべきなのかの調査・研究も行っていきたい。