[NIKKEI NeT ITニュース「ネット時評 Digital Byline 2001年10月19日掲載]

<私はこう見る第3世代携帯電話(14)>
市場が決めるビジネスモデル
國領 二郎 慶応大学教授

 良く悪くも第3世代携帯電話がこれだけ注目を浴びるのは、ワイヤレス通信が今後の成長分野であり、出遅れてしまった日本のネットワークが世界でリーダーシップを発揮する機会を提供してくれるという共通認識があるからだろう。虎の子を大きく育てたいという気持ちはみな同じだ。ただそれをいかに実現するかビジョンは分かれている。論点はいろいろある。電話の設計思想を残す第3世代が本当にワイヤレス通信の本命なのか、インフラ会社による垂直統合型ビジネスモデルが発展のために望ましいのか、どのような料金体系が望ましいのかなどなど。

 しかし、各論を語る前に確認すべきことがある。それは最終的に勝者を決めるべきは顧客(市場)であるべきだということだ。未知の領域を切り拓こうとしているときに政府や「専門家」があらかじめどれが一番良いかを決めて市場を誘導するような旧来型の手法は取れない。技術は急速に進化しているし、過去を振り返ると技術的に劣りながらも、ビジネスモデル作りでより優れた技術を凌駕したものもある。革新をしている技術者やマーケターに不必要な制約や負荷を課すのは下策だ。彼らの試行錯誤を可能な限り許容したい。分散処理型のインターネットも集中処理型のiモードも非主流として出現し、当初は過小評価されていたことを忘れずにおきたい。

■欲しい技術間競争がおこる環境

 議論を通じて我々が目指すべきは、より多彩な技術やビジネスモデルに市場でのテストを受ける機会を与える環境づくりをすることと定めていい。無線通信技術について特にそのような整備が必要なのはワイヤレスが電波という有限の公共資源を必要としており、その配分がそれぞれの技術の進路を左右しかねないからだ。出来ることならこのシリーズでも繰り返し出てきた高速無線LANをはじめ、多くの無線通信技術に電波を使う機会を差し上げ、顧客の吟味を受けてもらいたい。低利用周波数帯の再配分や再販などに期待がかかる所以だ。電波利用が適正化され、さまざまな技術にチャンスを差し上げることができれば、ダークホースが飛び出してくるかもしれない。本命、穴馬が入り乱れて競争する中で勝者が決まる姿が見たい。

 無線通信プラットフォームの(コンテンツ事業者、各種ネットワークサービス事業者、端末生産者に対する)オープン化も競争を通じて実現したい。少数の通信事業者だけがコンテンツのビジネスモデルをコントロールするのではなく、数多くの事業者がさまざまなビジネスを試す環境が欲しいというのは関係者多くの共通の願いであろう。オープンな構造が多様なイノベーションを生み、それらが新結合を繰り返すことによってイノベーションの連鎖が生まれる状態を無線通信プラットフォームの上にも実現したい。

■潜在ニーズに応えるアプリケーション開発を

 この願いがかなうためにはオープンネットワーク上における情報価値の収益モデルの確立が重要だ。垂直統合型モデルに対して批判も多いが、それが現実にコンテンツ事業者に収益をもたらす他に成功例をあまり見ないモデルであることもまた事実であって、オープンネットワーク上でそれを超えるコンテンツ収益モデルが出来るまで、批判は単なる遠吠えということになろう。垂直統合モデルを政策的に規制することも角を矯めて牛を殺すことになりかねない。オープン化された無線ネットワークを提供する通信会社を少なくとも一社は確保してその上に情報財の収益モデルを確立することによって、多様なコンテンツ流通が実現する水平分業の構造をビジネスとして成功させていく。MVNOなどがそれを実現してくるのだとすれば大いに歓迎したい。彼らが構築するさまざまなビジネスプラットフォームが形成され、プラットフォーム間の競争も行われるようにする。オープンなプラットフォームが別途きちんと存在すれば、垂直統合モデルを排斥する必要はない。垂直統合モデルとオープンモデルが得意領域によって棲み分ける状態が生まれるのかもしれない。

 肝心な話が最後になってしまった。魅力的なアプリケーションの作り込みが成功しないと以上の議論の全てが意味をなさない。富沢氏が指摘する通り、騒ぎの割には大きなお金をかけてブロードバンド化するのを正当化するほどの有力なワイヤレスアプリケーションが見えていないことも確かだ。デジタルコンテンツにはまだ収益モデルが見えず、ビジネスアプリケーションには光ファイバと従来型のPHSでことが足りそうにも見える。筆者自身も遠隔教育のモバイル化に取り組んでおり、モバイルのブロードバンド化に大いなる期待を持っているかたわらで、実験を超えた実用化をするためには料金が大幅に下がるまでは無理と判断している。同じような状況にあるアプリケーションは多いだろう。しかし、交通、建設、福祉など、現場が面的に広がっているビジネスのネットワーク化ニーズは強い。個人のコミュニケーションに対する熱意もまだまだ冷めてはいない。関係者が連携してこのような潜在ニーズに応えるアプリケーションをどんどん開発することによって、実り多いワイヤレスビジネスを構築したいものである。