[NIKKEI NeT ITニュース「ネットビジネス最前線」2000121日掲載]

通信制度、再度の改革必要に・ネット技術で枠組み急変

 NTTの再編以来、しばらく静かになっていた電気通信制度の改革論議が再び盛んになる兆しが見えてきた。これまでの改革が長距離電話や移動体通信などにそれなりに競争を導入し、通信料金を下げてきたことを前向きに評価すべきだろう。しかし、現在の制度的な枠組みは電話の技術を想定したものとなっており、インターネットを中心とする新しいネットワークのあり方に必ずしも対応できていない。これが、いくつかの重大な問題を発生させていることも事実で、近い将来に再度改革をする必要があろう。

(慶應義塾大学大学院助教授・国領二郎)

 

・電話網が前提のNTT接続料問題

 このことを雄弁に語っているのが国際大学グローバル・コミュニケーション・センター所長の公文俊平氏による「Time to Push Japan's Telecom Policy Reforms」(2000111日付、邦題は「日本の電気通信政策改革を進めるとき」)という論文である。( http://vox.glocom.ac.jp/opin/telref1.html )

 この論文は現在日米交渉の焦点となっている回線の相互接続問題についての米国の戦略が米国自身にとっても誤りであると指摘しており、なかなか刺激的である。英語で書かれ、海外に発信する形式で書かれているところも意義が大きい。

 公文氏の疑念は、現在の交渉の焦点がNTT電話網への接続となっていることに対して向けられている。電話網はいずれなくなるものであり、それに対する接続料金を長期増分費用方式などによってどんどん有利にして既存設備から利益を絞りとろうとすると、かえって新しいネットワーク=インターネットへの脱皮を妨げてしまう。それはインターネットの世界的な普及によって利益を得る米国の国益にも反することではないだろうか。

 公文氏は論点を前に進めて、新たな高速の地域アクセス網の整備が重要であると主張し、処方せんとして、地域の共同体が"right of way" (管路・電柱上の線の敷設権や電波の利用権)を管理し、そこに回線を敷設したい全ての事業者に公平で標準的な条件で提供されるような枠組みを作ることを提唱している。つまり、通信をNTT電話網への接続などではなく、もっと低いレイヤーで開放し、最新の技術を使ってNTT設備の完全なバイパスを可能にしようということだ。この考え方からいけば確かに今日の米国の既存電話設備への接続にこだわるアプローチは疑問だ。

 

・市内も完全競争可能に

 この論文は日進月歩の技術革新の中で、ある時点では競争促進的に働く相互接続などの政策が、タイミングを間違えるとかえって競争抑圧的に働くことがあることを教えてくれる。独占が発生することがある通信分野においては、競争可能な分野と独占が成立する分野を分け、競争可能な分野ではそれを促進し、不可能な分野では独占事業者が全ての競争事業者を公平に扱うように規制をしていくのが定石となっているが、独占にならざるを得ない部分がどこであるかの判断を間違えると政策がかえって独占状態を固定して、競争と技術進歩を阻害してしまう。

 この観点から昨年のNTT再編を振りかえると長距離通信には競争が可能だが、市内には不可能であるという1980年代米国の状況から作られたフレームワークを導入したものといえる。しかしこれは導入した時点で既に古いを言わざるをえない。公文氏が指摘する通り「right of way」さえ、多くの事業者に平等の条件で開放し、インターネットの技術を使えば、市内・市外を問わず、通信の全ての分野に完全な(NTT設備に全く依存しない)競争が可能となるし、音声も含めた電話網の機能も代替できる。そんな時代に市内通信は独占状態であり続けることを前提した枠組みのままではおかしい。

 全面的な競争が可能になってきた機会をとらえ、政策は「部分的に独占状態が残らざるを得ないことを前提に独占部分に規制をし、残りの部分の競争を活性化させること」から「通信の全ての分野への競争を導入することを急ぐこと」にシフトすべきであろう。この2つの政策が矛盾しない時は両にらみの政策も可だが、2つが矛盾する時は後者を優先する。

 

NTT法の廃止を

 全面的な競争状態が実現するめどが立ったら、早期にNTT法を廃止することも考えるべきだ。片側で競争導入を言いながら、もう片側でNTTだけに公益的に不採算サービスの継続(特にユニバーサルサービスの実現)を強要することはできない。公益的な使命は業界全体でにない、NTTは義務も権利も経営の自由度も一事業者として与えられる体制がほしい。そのような体制を作らないとダイナミックに変化する世界の通信事業の中で日本のプレーヤーが活躍できるチャンスはなくなってしまう。

 以上のような点を配慮すると新しい枠組みを作るにあたっては次のような基本原則で考えるといいように思う。(1)「right of way」のレベルで全ての事業者に平等な機会が与えられる競争条件を整備する、(2)電話でなく、インターネット接続をユニバーサルサービス(全国あまねく展開すべきサービス)と認定する、(3)ユニバーサルサービス基金(補助金制度:より低い補助金で不採算地域でサービスをする事業者を競争入札で募る)を創設してNTTだけに頼ることなくユニバーサルサービスを確保する、(4)その上でNTT法を廃止して、NTTに完全な経営上の自由を認める。

 議論を喚起するために提起してみた。