[NIKKEI NeT ITニュース「ネット時評〜 Digital Byline 」2001年1月1日掲載]
2001年の設計図
年始にあたって、我々がネットワーク技術を使ってどのような社会・経済を構築したいのか基本的なビジョンを提案した上で、どのようにそのビジョンを実現していくかについて具体的な方向性を見定めてみたい。
■ネットワークによる参加型社会構造を
まずはビジョン。21世紀に構築すべきはネットワークによる参加型の社会構造だと主張したい。物理的、時間的制約を超えて全ての国民が情報を共有し、主体的に働きかけを行う社会だ。産業界では既存の系列をこえて、大小さまざまな企業が自社の能力をネットワークで有機的に結合して、市場ニーズに応える魅力的な財を提供していく。生活に近いところではネットワークの上にバリアフリーの空間を構築することによって、高齢者や子育て中の女性、身体障害者など、これまで孤立してしまうことで力を必ずしも発揮できなかった方々を含めて国民全てにフルに力を発揮していただく。これで生活者には生きがいがあり、経済的には活力がある社会が構築できる。ネットワークはこれまで断片化し、孤立していた人間の知恵を結合することによって大きなエネルギーを生み出す。その力で高齢化が怖くない体質を作ることに成功した時に日本にも大いなる展望が生まれるであろう。
■具体策の三つの領域
次に大きな方向を具体策にまとめていく上で三つの領域を設定したい。すなわち(1)ネットワークによって経済構造全体を再編する、(2)ネットワークを活用した新しいビジネスをどんどん興していく、(3)機器産業なども含めてネットワーク産業そのものを活性化していく、である。それぞれについて語るべきことは多いが、本稿ではそれぞれの領域について最も重要であると思われることについて述べてみよう。
第一にネットワークによって経済構造を大きく変えていく方策である。個別の産業におけるサプライチェーン改革など、取り組むべきことは無数にあるが、本稿ではネットワークによって産業金融のあり方を改革していくことに大きな意義があることを強調したい。ネットワークは全ての国民が直接資本(株式)市場に参加することを可能にする。政府にお金を預けて財政投融資などで行き先を決めてもらったり、銀行にお金を預けて銀行に決めてもらうのではなく、ネット上に公平に開示された情報をもとに、国民一人一人が自分で日本の未来を考え、より良い活動を行っている企業に資金を流していく。投資基準は利潤でもいいが、環境など社会正義の観点から行ってもいい。国民による参加型の産業金融を行って、リスクも機会も国民が分担していく社会を構築する。政府や大銀行にお金を預けたらリスクフリーで投資してくれるという幻想から脱却し、情報を国民全体で共有して、国民全体で意思決定する社会の構築だ。企業も政府の補助金や公共事業に頼って官僚に顔を向けて仕事をするのではなく、社会全体に自社の取り組みを説明し、資本市場を向いて仕事をする。この実現に向けてネット上における資本市場の整備に向けた取り組みを推進する。市場の24時間化、取引単位の小額化、キャピタルゲイン(ロス)課税の見直しなど−−できることは多い。
第二はネットワークを活用した新しいビジネスを興すことである。ネットワークはさまざまな業界においてこれまでは実現不可能だった新しいビジネスモデルを現実のものとする。問題はこれまでに構築されてきたさまざまな制度が新しいビジネスモデルを想定せずに作られたために障害になっている場合が多いことだ。対面や書面の義務付けはその象徴である。先般の書面電子化の一括法によって、改革を行う前提条件は整備されてきたが、各業界において本当に新しいビジネス形態がどんどん生まれる状態を作るためには周辺的な制度改革を数多く行っていかなければいけないのが実態である。これはかなり細かい作業の積み重ねになってくるが、着実に前に進めていきたい。例えば処方箋が電送できるようになるだけで実現できるビジネスモデルが数多く考えられる。改革には既存産業の痛みを伴うことがあるしトラブルが発生することもあるので、無責任な議論は禁物だが、同時に大胆に新しいビジネス形態に挑戦するところにこそ、活力が生まれることも肝に銘じておきたい。
第三はネットワーク産業そのものの活性化である。これは全てに基盤を提供するものである。高度なネットワークサービスが低廉で、使いやすい料金体系で提供されない限り、上記のシナリオ全ては水泡に帰す。最大のポイントはラストワンマイルにおける競争を進展させて、ネットワーク産業に完全な競争状態を作ることだろう。ここで完全な競争状態とは、日本の任意の二点を結ぶときに常にNTTの施設を完全にバイパスできる状態にある、と定義したい。現在問題となっている相互接続問題などはどこかでNTTの設備を使わないと通信が完結しないから起こるわけで、その状態が残っている間はいくらNTTに非対称規制をしても効果が薄いことはこれまでの通信業界の歴史を見てもはっきりしている。サービスにしてもNTTの提供するサービスメニューに縛られざるをえない。片側でネットワークのオープン化に対する圧力はかけ続けるとして、最終的な目的は完全なバイパス、それも複数事業者による実現を目指すべきと考える。これによって多彩なサービスが多様で使いやすい料金体系のもとで提供される状態を作りたい。鉄道、電力、上下水道、ガス、河川、道路など活用できる伝送経路を全て動員してNTT完全バイパスを実現すべきだ。
取り組むべきことに取り組んで、日本の持つ大きな力がのびのびと発揮される環境を作りたいものである。