NIKKEI NET IT&BUSINESS NEWSNET時評」2004日掲載〕

「成果」問われる年に――2004年のIT展望

 

 今年は良くも悪くもITの成果が期待される年となるだろう。ADSLが爆発的に普及するようになって2年が経過し、常時接続ブロードバンドが1000万回線を超えたところで、利用環境が整ってきた。システム開発に必要な時間を見込んでもそろそろ多彩なアプリケーションが生まれてくるころだし、その兆しも見える。

 

ネットビジネス、業務システムともに順調に推移

 

 既に立ち上がっているビジネスにも常時接続数の増加によって勢いがつきつつあり、2003年9月にはインターネットによる株式売買代金が単月で8兆円に迫るなど結果に結びついてきている。ネットバブルの象徴のように言われた広告モデルに依拠するビジネスの中にも黒字化するものが増えてきた。このように既に一部に見られる勢いが2004年にはより広く浸透してくれるだろう。

 

 企業の業務システムにおいても、この数年でレガシーシステムをより柔軟なものへと転換する取り組みがかなり進んだと評価していいように思う。国際会計基準への対応など、受け身の対応をする局面から、攻めの経営に本格的に活用できるところまできた企業も多いのではないだろうか。前向きに取り組みを進めた企業が経営の機動性で他社を引き離す効果が期待できる。

 

本質の議論が必要なプライバシー問題

 

 具体的な成果を出す局面に近づいてきたということは、先送りしてきたいくつかの課題に答えを出さなくてはいけない日が近づいてきたことでもある。今年はそれらからも顔そむけずにきちんと向き合って対応すべき年となるのだろう。

 

 たとえばプライバシーについての、考え方の整理と対応だ。住基ネットの騒ぎで、プライバシーに関連する議論が空転するようになり、稼働に必要なガイドライン等の整備が遅れているように見える。このままでは大枚投じて構築した電子政府の仕組みなどが、きわめて限られた用途にしか使えない。有効活用する気があるならきちんと体制を整え、それができないなら思い切ってシステムをスクラップするぐらいの決断が求められる日が早晩くる。

 

 プライバシー問題については法律やセキュリティーの技術論だけをするのではなく、少し本質に掘り込んで、社会として何を守りたいのかを議論すべきなのだろう。個人的にはこの問題の核は「見えてしまう」ことではなく、「知らないうちに見られてしまう」という監視の非対称な構造にあると見ている。そして対応するにあたっては「見る人間が、見ていることを見られる」ようにすることが重要であると考えている。

 

 ちなみにプライバシー問題については、制度的な枠組みだけでなくシステム面においても対応が求められることを指摘しておきたい。2005年4月に施行予定の個人情報保護法を遵守するためには、社内におけるデータベースの管理体制の整備や、開示請求に対応する体制整備などが必要となる。今年のうちにきちんと宿題をこなしておきたい。

 

電話によらないインフラの整備を

 

 インフラストラクチャーのあり方や、構築の主体の見直しについてもそろそろ逃げられないだろう。インターネットは従来型の回線交換型電話(以下電話)を超えるものとして発展してきたが、それが電話の収入で作られた基盤の上に寄生してきた面は否めない。世界にまれに見るサービスベース(物理的な線を所有しないサービス提供者による)の競争政策の成功も同じ基盤の上にたっている。

 

 ところが、いよいよ回線交換電話の退場が迫り、インターネットに真の主役を演じていただく段になって、現在のインターネットの持つ品質の不安定性、セキュリティー上のぜい弱性などが問題となってきている。防災や国防まで視野に入れて、誰がどのように通信インフラストラクチャーを整備するのか、どこに競争原理を効かせて、どこについては補助を行ってでも最低限のサービスを維持するのか、そのときに「最低限のサービス」というのが何を意味するのか、など考えなければいけないことは多い。

 

新しい発想で対応を

 

 何らかの理由で電子化の取り組みが進んでいない領域の洗い直しも必要だろう。たとえば納税の分野で、電子申告ができるようになった一方で、帳票類の電子保存が認められておらず、これでは納税者側として意味のある情報化ができない。立証責任問題など、課題があることを認識した上で、業務効率化の最大のボトルネックの一つとなりつつある紙保存義務問題について真剣に手をつけるべき時機が来ているといえる。

 

 これらの問題はいずれも旧来の議論のいきがかりや、組織としての面子(先輩の主張してきた建前)などにとらわれているとなかなか話が前に進まない。残った課題だけに、議論することがためらわれるタブーに触れざるをえないものもある。と、言いながらそろそろ手をつけないと、情報化を実りあるものにできないのも事実だ。お正月のお酒で健忘症になったふりをして、新しい発想で対応を進めてみてはどうだろうか。