[NIKKEI NeT IT
ニュース「ネットビジネス最前線」2000年5月24日掲載]空洞化に向かう著作権ビジネス
Napster (http://www.napster.com/) やGnutella (http://www.gnutella.wego.com/) など著作物交換の仕組みをめぐる動きが急だ。これらのサイトにあるソフトウエアや機能を使うと、個人的鑑賞のためにデジタルファイル化し自分のハードディスクなどに格納した音楽等を、ネット上で友人同士が参照し合うことができる。これが著作権の侵害にあたるか否かは法律の専門家の領域なので筆者の余計な判断を加えるつもりはないが、実質的に著作物をネット上で無料で入手できる仕組みが、コンテンツを扱う業界の従来のビジネスモデルを完全に空洞化させる可能性を秘めていることだけは確かで、目が離せない。
・既存モデルと相性の悪いネット
これを海賊版の横行やそのほう助と見て、取り締りを厳しくする動きが活発であるが、その処方せんだけに頼るわけにはいかないだろう。後述のように背景にはかなり本質的な問題があり、流れに逆らって処罰だけ厳しくしても、どんどん技術的、社会的に取り締まりをかいくぐる仕組みが出現してくると覚悟すべきだ。当面大きな影響を受けているのは音楽業界だが、新聞や出版、放送業界など、情報コンテンツを扱う業界全てが同じ課題に直面すると思われる。 この問題の根本には従来型の情報コンテンツのビジネスモデルとネットとの根本的な相性の悪さがあると見ていい。従来型のコンテンツ流通ビジネスモデルの典型は(1)コンテンツを凍結(中身を固定化)させ、(2)凍結された状態で同じものを大量に複製しつつ、(3)知的所有権やコピー防護技術で各コピーに排他的所有権を設定しパッケージ化し、(4)一パッケージいくらといった価格を付け、販売する方式であった。ここではこれを凍結パッケージ型モデルと呼んでおこう。サイトライセンスなどもこの派生形態と言っていい。このような手法は情報を複製するにあたって固定費が大きく変動費が小さい場合に優れており、書籍出版などにはきわめて相性の良いビジネスモデルであったと言ってよいし、音楽をレコードや
CDなどにのせる方式も有効だった。凍結パッケージ型モデルとコンピューターネットワークの大きな矛盾の根は、コンピューターネットワークが、これまで一部のサービス提供者しか持ち得なかった、安価に良質かつ大量の複製を行って流通させる機能を、誰でもが持てるようにしたところにある。ホームページにしても、掲示版にしても、誰しもが低コストで情報発信できるところにこそ価値がある。このような環境の中で凍結パッケージ型ビジネスモデルを押し通そうとすると、コンピューターを持つ全ての人にネットの持つ最大のメリットをみすみす放棄することを求めなければならない。筆者も著作権侵害行為には気をつかって回避しているが、気をつけていないと回避できないほどコピーも転送も簡単だし、全ての学生に読んでほしい有益な情報を共有できないもどかしさは日々感じている。何より情報は共有されてこそ価値が増大するのに、それにブレーキをかける仕組みだらけであることに怒りをおぼえる方がいらしても同情したくなる。
・「おたく族」の逆襲
少しセンセーショナルに表現すると「
Geeksの逆襲」という見方で捕らえることも出来るだろう。Geeksには適当な日本語訳が見当たらないが、「既存の社会的な制約にとらわれずに技術の可能性を追求する技術信奉者たち」とでもいうべき人々のことである。時にオタクと呼ばれて変人扱いされたり、社会規範にはずれるものを作る危険分子とみなされるが、彼らはインターネットを作り上げる上で大きな役割を果たしてきた功労者であり、無視できない。何よりインターネットビジネスは彼らに依存している。彼らにとってみては旧式のお金もうけルールのために大切な技術ががんじがらめにされたり利用されたりするのが許せない。最近の政府や大企業サーバーに対する攻撃や今般の著作権破りをめぐるゲリラ的な動きの中には、一部の過激なGeeksの抗議行動が混ざっていると見るべきだろう。Geeksに共感をおぼえる一方で、筆者自身も著作を行う人間であり創作の労の多さは痛いほどよく理解できる。資料集めなどの人を使ってコストもかかっているので、著作に対して全く金銭的な収入がないと新しいものを創ることもできない。自分の著作物を勝手にコピーされるのは人格権上の問題としても異議をとなえたくなるところである。従って、著作権の防衛に力を入れる音楽業界などの動きも同じく同情に値する。少なくとも凍結パッケージ型による提供を意図して従来型のメディア(CDなど)で提供されたコンテンツが勝手にネットにのせられて複製されるような状況は望ましくない。
・求められる新しいビジネスモデル
安易なことを書くと違法行為を許容しているとのそしりを受けてしまいかねないが、そのリスクを覚悟の上で、この両者はどちらか一方が他方を完全に屈服させるような形では収まらないと思う。むしろ目指すべきはネットワークの機能を殺すことなく創作を行う方々に報酬を差し上げられるようなビジネスモデルを開発することではないだろうか。現状の問題はネットではないところで発達した表現形態とビジネスモデルを無理やりネットの上に移植しようとする無理に起因している。ここで発想を転換して、ネットに向いたコンテンツをネットに向いたビジネスモデルで提供することを考えたい。筆者に決定的なアイディアがあるわけではないが、例えばコンテンツをダイナミックにすることが考えられる。参加型のライブコンサートなど特定の「場」にいて、コンテンツが場の状況によって変化するようなコンテンツであれば場への参加フィーとしてお金を頂戴(ちょうだい)する。
これ以外にももっといい手法があろう。ポイントは自由にコピーや共有をすることを許しながらクリエーターにちゃんと報酬が返ってくる仕組みを作ることだ。
創造的に解決方法を探して、
Geeksもクリエーター達も思いきり才能を発揮できる状態を作りたいものである。(慶応義塾大学ビジネススクール教授 国領二郎)