[NIKKEI NeT ITニュース「ネットビジネス最前線」2000823日掲載]

日本企業の構造改革促す電子市場・オープン型経営可能に

 日本でも企業間取引において、ネットワーク上に電子的な取引空間を作る動きが本格的になってきた。既に開始したもの、アナウンスしたものの他に水面下で多くの取り組みが進行しており、運輸、建設、工業部品、人材、デジタルコンテンツなど業界も多岐にわたっている。今秋から来年前半にかけて一気に数が増えることであろう。

・あふれるミスマッチ

 ブームには必然性がある。情報がないというだけで、空のトラックが走っているのに、一方では運べない荷物が待っている状況、すぐそばで足りない現場があるのにそれがわからずに余って寝ている建設資機材、スタッフ不足に悩む小企業と才能を活かせずに不完全燃焼している人材――など、世の中にはミスマッチがあふれているからだ。インターネットによって、潜在的な需給を効率的に探索するだけで新たなビジネスチャンスが発生し、経済全体の生産性やスピードが高まる。ピーク時の需要に合わせて設備を用意しなければいけない産業などでは、情報技術によってきめ細かに価格形成して需要の調整ができれば、設備稼動を平準化させて資本効率を上げることもできる。ほとんどすべての産業においてこのようなメリットを追求する余地があるのではないだろうか。

・中核機能に資源集中投入

 このような即効性のある効果に加えて、電子市場の進展が遅れている日本経済の構造改革を推し進める期待もかかっている。企業グループに閉じた仕事の配分や物流体系などを開放し、多様な企業の組み合わせでビジネスを展開する。そのような環境が整うと、各企業がオープン型の経営をとることが可能となる。自社がどこよりも優れている中核機能に経営資源を集中投入して、他機能はそれをもっとも良く行う他社に委ねることで、機動的で高収益の体質を作る。1970年代までの多角化戦略によって水ぶくれし、80年代には停滞に苦しんでいた米国企業はオープン型に構造改革することによって、経営に機動性を取り戻し、インターネット時代を迎えた時に一気に攻めに転じた。クローズド型構造は戦後、物流センターなどの処理能力に限りがある時代には合理的であったし、業界によってはいまだに合理性があるともいえる。そのような業界にまで一律にオープン化を押し付ける必要はないが、経済のソフト化や業界の成熟などを受けて本来はオープン化を進めた方が良いのに、過去のしがらみでなかなか進展していない業界も多い。ネットワーク化を契機にそのような遅れを挽回することができるはずだ。

・実験的サービスに特例措置を

 可能性が大きい反面、課題が多いことも確かである。特に大きいのは既存秩序からの抵抗だ。電子市場が構造改革を促すぶんだけ抵抗も大きい。中古車市場などで先駆的に流通構造の変革をになってきた企業は、旧来の市場秩序を守るさまざまな規制に道を阻まれてきた。単に公的な規制だけでなく、業界の自主規制などの網も多い。これから本番を迎えると思われる領域についても、農作物がからむ分野などでは従来の安定供給のために作られた仕組みによって市場メカニズムがうまく機能しない場合が多いし、医療などの領域では安全性やプライバシーの問題が進展を阻んでいる。

 理由があって作られた規制について単純な撤廃論をしても時間が空費されるばかりだろう。ポイントは制度が何の目的のためにあるかを考え、それがネットワーク時代にも必要なものであるとするならば、どのようにその目的を達成するかを考え、工夫して仕組みを電子市場に作り込んでいくことだ。創造的で筋の通ったソリューションが提供できれば世論も後押ししてくれる。逆に制度を作る側は、過去の技術や社会を背景に結果として出来上がっている既存秩序にこだわることなく、その背後にある目的を改めて問い直し、ネットワークの力を矛盾なく社会全体の幸福につながるように改革を進めるべきだ。また、時には特例措置で実験的なサービスを認めてほしい。その際には予め懸念する弊害を提示し、やらせてみた結果、あまりに問題が大きいようなら事後的に規制するのでもかまわない。とにかく今はさまざまな技術やビジネスモデルを実験し、可能性を探るべき局面だ。

・不確定な収益モデル

 規制や既存秩序からの抵抗以外にも、電子市場にはその運営を行う会社がどのような収益モデルを採用すればいいか(広告ベース、取引毎手数料、定額手数料など候補はいろいろあるがまだ決定版があるとは言いがたい)まだ不透明で、利益がでるかどうか良く分からないなど、存立の根幹にかかわる部分で不確実性を抱えている。そのように考えると、大いなる希望をいだく反面で、乗り越えなければいけないハードルも高いことも事実だ。しかしながら、ここで突破ができないと、日本はIT化する世界経済の中で決定的に遅れをとってしまう。船出しつつある事業者、制度づくりをする関係者、そしてネットを活用してビジネスを展開する産業界など、全員の創意工夫でハードルを突破し、可能性を現実のものとしていきたいものである。

(慶應義塾大学ビジネススクール教授 国領二郎)