[NIKKEI NeT ITニュース「ネットビジネス最前線」2000718日掲載]

ITと構造改革の好循環を・避けたい「お祭り騒ぎ」

 ITに対する期待がかつてなく高まっている。取り組みを前面に打ち出す第二次森内閣が発足し、本稿が外に出るころにはIT戦略会議も始動していることであろう。長年、情報ネットワークを軸とした経済再構築を主張してきた身としては、最近の流れが大変うれしく感じられる反面、これが単なるお祭り騒ぎで終わらないで欲しいという思いが強い。流れを確かなものにするためにもIT政策を考える「視点」を提供したい。

・前提は構造改革

 何より基本認識が大切だ。ITが産業で力を発揮するのはビジネスモデルが変化するときであって、旧式ビジネスモデルの中にいくら新技術を投入しても効果は短期で終わってしまうことを強調したい。もう少しマクロな表現をすれば、IT革命によって経済を救おうとするなら、経済構造改革は待ったなしだ。いまだ根強く残る護送船団モデルを生きながらえさせるような対応は許されない。

 構造改革の方向は開放系の構築である。ネットワークの真価は社会に存在するさまざまな経営資源を機動的に結合させ、新しいビジネスモデルの中で活用することにある。この特性を生かすためには、開放的な組織や経済が構築されなくてはならない。より具体的には従来型の組織にロックイン(閉じ込め)されている経営資源を流動化させることだ。労働市場の整備、M&Aなどによる企業構造再構築、アウトソーシングによる自社の中核事業への資源集中などを進め、経営資源が常に最もふさわしく、必要とされるところで活用されるようにするのだ。

・「短期」と「長期」、施策に整合性必要

 大胆な構造改革が必要であることを踏まえた上で、それを実現するために多くの時間は使えない現実も直視した方がよさそうだ。日本経済の現状を考えた時、従来型の公共投資による景気刺激には限界も見えているし、続けたくともあまり長く続けると財政破綻が表面化してしまう。それがいつになるのか、正確には分からないが(恐らくはそれほど遠い将来ではない)財政が本格的に息切れする時より前にITと経済が好循環の中で発展していく軌道にのせなければならない。即効性のある施策を求められた時に、応えられないまま、抜本的な構造改革を叫んでも聞き入れてもらえないだろう。

 そこで求められるのは長期的なゴールに整合的でありつつ、かつ短期的な効果も持ちうる施策である。例えば低廉・定額のインターネットサービスの全国普及である。速度さえ過度に要求しなければ既存の設備をフル活用することで早期に実現できる。ネットワークの普及が何より大切なのは、それで構造改革の内発的な圧力が高まることが期待できるからだ。

 そごうが債権放棄ではなく、民事再生法による再建の道を進むことになったてんまつはネットワーク時代を象徴している。ネットワークでつながった消費者の連携で不透明なプロセスが拒絶され、よりオープンな処理が選択された。その事実にも増して注目すべきは、その後のマーケットが、ニュースを前向きに受け取ったと見られることである。これは日本が消費者主導で構造改革を進める意思を示したことに明るい未来が開けると市場が判断していると考えられる。

 ごく短期の景気回復の手段として、IT公共事業が出動する場面も想定しておかなければならないようだ。どうせやるなら、次の段階で自由な競争を促進するような設計にしたい。IT関連でいえば、例えば公益事業の「right of way」(ファイバーなどを設置できるスペース)上に公的資金で光ファイバーを敷設してラストマイルに競争を導入することが検討されている。もちろん、最終的には「Right of way」そのものを開放することが望ましく、次善の策ではある。ただ、その制度改革を待っていられない間は、(1)公的機関が手がけるのをダークファイバー(物理的な線だけを貸すこと)に限定する(2)貸し方も競争入札で行う(3)ネットワークサービスを運営するのはあくまで民間とする。以上のような形で行えば、緊急の景気刺激と競争促進を両立させることができる。

・「演出の道具」にするな

 情報化が開放構造への転換を促し、開放構造が情報技術の能力を引き出す好循環を一刻も早く構築したい。そのためにもIT革命を深刻な問題から目をそらさせて明るい雰囲気を演出するための道具としたり、ITの冠のもとに従来型構造を維持する施策にすり替えたりしてはならない。

 構造改革には痛みが伴うが、日本には大きな技術的な蓄積と、豊かな文化、新奇な製品を進んで受け入れる好奇心あふれた消費者など、大きな資産がある。知が勝負を左右するネットワーク時代を戦う資格十分だ。新しいビジネスモデルがどんどん生まれ、その豊かな資源をフルに活用する構造を作れば恐れる必要は何もない。

(慶応義塾大学ビジネススクール教授 国領二郎)