NIKKEI NET IT&BUSINESS NEWSNET時評」2003日掲載〕

懐も心も豊かになるネット

 

 IT基本法が成立して2年がたち、世界に伍するインターネット利用環境(料金・速度)を競争的に整える目標はその実現に向けて動きが具体化している。これに伴い今後はネットワークの利活用が重要だという認識が広がっている。現実には地方でのインフラストラクチャー整備はまだまだ不十分だし、ここのところの無理で通信業界が財務的に消耗しているという問題もあって、インフラストラクチャー問題がなくなったわけではない。しかし通信業界に元気を取り戻してもらってさらなる整備に邁進していただくためにも、高まる需要(収益)に支えられて、さらなるネットワークインフラの高速化とビットあたりの低価格化が進む循環を作りたい。

 

 同じことを少し厳しい表現で言うと、IT関係者はそろそろ世の中が具体的なメリットを見せてほしいと言っていると自覚した方がいいと思う。インターネット普及自体が目的として認められる時代が終わりつつある今、ネットが国民一般に対して、生活を便利にする、大きな雇用を発生させる、企業業績の改善に寄与するなどといった身近に感じられる利得を提供してきたかと問われると実は苦しい。ITを仕事や生活とは関係がない若者の遊びであると感じている方も多いのではないだろうか?今年は目標をITの恩恵を一人でも多くの国民に実感していただくところに置かねばならないと思う。

 

元気になるネット

 

 元気がでないこのごろ、まず何よりネットが経済の活性化に使われているところがみたい。この点でまず狙いたいのは、情報技術によって企業に資産を有効活用して利益率を上げていただくことだ。

 

 その意味でまず基本に立ち返ってきちんと取り組みたいのが、情報技術による効率化だろう。ビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)やサプライチェーン・マネジメント(SCM)を徹底することによってコストを下げ、利益が出る体質を作る。効率化はとりあえず身を縮める活動で、雇用を減らす効果もあるかもしれないが、資産収益率がよくなることで、株価や不動産価格は回復する。それが不良債権処理の問題を小さくし、経済全体を押し上げる効果を持つだろう。それは結果としては雇用を守ることにつながる。

 

 BPRやSCMなどはこれまでも言われてきたことだが、現実にはネットワークコストが高く、本当に非効率の発生源となっていた中小事業所や、工場外の現場などできちんと実施することが難しかった。それが劇的なネットワークコストの低下と、ユビキタスネットワーク化で急速に可能になりつつある。企業がITによって利益体質を改善するチャンスが到来している。

 

 ネットによる新製品や新サービスの創造も是非推進したい。筆者自身の取り組みの中でも、多くの学生がブロードバンドで常時接続されるようになって、多地点テレビ会議型の遠隔授業の実施が大幅に楽に、低コストにできるようになった。できることは多いはずだ。

 

使うと安全と楽しさが実感できるネット

 

 企業に活力が生まれたら、次に個人生活に目を向けて、医、食、安全といった身近な分野で情報化のメリットを国民に感じていただくことを考えたい。たとえば医の分野などでは、業務処理の電子化などで患者の待ち時間を減らしながら医療機関の経営を改善するといった、一挙両得の施策が可能なのではないだろうか?食の分野では、ICタグなどを利用して産地を特定した流通を行うことで、消費者は安心し、優良な産地はプレミアムを獲得するといったことが可能だ。

 

 安全の分野においてもユビキタスネットワークやICタグなどを使うと、盗品などの追跡が機動的に行える。独居老人をネットで見守るといったアプリケーションと合わせて、ネットワークを活用することで、より安心感のある生活を提供したい。それが新しい産業を生み出すことにもなる。

 

 安全が確保されたら、次は楽しさと充実感を与えてくれるネット利用を広げたい。楽しさの面では放送や映画などの一方向型コンテンツを見られる仕組み作りもあるが、できることならネットを介して多くの方が自己表現をして相互に楽しむ姿が見たい。初めから高度なことを考えずに、例えば複数の地域コミュニティーをネットでつないでカラオケコンテストをやるのでもいい。ネットで個々の人々の表現力が高まった時に、日本のもつ文化的な蓄積が大きく開花することだろう。

 

プロセス改善に焦点をあてた施策を

 

 要約すると、元気が出て、安心できて、楽しめるネット利用を促進するのが今年の目標ということになろうか。技術的道具立てはかなりそろってきたと言っていい。残るはビジネスモデル構築や規制改革など社会的な面だ。ビジネスモデルについては常時接続、ブロードバンド、ユビキタスなどのメリットを最大に生かすものが次々と現れることに期待したい。規制改革についてはこれまで、競争を導入する―価格を下げる―観点から検討される場合が多かったが、少なくともITに関してはBPRを行ったり新しいビジネスモデルを構築したりすることで利益水準を上げるものに焦点をあて、集中的に実施することを考えてみたらどうだろうか。ネットのおかげで懐も心も豊かになったね、と言ってもらえたら大成功である。