[NIKKEI NeT ITニュース「ネット時評 Digital Byline 2001年2月7日掲載]

「Lモード」問題(下)未来志向政策の欠如

 固定電話版iモードであるLモードの認可が東西NTTに対する県間通信規制によって先送りされるという報道を見て暗澹たる気分になった。法的にはそれが正しいのかもしれないし、ラストワンマイルで独占性を残すNTTに対して非対称な規制が必要という議論には耳を傾けたい。しかし、それによって情報弱者や低所得者にまで広くネットワークの恩恵をひろげるサービスが大幅に遅れるのは本当に悲しい。報道が誤報であることを祈りたい。もし報道どおりに先送りされてしまったら、業界の護送船団を守る規制が、消費者につけをまわす典型になってしまう。

■意味のない「県内」「県間」規制

 我々は何のためにIT基本法を制定したのだろう。「1年以内に有線・無線の多様なアクセス網により、すべての国民が極めて安価にインターネットに常時接続することを可能とする。これに必要なあらゆる手段を速やかに講ずる。」とうたったIT基本戦略を本気で実施する気があるのだろうか?「遅れを取り戻し全ての国民に世界最先端のIT環境を提供する」のではないのだろうか?こんなことで遅れをさらに拡大していいのだろうか?

 規制の対象が独占の存在するアクセス回線への接続条件なら分かる。しかし今回の問題は県内、県間だと報道されている。確かに現行法では、東西NTTは県間通信をやってはいけないことになっている。しかし言うまでもなく、インターネットの世界には県内も県間も国際も存在しない。インターネットのために何かサービスを提供したら即国際通信を提供していることと同じになる。今ごろ大昔の電話ネットワークを念頭につくった県内、県間の垣根などという根拠で規制をしたら、世界の笑いものになってしまう。

 行政に文句を言ってはいけないのだろう、これは時代錯誤の立法をしてきた国会の責任だし、それを許してきた我々言論界の敗北でもある。悪法も法というなら、一刻も早く法を改正して、即刻施行しなくてはならない。

■部分独占か全面競争か

 このような事態を招来したのは、通信業界の競争構造をどのようなものにするのか、基本戦略がふらついているからだ。大きく言って、二つの選択肢があって、そのどちらかを明確に選ばなければならない。第一の選択肢は通信業界の一部(より具体的にはアクセス回線)には永遠に独占が残ることを許容してその独占的な部分(essential facility)との相互接続について公平な条件を確保する制度を作るものである。

 第二は通信業界から独占的な部分を全てなくし、全面的に競争を導入することである。ここで全面的な競争状態とは、「日本の任意の二点を結ぶときに常にNTTの施設を完全にバイパスできる状態」と定義しておく。現在も独占状態が残るとされるラストワンマイルも含めて全面的な競争を実現するのだ。

 どちらの選択肢を選ぶかを現実的にわけるのがいわゆるラストワンマイル(市内アクセス回線)である。現在、独占状態が残っているのはここだけであり、CATVの展開などによって地域によってはここでも独占が崩れつつあるが、新たに参入するためには莫大なコストがかかることもまた事実で、ここがいわゆるessential facilityとして当面の規制の対象となることは妥当と考えられる。

■求められる政治のリーダーシップによる解決

 当面、essential facilityを根拠とした何らかの非対称規制が必要であることは認めた上で、通信業界における競争政策の目標はあくまでも全面的な競争であるべきだ。相互接続問題などはどこかでNTTの設備を使わないと通信が完結しないから起こるわけで、その状態が残っている間はいくらNTTに非対称規制をしても効果が薄いことはこれまでの通信業界の歴史を見てもはっきりしている。どこかでNTTの設備に頼るサービスでは、結局NTTの提供するサービスメニューに縛られてしまう。

 戦略の明確化が必要なのは、短期的な問題解決が長期的な問題解決の邪魔になることが多いからだ。経過措置的に非対称規制で東西NTTに対してessential facilityへの公平な接続に対する圧力はかけ続けるのは許容範囲内の必要悪であるが、その手段が原因となって県内、県間といった意味を失った垣根が固定化されるようでしたら本末転倒である。最終的な目的は全面的なバイパス、それも複数事業者による実現を目指すべきである。鉄道、電力、上下水道、ガス、河川、道路など活用できる伝送経路を全て動員してNTT完全バイパスを実現すべきである。その道筋をつけた上でNTT法は廃止し、完全民営化を行う。そのスケジュールこそいま議論すべき点で、県内・県外の正しい垣根のあり方を考えるのは貴重な時間の無駄である。

 法に従って行政を行う立場の方々は恐らく以上のような問題は全て承知の上で、悪法も法であるということで苦渋の選択を迫られていることと思う。このような文章を書いて責め立てるのは申し訳ないとも思う。このような時こそ、政治のトップがリーダーシップを発揮して、方向を指し示すべきではないだろうか。はっきりした理念のもとに未来志向の政策を立案、実行していただきたい。