〔NIKKEI NET IT&BUSINESS NEWS「NET時評」2003年3月17日掲載〕
電話に代わる次世代通信網について議論を始めよう
そろそろ次世代のユニバーサルサービスについて議論を深めるべき時が来ているように思う。今後、補助を行ってでも日本全体に整備するネットワークはどんなものであるべきか、という話だ。これまでその任を有線回線交換式電話(以下単に電話とする)が担ってきたわけだが、技術進化や自由化・競争導入のおかげで、さまざまな代替的システムが登場し、今までのやり方で電話網を維持することが難しくなってきていることは明らかである。半面、ADSLや光ファイバーがユニバーサルサービスとなりうるほどの勢いはまだない。つまり次のユニバーサルサービスのイメージがない一方で、ブロードバンド接続の分野でのデジタルデバイドが広がっている実態がある。
たたき台にしてほしいユニバーサルサービス案
本件は相当深い議論を数年積み重ねないと結論がでないものと思われ、軽率に結論を出すようなものではないが、議論を出発させるために提起してみよう。いますぐに筆者が決めろと言われたら「2008年から2018年の間は次をもってユニバーサルサービスと考える」と答えたい。
(1)通信網の混雑時の通信速度を保証しない「ベストエフォート」型の高速インターネットサービス。
(2)(回線交換型携帯電話を中心とする)緊急通報に対応できる帯域保証型無線音声サービス。
これらの項目が妥当性はひとまずおいて、このような結論を得る過程で大事なのは、次世代ユニバーサルサービスへの要求仕様を考えることだろう。これもたたき台として数点をあげてみたい。
(a)防犯、防災、救急など人命にかかわるライフラインの確保
これはユニバーサルサービスの基本と言っていい。従来目指してきた全所帯から緊急通報ができる態勢に加えて、今後は屋外での事故や大災害時にも今まで以上に強いものとしたい。
(b)費用対効果を最大にする配慮
たとえライフラインといえども無駄は許されない時代となってきている。むしろ経済的に苦しい時でもきちんと維持できるものでないとユニバーサルサービスの使命には応えられない。コストパフォーマンスを最大にしながら必要な機能を確保していかなければならない。
(c)デジタルデバイドの解消
住む場所に関係なく、国民として情報共有と参画の輪の中に入る機会が保証されなければならない。
(d)技術的な柔軟性
技術がこれからも変化することを想定しなければいけない。今後の進化を許容する柔軟なシステム作りをしていかなければならない。
このような要件を満たす上で当面、具体的にどのようなユニバーサルサービスを構想すればいいのだろうか?これも結論を出す前に考えるべき要素がいくつかある。
ベストエフォート型と帯域保証型の組み合わせをどうするか
まず考えたいのがベストエフォート型と帯域保証型の仕組みの上手な組み合わせである。それぞれに長所と弱点がある。平時における緊急通報などを考えると、帯域保証された回線が余裕を持って準備され、110番をかければ必ずつながる安心感を確保していることは重要だ。誰かが大きなファイルを送っている間は緊急通報が途切れるといったことでは安心して生活できない。電話が提供してきた安心感を失うことはもはや耐え難いものとなっているし、むしろそれを屋外どこにいても享受できることが重要となってくるだろう。
ただし、帯域保証型がオールマイティーとは限らないことにも留意すべきだろう。阪神淡路大震災の折に通話要求が殺到した電話がつながらない傍らでインターネットが被災者たちに貴重な情報を届け続けたことは、(必然的にベストエフォートとなる)分散処理型の仕組みが、極限状態ではかえって強いことを示してくれた。ベストエフォート型と帯域保証型の双方が持つ強さと脆さを、両方のシステムをユニバーサルサービスとして持つことで解消できる。
ベストエフォートか帯域保証かという選択がネットワークの運営主体の姿にも影響してくることに留意したい。すなわち帯域保証をするためには提供主体が全国規模で保証ができるネットワークを手当てしなければならない。膨大なコストがかかり、規模の経済性が働く話で、必然的に巨大企業が提供する姿となっていくだろう。逆にベストエフォートであれば、例えば地域で立ち上げたNPOが道路に敷設されたファイバーを借りてサービスを提供する、といったことが可能となる。すなわち、ローカルなネットワークが相互に接続されて大きなネットワークになっていくというインターネットのイメージはベストエフォートだからこそ実現したと考えるべきで、IP(インターネットプロトコル)を使っていても帯域保証型のものは経済特性としては旧来型の電話の方に良く似ている。この二つの運営体制は必ずしもどちらかが絶対的に良いわけではなく、その両方が共存する姿があってもいいのだろう。むしろ原理が異なる二つのネットワークが競争している状態はシステムの多様性を増大させて災害時などに強さを発揮するのではないだろうか。
光ファイバーの共用をどうするか
次に考えたいのが、設備、特に今後敷設していく光ファイバーの上手な共用である。ユニバーサルサービスとしてはベストエフォート型のインターネットを想定するとしても、それだけではファイバーの投資が回収できないことも想定できる。ユニバーサルサービス目的で敷設されたファイバーの上に商業的により品質の高いサービスが展開され、収益を稼いでインフラに還元することで、ユニバーサルサービスも財政負担少なく提供できるだろう。十分稼ぐようになって、民間のみの手によってユニバーサルサービスが実現することが理想といっていいだろう。そこに到達する中間解として、不採算地域においてはユニバーサルサービス用に公的に光ファイバーが敷設され、それを競争入札などによって商業的な付加価値サービス事業者に開放することが、国土全体に高度サービスを広げることにつながり、デジタルデバイドの解消につながることだろう。
帯域保証型のIPネットワークの位置付け
以上の議論でひとつ意図的に避けた点がある。有線ネットワークによる帯域保証型のIPネットワーク(たとえばIP電話)のユニバーサルサービス化である。有線式IP電話はIPプロトコルによる電話の後継として有力視されているものなので、これを次世代ユニバーサルサービスとイメージすることは簡単なのだが、以上の分析から筆者は有線によるIP電話はユニバーサルサービスではなく、商業的に採算の合うところだけで提供する付加価値サービスとすることが望ましいと考えている。
このあたりでやめておこう。次世代ユニバーサルサービスの検討には技術だけでなく社会としての重大な選択がいくつもなされなければならず、冒頭にも述べた通り、到底簡単に結論が出せるものではない。この小論がその出発的なればそれだけで幸せである。