[NIKKEI NeT ITニュース「ネット時評 Digital Byline 2001年4月2日掲載]

 

何のための競争か?
−−もっとエンジニアを大切にしよう−−

 ドミナント規制やらNTT再々編やら、かまびすかしかった通信業界競争の枠組みの議論がひと段落したようだ。通信業界にどのように競争を入れるかという議論で、具体的な手法によって甚大な影響があるので大切だ。ただ前回のNTT再編論議の時に引き続き、またしてもNTT対反NTTという、企業間の経済的利害関係の対立に周囲が巻き込まれて、不毛な議論が続く構図に陥ってしまったのがいささか情けない。

 そこでこのあたりで一歩下がって視点を変えてみるといいのでないだろうか?差し迫った案件がいくつもある中に悠長な議論をして恐縮だが、現在の袋小路から抜けるには本質的なところに遡ってみるしかないように思う。ここで取り上げたいのは「そもそも何のために競争するのか?」という点である。

■革新は多様性からこそ生まれる

 こんな問いかけをすると、「そんなことは当たり前だ」と経済学の方に怒られてしまいそうだ。独占市場では価格が高くなってしまうので、価格競争を入れる。

 その役割を100%認めた上で、もっと大切なのはより多くのエンジニアに、より多様な技術の有効性を証明する機会を与えることだと主張したい。この視点をあえて強調したいのは、競争には「同質な技術の競争」と「多様な技術間の競争」があって、価格競争を重視した競争政策がえてして「同じ土俵」にこだわるあまり、技術の多様性――エンジニアの創造性――を圧殺してしまいかねない危険があるからだ。

 根本にあるのは革新が多様性の中からこそ生まれるという認識だ。同質の技術で似たような会社をたくさん作って、護送船団の箱庭競争する中からは政治闘争と談合構造は生まれてもイノベーションは生まれない。フロンティアを切り拓いていかなければならない時には、多数決で良いと決まるような技術ではなく、当初は突飛だったり、邪道だと思われていた技術が大化けする道をひらいておかなければいけない。IP(インターネットプロトコル)が優れていたのは、上下のレイヤ、特に下位(物理層)の選択の自由度を大幅に上げることによって、さまざまなレイヤで、いろいろな技術が百花繚乱でてくることを許しながら、それぞれが組み合わさって新しいサービスが加速度的に生まれるオープンなプラットフォームを用意したことだ。IP自体も長らく国の情報政策の中では傍流扱いだったことを思い出してほしい。

■公平な競争の場作りが必要

 多様な技術に機会を与えた上で、最終的に技術を選ぶのは、政府でもなく通信事業者でもなく、ユーザにしていただく。市場に向けて本命、穴馬いろいろな技術が競争して、勝ったものが残る。古いと思われている技術も無理に殺さずにチャンスを与えたい。かつて「ハードディスクはもうおしまい」と言われたことがあったが、現実にはHDDはしぶとかった。多様な技術に公平な競争の場を作るのだ。

 制度づくりにかかわる人間は常に技術開発をしているエンジニアの顔を思い浮かべながら作業してほしい。政治的な駆け引きでおかしな制度を作るたびに、エンジニアたちが不条理と思いながら設計変更させられている。それが技術的に合理的なものならまだいいが、たいていは余計な複雑さを導入してコストアップさせたり、システムが不安定になる原因を作ったりする。お客様のために大変なエネルギーをかけて開発してきたシステムが官僚や民僚の面子を救うためだけに作り直されたりする。「たまらない!」というエンジニアの声に耳を傾けなければいけない。