[NIKKEI NeT ITニュース「デジタルコア レポート」2003423日掲載]

「無線ICタグと個人情報の問題、感情的にならず冷静な議論を」――デジタルコア月例会 

 日経デジタルコアはIT(情報技術)分野の新しい動きをとらえ、専門家を交えて意見交換する第1回の「月例会」を3月31日、東京・千代田区の新丸コンファレンススクエアで開いた。「無線ICタグ」と「電話に代わる次世代通信のユニバーサルサービス」について、デジタルコアのメンバーで慶応義塾大学教授の國領二郎氏が司会を務め、議論を進めた。

 第1回「月例会」の議論の要旨は以下の通り。

 

個人情報保護の問題が議論の中心に

 

 無線ICタグに関しては、効率的な商品管理や、食品などのトレーサビリティー(生産履歴の追跡)、アフターケアなどのサービス向上を実現するものとして期待を集めている。しかしその一方で、不正な情報の読み取りや、その情報の流通によって個人のプライバシーが侵害されるのでは、という懸念を持つ人も多い。例えばホテルのカウンターなど、住所や氏名を明らかにする場所で、その人が所有している製品の電子タグから情報を読み取ると、簡単に「この人は、こういう製品を持っている」というデータベースができる。その情報が流通すると、その製品を持ち歩いている限り、どこに行ってもその人がだれであるか、どこに住んでいるか、ということがただちに相手に分かってしまう可能性が出てくる。さらに、将来読み取り装置がいたるところに設置されるようになると、その人がどういう行動をとったのか、詳細に把握されてしまう。こうした事態をどう防ぐか、という問題に、多くの意見、アイデアが出された。

 

利用者が読み取りの可・不可を設定――技術的対策

 

 技術的な対策としては「商品管理のために利用する場合は、通常製品番号(どのような製品かを示すコード番号)とシリアル番号(個体別に割り振られたコード番号)が記録されているが、消費者の手に渡った時点でその製品番号を消してしまうようにすればよい」という提案があった。こうすれば、不正に電子タグを読み取られたとしても、その番号がどのような製品を表しているか分からないため、さしたる問題にはならないという。ほかにも「読み取りができるかどうか、利用者がコントロールできるようにするといい。読み取られてもいい、あるいは読み取られることで付加価値の高いサービスを受けたい、という人はそのままにしておき、そうでない人は商品購入後に、タグから情報を読み取れないように設定する」「セキュリティー管理のために用いる『ワンタイムパスワード』のように、IDを変更できるようにすればいいのでは」「電波を遮断するシールドのようなものを開発できないのか。もっとも、そのシールドを悪用すれば防犯システムとしては役に立たなくなってしまうが」などの意見が出された。

 

どの段階で「違法行為」とするか課題――制度的対策

 

 法的な制限を加えてはどうか、という議論では、どの段階で取り締まるのかが話題になった。情報を読み取った時ではなく、その情報を流通させたり、それを利用して何らかの行動を起こした段階で取り締まるのが現実的、という意見が多かったが、その場合は興味本位の情報収集に規制がかけられない。国領教授からは、何らかのデータベースにアクセスしないと個人情報とタグに記録されたシリアル番号の関連付けができないような仕組みを作っておき、そのアクセスで管理を行うというアイデアも提示された。また、読み取り装置の製造、販売を免許制にすることも有効ではないか、という意見も出た。しかし読み取り装置は比較的容易に作れることから、"違法な"装置を実際に取り締まるのは極めて困難では、という声も上がっていた。

 

利用を進めながら合意形成を

 

 プライバシー侵害への対策を先に考えるよりも、実際に利用しながら社会的な合意を形成していくことを目指し考えたほうが現実的、という見方もある。「無線ICタグの導入で、物流コストを下げることができれば価格も下がる。安さを求める人はタグのついた商品を買い、今のままでよいという人はタグのついていない商品を買う、というように、考え方やライフスタイルによって選択してもらえばいい」「いきなり個人向けの商品に導入せず、まず法人向けの製品に導入して、反応を見てみることも必要ではないか」などの発言があった。「インターネットの発展に見られるように、オープンで、誰でも自由に使えるという環境があってこそ、新しいサービスが生まれてくるのではないか」と主張する参加者もいた。

 

感情的ではない議論が不可欠

 

 様々な意見が飛び交い、具体的にこの問題にどう取り組んでいくべきか、一定の方向性を見出すまでには至らなかった。しかしおおむね一致したのは、感情的な議論がわきおこることは避けたい、という見解だ。「本来、個人情報とプライバシーはイコールではない。複数の個人情報が関連づけられ、集合体となったときに初めてプライバシーの問題になる。どんな細かいことも、それを読み取られたらプライバシーの侵害だと声高に叫んでいては、何も前に進まない」という指摘や「一方で、どんな情報も読み取ることはまかりならん、という立場があり、もう一方で商品のID番号などは個人情報に当たらないからそれを読んでも全く問題ない、という立場がある。こういう極端な意見の、間を埋めていくような作業が不可欠なのではないか」という意見に、うなずく参加者が多かった。

 

「電話の次」を担うユニバーサルサービスのイメージとは

 

 もう1つの話題、「ユニバーサルサービス」については、無線ICタグの議論が長時間に及んだために、短い時間でのやりとりとなった。

 最初に国領教授から「競争の自由化や、IP電話などの競合サービス登場により、従来方式の固定電話は全国で均一のサービスを提供する『ユニバーサルサービス』を維持できなくなってきている。次の世代のユニバーサルサービスについて、早急に考え始める必要があるのではないか。デジタルデバイド(情報の格差)が深刻化しており、緊急時にライフラインとして機能する通信サービスの確保も差し迫った課題だ」と問題提起を行った。これについて参加者からは「ユニバーサルサービスは、もともとデバイドの解消、つまり住んでいる地域や所得、教育レベルなどに左右されることなく、だれでも通信できるということに重点を置いている。ライフラインの確保は、別問題として考えるべきではないか」といった意見も出された。

 国領教授は、私案として@通信網の混雑時の通信速度を保証しない「ベストエフォート」型の高速インターネットサービスA(回線交換型携帯電話を中心とする)緊急通報に対応できる帯域保証型無線音声サービス の2つを、暫定的な次のユニバーサルサービスのイメージとして提案した(「ネット時評」参照)。

 この提案をもとに、今後、議論を進めていく予定だ。