[NIKKEI NeT IT
ニュース「ネットビジネス最前線」2000年6月22日掲載]「ラストワンマイル」に競争導入を・公取委提言を読む
米国が提起した相互接続問題に関連してNTT法の改正論議が浮上、通信と放送の融合を首相が提案するなど通信・放送をめぐる制度改革の議論が活発になってきた。ここでは
6月12日付けで公正取引委員会が公表した「電気通信事業分野における競争政策上の課題について」を検討してみたい。( http://www.jftc.admix.go.jp/pressrelease/00.june/00061201.PDF )
同文書はNTTとNTTドコモの資本関係を切り離すことを提言しており、その部分だけがセンセーショナルにクローズアップされている感がある。しかし、きちんと読めばラストワンマイルへの競争導入を促進することに焦点を絞り、達成のあかつきには、相互接続料金規制やNTT法などの廃止を目指すなど、筋の通った提言がある。少し細かく見てみよう。
・「好ましくない国の関与」
提言は
8項目にまとまっている。第1項は電気通信事業の区分問題についてである。注目に値するのは第1種・第2種区分の撤廃に加えて「電気通信設備を他の事業者に提供し、自らは電気通信サービスの提供を行なわない事業形態」を認めることをうたっていることである。これが制度化されれば、既存の通信事業者だけでなく下水道や鉄道など、ケーブル敷設が可能なルートを持っている事業主体もダークファイバ貸し事業(光ファイバーの転貸事業)などが機動的にできるようになってラストワンマイルの競争を促進する上で有効だ。第
2項目はNTTへの接続条件である。米国との間でもめているホットな問題だ。ここで目をひくのは「現在のように民間事業者の設定する接続料金が法制上、国の関与によって決まるという仕組み自体が、好ましいとはいえない」というスタンスをはっきり打ち出していることである。そしてそれができない理由がラストワンマイル問題であると断じ、その解決を促している。やや深読みになってしまうが、この表現は接続問題がラストワンマイルという伝送路設備の問題であって、電話サービスなどの役務におけるシェアの問題ではないと言っていると解釈できる。これはきたるべき通信・放送制度全体の見直しの時に、従来のような役務別に業界秩序を考えるのではなく、伝送路、ネットワーク設備、コンテンツなど、機能階層で考える思想につながり、歓迎すべきものだ。
・オークション制の導入提言
第
3項、第4項はラストワンマイル問題の解決に向けて具体的な提案となっている。ケーブルテレビにおける施設設置・整備業務と番組提供の分離、そしてADSL敷設条件整備をうたっている。第3項は設備提供とコンテンツ提供の分離という放送と通信の融合をにらんだ問題提起を行っており意欲的だ。第4項は周波数配分へのオークション制導入の提言で、これまでなかなか踏み切れないできた懸案について前向きの方向を明確にしている。新規参入事業者などに道をひらくオークション制は欧米では一般化しつつあり、ぜひ実現させたいところである。第
5、第6項目はNTTグループの扱いについて述べている。第5項ででは昨年実施されたNTTの再編について「期待された効果が必ずしも現れていない」と断じた上で、第6項においてNTTドコモに対する出資比率を「NTTドコモが独立した競争単位になるまで引き下げる」ことを要求している。そしてそれら施策の目的がラストワンマイル問題を解決することであると述べている。ラストワンマイル問題を解決した上で、NTT法を廃止して完全に対等で自由な競争環境を作ろうという方向でまさに正論である。第
7、第8項は法制度についてである。第7項では競争環境整備を行った上でのNTT法の見直しと、通信と放送の融合を前提とした統合的な法制を求めている。第8項では必要な競争政策推進に向けた関係省庁連携をうたっている。・国民生活に甚大な影響
以上見てきたように体系的な提言なのだが世間の関心がNTT、特にドコモ分離問題に集中してしまうのは、いたしかたのないところであろう。筆者もいい加減そろそろNTTをめぐる諸問題を解決しないと日本の通信産業は国際的な競争力を決定的に失ってしまうと思う。NTTは常に足かせをはめられて国際競争が展開できず、新規参入通信事業者はラストワンマイルのボトルネックで斬新なサービスを展開できない。このままでは「IT革命」どころではなく、通信基盤を使ってさまざまな経済活動を行なう日本の産業全体が遅れ、国民生活にも甚大な影響を与えてしまう。
もとより、株主に対して責任を持っているNTT経営陣にとってドコモ分離などは簡単に同意できるものではないし、大株主である政府も一般株主に損害を与えるような意思決定を強制するわけにはいかないだろう。しかしながら、NTT法を廃止ないしは大幅改正し、同社に科された資本調達上の制約(現在、外資規制や政府持分規定などでできない)などを取り去る施策を同時にとれば、同社の国際戦略などにおける自由度を大幅に高めて株価にとっても好影響がでよう。NTTも他通信事業者も、そして何よりユーザが恩恵を受けられる決着が設計可能だと思う。
NTTはドコモを分離するか、それを回避したいなら別途世間が納得する抜本的なラストマイルのオープン化施策を打ち出して、それと引き換えに完全な経営の自由を獲得してほしい。それは情報通信産業全体を人工的な規制から解き放って自由に創意工夫が発揮できる産業とするであろう。
(慶応義塾大学ビジネススクール教授 国領二郎)