1 はじめに

研究目的


近年、我が国の大学・大学院が社会人の再教育の場として脚光を浴びるようになってきた。なかでも、リフレッシュ教育と呼ばれる教育はこれからの我が国において、大いに注目されていくだろうと言われている。 「リフレッシュ教育」とは、高等教育機関において社会人、なかでも職業人を対象に知識・技術のリフレッシュや新たな修得のために高等教育機関が行う教育を意味する言葉として、1992年3月の文部省の調査研究書において提案されたものである。現在の文部行政においては、生涯教育はリカレント教育の分野の総称とされ、リフレッシュ教育は主に高等教育の分野の総称として区別されて用いられている。 リフレッシュ教育の具体例として、社会人特別選抜制度、夜間大学院・学部、昼夜開講制、学部への編入学、科目等履修生制度、大学通信教育、大学院の入学資格・修業年限の弾力化、学位授与機構の創設、受託研究員制度等が主な制度的なものとされている。

リフレッシュ教育への関心が昨今高まってきているのは、なぜなのだろうか。主な理由として、就学側と大学側の二つの側面から考えることができる。 就学側の理由としては、以下のようなことが考えられる。

  1. 急変する産業、経済環境下で、社会人がかつて大学で学んだ知識の陳腐化が激しくなってきたことに自ら気づき、再教育を求めるようになってきていること
  2. ピラミッド組織の成長を前提とした人事管理が難しくなった企業が強化している選別淘汰の動きに対して、労働市場での自分の価値を高めるためにより高度な職業能力を自主的に獲得したいという社会人、職業人等が増加してきたこと
  3. 国際化と資格の時代に、MBA(経営学修士)など国際的に通用したり、高度な専門職に就業するための条件となっている資格を得ようとする者が増加したこと
  4. ゆとりと高学歴化の時代にあって、より高度な知識の習得自体を生きがいと感じる社会人が増加したこと
  5. 企業内教育では「訓練」的性格が強く、企業の枠を越えた広い視野に立った分析力・総合的判断力・独創的発想力といったものの開発・育成には企業自身の手では限界があると考えている社会人が増加したこと

一方、大学側の理由としては、以下のようなことが考えられる。

  1. 大学受験年齢である18歳人口に代表される若年人口の大幅な減少基調(1992年の205万人をピークに、2009年には約120万人まで減少することが予測されている)の中で、伝統的学生の確保が困難となるため、特に私立大学にとっては財源の定常的な確保のための方策と捉えられること
  2. 大学・大学院にとっても、教育研究活動に今日的な問題が持ち込まれることとなり、研究領域の広がりが期待されうること
  3. 実社会での経験を持ち、目的意識の明確な社会人を受け入れることは、従来の伝統的学生や教職員にも大きな刺激となり、大学等の活性化をもたらすと考えられること

就学側と大学側といった教育の需要側と供給側の両者の思惑が合致し、これからの大学にとっては、広く社会人をターゲットとした教育を実施していくためのインフラづくりが必要となると考える。

しかし、地理的制約から通学したくてもできないという場合が考えられる。また、働き盛りの世代の多い社会人は仕事との兼ね合いで、時間的な制約がある。さらに、現状の大学のキャンパスにおいては、このようなニーズをすべて受け入れるだけの物的資源、人的資源などについては、限界があるといわざるを得ない。そこで、Face to Face の伝統的な教育方法に加えて、メディアを用いた教育が一つの方法として考えられてくるのではないだろうか。

メディアを用いた遠隔教育の伝統的なものとして、「通信教育」がある。通信教育の特徴は、教師と学生との間に空間的・時間的な「隔たり」があり、両者は印刷された教材を媒介にして教育を受ける関係にあるということである。通信教育では読書を通じて事柄の知的理解をランダムアクセスに進めることができるというメリットが存在する反面、指導する教師の立場では、紙面を通じてのやりとりのみであり、対面による指導の機会が少ないことから、結果として学習の継続率が低くなってしまいがちであるというデメリットが存在する。 社会人は、勉強に専念できる時間が貴重であるために、直接の対面授業と同じような環境で授業を行ってほしいのではないだろうか。すなわち、社会人の潜在的な学習ニーズとして、「即時性」、「双方向性」、「対面性」といったことがあるのではないだろうか、と考える。 昨今、メディア・テクノロジーの急速な発展により、教育の可能性は大きく広がりつつある。我が国の高等教育の分野においてもそれは例外ではなく、取り巻く状況は大きく変化しており、その改革が鋭意進められつつある。文部省では、高度情報通信社会の進展を踏まえ、1996年1月から計8回にわたり、「マルチメディアを活用した21世紀の高等教育の在り方に関する懇談会」が開催され、報告が行われた。 その報告の中では、昨今の国内外のマルチメディア活用事例が取り上げられ、通信衛星やISDN等により、複数の高等教育機関の間で、映像・音声を同時に双方向で送受信することができる遠隔教育の実施やインターネット等を活用した教育活動への取組等が報告されている。さらに、大学審議会マルチメディア教育部会が「遠隔授業」の大学設置基準における取り扱い等についての審議概要の報告を行い、これを踏まえて大学審議会が文部大臣に答申を行うに至った。これからは、マルチメディアを活用した教育により、既存の枠組みを超えた高度な学習の機会を得ることができるとともに、情報の収集や発信といったことが容易になっていくことが予想される。また、学習者の興味・関心や能力に応じた学習機会の提供といったことが可能となり、柔軟な学習形態の実施が行われることとなるだろう。

私が有効であると考えるのは、「社会人を対象とするリフレッシュ教育の遠隔授業」である。しかし、遠隔授業は、ハード面さえ整備すればそれで済んでしまうようなものなのだろうか。また、受講生のニーズを満たすためにはどのようなしくみづくりが必要とされるのだろうか。教室のようにFace to Faceではない分、考慮する点があるのではないだろうか。効果的な遠隔授業の運営はどうすれば可能となってくるのだろうか。 この論文において、私はリフレッシュ教育の遠隔授業は供給側の大学にとっても、また需要側の社会人にとっても有効なものであるということを述べていきたいと考える。さらに、効果的な遠隔授業を実施するためには、どのようなことが必要とされるのかということをも明らかにしたいと考える。そして、そのようなリフレッシュ教育における遠隔授業の活用について、今後の高等教育のありかたとの関連で、その意義を自分なりの提言というかたちで述べてみたいと考えている。