[NIKKEI NeT IT
ニュース「ネットビジネス最前線」2000年3月29日掲載]反動恐いネット株バブル、ベンチャー人材確保に影響も
インターネット関連株が日本でもバブル状態になっているという懸念の声を多く聞く。確かに既に上場している企業の株式だけでなく、これから上場を控えているスタートアップ企業についても、出資をめぐる投資家間の競争から、収益に見合わないと思われるような高値がついている事例も見られる。
個別銘柄について妥当性を論及するのは筆者の専門外だが、全体を鳥瞰(ちょうかん)したとき、短期的な現象面とともに長期的な課題も見えてくる。
(慶應義塾大学大学院助教授・国領二郎)
・資金の需給バランスが崩壊
短期的には資金の需要と供給のバランスが崩れていることがある。米国におけるインターネット株の値上がりぶりを見て、日本のインターネットビジネスに対する期待が高くなり、国内外から大量の資金が流入している。投資のために準備された資金の大きさに比べて、優良な投資案件の数は少なく、投資家同士の競争の中で値段が高くなる。バブルといわれるゆえんで、何かのきっかけで大きく崩れることがありうるという見方だ。
短期的要因をこえて、もっと深遠で長期的な課題は、我々がネット関連株の価値、さらに言うと、情報の価値を価格で評価する尺度がないことだ。これがないから短期的にも今がバブルの状態なのかどうかが分からない。80年代のバブルは収益還元法という評価手法が理論的な確立した中での高騰で、冷静になれば収益を大きく上回る資産価格がついていることは容易に分かったはずだ。一方、現在のネット関連株の水準は感覚的に「あまりに高い」とは言われるものの、ネットビジネスが将来的にどんな収益をあげるか予測はつけにくく、妥当と考えていい価格に極端な幅がありうる。
・物財にない特質持つ「情報」
少し掘り下げて分析すると、情報という財が、物財にはない特質を持っていることが根本にある。すなわち、情報には(a)複製して他者に渡しても自分の手元にも残る(b)複製(つまり追加1単位生産)してもコストがほとんどゼロに近い、などの特徴がある。ところが、市場における価格メカニズムが成立するためには(1)財に排他的な所有権が設定できること(2)追加生産に伴う収穫が逓減すること、などが必要条件となっている。つまり、情報という財には、市場で正常に価格形成がなされるための必要条件が欠けているのである。特に追加生産のコスト(限界費用)がゼロに近いということは価格がゼロに近づくということで、情報はなかなか売れない。現実のネットビジネスでも、大変便利でユーザに喜ばれるサイトを構築しても、収益の見込みすら立てられず苦しむことが多い。
「商売にならない」のに株価が高くなるのは、情報にはソフトウエアなどで同じ製品を利用している人が増えるほど価値が高まる「ネットワークの外部性」が働くからだ。情報財は収穫逓減どころか収穫が逓増する爆発的なエネルギーを生み出す。
爆発的なエネルギーを持つゆえに、何らかの形でそれを貨幣的な収入に置き換えることに成功すると、収益を生みにくかった情報が急に膨大な富を生むようになる。例えば、マイクロソフトはソフトウエアを制度的・技術的にコピーしにくいようにして、フロッピーやCD−ROMといった排他的所有権を生み出せる媒体にのせて販売することに成功した。
このように情報を価値の源泉としているビジネスは全くビジネスにならなかったり、膨大な富を生み出したり、振幅が大きい。妥当な価格が判断しにくい訳だ。
学者がなぜ計測が難しいか言い訳しているうちに、不確実性はますます増大してきている。ネットビジネスの業界関係者は、株高の反動が来ることを一番心配している。ネットビジネスに逆風が吹き、一転して資金が枯渇するようになることだけは避けたい。
・日本は経験不足
あまり指摘されていないが、もっと恐ろしいのはストックオプションなどのエクイティを用いた対従業員のインセンティブが機能不全に陥ってしまうことかもしれない。現金を節約したいスタートアップ企業にとっても、大きなリスクを覚悟でベンチャーのもとで働く従業員にとっても、株による報酬の制度は有効なものである。きちんと機能することは、業界の人材確保のためにも重要だ。あまりに早期に株価がどんどん上がって、後に下がるようになると、せっかくの有効な報酬の仕組みが後々に社内に大きなもめごとの火種になりかねない。
こうした話だけでなく、ネットビジネス全体について日本に経験が不足している感は否めない。税制などが微妙に異なるため、アメリカの経験も直接的に日本に適用できるか不明で、何が起こるか分からない。事態の推移を十分に見極めながら、荒波をくぐって発展する賢く力強いネットビジネスを作っていきたいものである。