第三章 テレビ会議システムを使ったKBSでの遠隔実験授業の結果と分析
第二節 98年2学期<革新企業の戦略分析>(担当:高木教授)
第一節 テレビ会議システムを使った遠隔教育の有効性... 11
この論文では、特に社会人向け教育において、テレビ会議システムに代表されるIT技術を取り入れた新しい遠隔教育の有効性・可能性・問題点等を調査し、現時点で最も効果的と考えられる遠隔教育の提案すると共に、今後の課題を検討することを目的としている。
n 社会人向け遠隔教育の必要性
現在の日本においては社会人の再教育の必要性が高まっており、遠隔教育はその受講機会を広げる大きな手段となり得る。
n 同期・非同期型の対比
遠隔教育システムは、同期型、非同期型に分けられる。非同期型は同期型よりもフレキシビリティーがあるために、受講機会の増加という点では優れているが、効果という点においては同期型が勝る。従って、両者の利点をうまく取り入れた同期・非同期統合型の開発を積極的に進めることが望ましい。
n 同期型におけるシステムの優劣
同期型の中では衛星通信を使ったシステム、ISDNを使ったシステム、IPベースのシステムが考えられるが、現時点ではISDN回線を用いたシステムが最も現実的であり、実用的である。しかし、コスト面と運営面においてまだまだ改善の余地がある。
n 将来展望
しかし、今日の技術革新トレンドから考えると、最も著しい進歩を遂げるのはIPベースのシステムであり、数年後には充分に実用に耐えうるシステムとなり得る。かつ、通信インフラが整備されれば、コストパフォーマンスから考えてIPベースのシステムが主流になることは確実であろう。
そして、安価で実用に耐えるIPベースのテレビ会議システムを使った遠隔教育システムが普及すれば、若干の固定費のみで、それ以外の変動費が殆どかからないというコスト構造が実現することになる。そうなれば教育産業におけるビジネスモデルに大きな変革が生じるであろう。
n 遠隔教育普及のための課題
今回の研究調査時点では集合教育とテレビ会議システムによる遠隔教育を比べた場合、品質は評価しながらも、価値はあまり認められていないという結果であった。このギャップが、テレビ会議システムを使った遠隔教育システムの普及に至らない大きな原因であり、品質と価値が同等に評価されれば社会的認知を得られ、飛躍的に普及するのではないか。
n テレビ会議システムによる遠隔教育の将来性
もし、それが正しいとするならば、テレビ会議システムを使った遠隔教育を利用すればリアルタイム性とインタラクティブ性いう面で受講生を束縛することができ、高価格化することで収益率が上がり、さらに自宅で受講できるという簡便性も取り揃えることができ、非常に有望な新しいジャンルの教育システムになり得るのではないか。
多様化、複雑化、更には国際化が著しい今日の社会の中でたくましく生き抜くためには、他人が持っていないものを持っていることが必要ではないか。それには、出来る限り専門性・希少性の高い教育を受けることが大きな武器になるであろう。
一見、前項と相反する事のようにもみえるが、いくら専門性の高い知識、スキルであってもある程度の共通性或いは普遍性がなければ社会の中では通用しないのである。
また、大企業の社内研修を考えた場合、全国に分散している受講者に対して同じレベルの情報、スキルを提供しなければならない。或いは企業に限らず、税理士などの独立自営のプロフェッショナルにおいても、共通の知識を持つことが不可欠である。
変化の激しい今日の社会において、情報や知識が陳腐化するスピードは日を追って増している。これは、情報産業やバイオケミカルなどの最先端技術に限らず、諸制度の改変や社会情勢・国際情勢の動きなどに対して常に新しい情報を入手しておくことでより質の高い業務が可能となる。
学習する際、社会人が学生と比べて最も不利な点は時間の少なさであることは言うまでもない。殆どの社会人が日中働いているために、自由になる時間は平日の夕方から夜にかけてと土日に限られてしまう。さらに運良く日中時間が取れたとしても効率良く時間を使うために、移動や準備の時間は最小限に抑えなければならない。
従って、社会人向けの教育を行う場合には、出来る限り物理的に受けやすい環境作りが必須の条件となる。
社会人は殆どの場合明確な目的を持って教育を受けている。それだけに、受講している講義の効果に対して非常にシビアであろう。更に出来ることならば安価で受講できるに越したことはないので、講座に対するコストパフォーマンスの評価は現役学生と比べてかなり厳しいのではないか。
前章において、社会人向けの再教育に必要な要素として、
@ 専門性、希少性
A 共通性、普遍性
B 情報の新鮮さ
C 簡便性
D コストパフォーマンス
を挙げたが、これらを実現する教育システムとして、従来型の教育システムと比較しながら、テレビ会議システムを中心としたIT技術を利用した遠隔教育の可能性について考えてみたい。
授業形態は次の3つの軸で分類することができる。
@ 集合型教育と分散型教育
A 同期型教育と非同期型教育
B
一方向教育と双方向教育
集合型教育とは、大学の一般的な講義のように1つの教室に講師と受講生が集まって行うような授業形態を指す。
また、分散型教育とは、通信教育のように講師・生徒共々1箇所に集まらず分かれて行うような授業形態を指す。
両者を比較した場合、受講者が得る情報量は集合型教育の方が圧倒的に多く、教育効果も高い。
しかし集合教育の欠点は、時間的・空間的な制約が大きいということである。集合型は1箇所で講義を行うため、ある特定の時間に特定の場所にいなければ受講することが出来ない。そのため、会場があまりにも離れた場所であれば、受講機会そのものが失われることになってしまう。
義務教育や大学教育のようにほぼ全国どこでも受講できる内容ならまだしも、社会人教育に求められている専門性の高い教育は集合教育で受講できる場所が限られている。
従って、講座のクオリティーでは集合型教育には劣るものの、社会人の受講機会を広げるという観点では、分散型教育に期待が持たれる。
同期型教育とは、受講生全員が同時に同じ授業を受ける形態で、前述の大学での講義もこの形態であり、更にCS放送を利用した放送大学も同期型と言える。
一方、非同期型は、受講生が学習し易い時間帯に勉強するというような形態で、従来からの紙ベースでの通信教育がこれに該当する。この発展形として、カセットテープやビデオテープを利用しての通信教育も増えてきている。さらに最近では電子媒体(CD−ROMやインターネット)を利用したものも現れている。
これら2つの形態は、時間的制約の有無ということが言えよう。
つまり、同期型はある時間に受講できる体制を整えておかなければならないために時間的制約を受けるが、非同期型はその制約がない。
一方向教育とは、講師の講義を一方的に見聞きするだけのもので、双方向教育とは、講師と受講生、或いは受講生同士が質問やディスカッションなどを行って、インタラクティブに授業を進めていく形態を指す。
知識の取得ということであれば、一方向教育でも可能であろうが、思考能力・分析力・判断力などの養成や、高度な専門知識の習得ということであれば、やはり双方向型が望ましいのではないか。
次に各形態の組み合わせによる実際の教育形態の実例を分類して列挙する。
□ 各形態を組み合わせた分類とその実例
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集合型教育 |
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同期型教育 |
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一方向性教育 |
・大学の講義 |
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双方向性教育 |
・討論形式の授業 |
・グループ研究 |
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分散型教育 |
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同期型教育 |
非同期型教育 |
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一方向性教育 |
・放送大学 |
・郵送式の通信教育(紙・カセット、VTRテープ) |
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双方向性教育 |
・テレビ会議システムによる討論形式の授業 |
・インターネットを使った通信教育 |
まず、教育効果という観点から比較すると、集合教育が最も優れていることは論じるまでもない。そして、一方向性と双方向性を比べた場合、後者が勝っていると言えよう。
また、従来型のCS放送や通信教育では、受講生の自主性に任せるしかなかったわけであるが、それには強い意志力が必要である。社会人が学ぼうとする場合はある程度目的意識が明確で、達成のための意志力も強いと思われるが、ある程度の強制力を持たせるためには同期型であったほうが良いのではないか。
一方で、社会人が教育を受ける場合、最もネックになるのが時間的・空間的制約であろう。平日の日中は働いているために自由になる時間も少なく、離れた場所に講義を受けに行くことも難しいのが実情である。これらの制約条件を緩和する教育形態は、分散型で非同期型の教育が最も適している。
従って、教育効果のみを考えた場合には、
◎ 集合型+双方向性+同期型
という形態が最適であるが、この教育形態では、受講可能な社会人が非常に限定されてしまい、教育を受けること自体ができなくなってしまう。そこで、より多くの社会人が受講できるという前提条件のなかで、最も教育効果が上がる形態としては、
◎ 分散型+双方向性+同期型
であると考えられる。そこで、この教育形態について更に検討を行い、加えて次善の教育形態と考えられる、
◎ 分散型+双方向性+非同期型
についても併せて検討を行う。
分散性、双方向性、同期性という異なる要素を持った教育システムとして現在実現可能と考えられるのは、テレビ会議システムを利用した遠隔教育システムである。
鶴尾(1998)によると、遠隔教育とは、
「学習者と教授者が空間的・物理的に距離があるために、電子機器や印刷媒体および通信手段等を利用して、学習ないし教育の場を設定する教育方法」をさしている。
これまでの遠隔教育の多くは、主な情報の伝達手段として、放送や印刷教材を使用していた。これは以下のような理由による。
@ 多数の対象に同時に情報伝達が可能
A 安価
B 広く一般に普及しているであろう機器を使用して情報を伝達できる
従来型の遠隔教育として「通信教育」がある。
通学型の教育と比べて通信教育のメリットとしては、
@ 安価である
A 受講者の時間的・空間的制約に対してフレキシビリティーが高い
ことが挙げられる。
特に社会人にとっては、Aのメリットが大きい。
しかし、デメリットとしては、時間的・空間的フレキシビリティーが高いがゆえに、強い意志を持った自己管理が必要とされ、それが弱いと充分な効果が上がらないということである。
テレビ会議システムとは、遠く離れた人同士が通信回線を介して相手の顔を見ながら会話することができるシステムである。
回線は現在のところ、デジタル回線(ISDN)を使ったものが主流である。
端末の価格は数年前までは安いものでも100万円を超えていたが、現在では1台10万円を切る価格のものも出てきている。通話料金についても、この機種を使えば普通の電話と同じ料金で利用可能である。(但し、高画質モードにすると料金は2倍になる)
さらにこのISDN回線を使ったテレビ会議システムの特徴として、多地点接続が可能な点である。従来はMCUという1台数百万円の多地点接続用サーバを持たなければできなかったが、平成9年に設立されたNTTフェニックス通信網株式会社が全国にこのサーバを設置したことにより、現在では最大1,000地点での同時通話が可能となっており、通話料金も1回線あたり、3分間60円で接続可能となった。これにより、非常に安価で信頼性の高い多地点接続の双方向通信が可能となった。