[NIKKEI NeT IT
ニュース「ネットビジネス最前線」1999年12月16日掲載]ネット低額・定額接続、早期に全国展開を
「通信料金までも含めた低額・定額のインターネットサービスを日本に住むすべての人々に届けたい」という思いで、書いたり、講演したり、署名運動をしてきたのだが、喜ばしいことに、ここへきてこれを実現する動きが活発になってきた。ADSL(既存の電話線を使って高速データ通信を行うもの)サービスを行う新規参入会社の創業などがこれを象徴している。特記すべきはCATVインターネット、各種無線アクセスなどNTTを完全にバイパスする技術に展望が見えてきたことで、今までのような部分的な競争ではなく、全面的な競争が始まりつつある。参入者に対抗すべくNTTもISDNサービスの定額化などに動いており、競争の中で顧客ニーズに応えたサービスが広がる流れが始まった。
(慶應義塾大学大学院助教授・国領二郎)
・ビジネスモデル設計の障害に
低額・定額の通信・インターネットサービスの必要性の大きさについてはもう議論の余地はないだろう。筆者が主として活動しているビジネスの領域でも、多くの小規模事業所や家庭が従量制の電話やISDN回線でしかつながっていないことが、ビジネスモデルを設計上の大きなボトルネックになっている。ネットワーク化が専用線でつながった社内で完結している時代ならともかく、小さなベンダーや散在する現場、販売パートナーまで含めてサプライチェーン全体を電子化したり、直接的に消費者にアクセスしてさまざまなマーケティングを展開したい場合に、長時間アクセスや多頻度アクセスを実質禁止する料金体系では話が始まらない。それを突破する低額・定額サービスに期待が高まるゆえんだし、満たされていないニーズに向けたサービスを企画する企業が現れるのは当然とも言える。
希望の灯りが見えてきた中でまだ見えないのが、どれくらいの期間で低額・定額のサービスが全国展開されるのか、という点である。現在提案が出ているさまざまな低額・定額計画も残念ながら地域限定的な話が多く、残念ながら全国カバーがどのような形で実現するのか見えてこない。
設備投資をしなければいけない通信事業者の立場を考えるとあまり無理無体なことは言えないが、電子商取引ビジネスの観点からも通信ビジネス自体にとっても、カバーする範囲を早く広くする方が良いことを強調しておきたい。ネットビジネスにはネットワークの外部性というものが働き、メンバーが増えるごとに価値が高まっていくからだ。
・立ち上がれば級数的に成長
電話の例を考えてみるとすぐ分かる。その価値生産はもっぱら話す相手がつけてくれるのであって、間の通信インフラはいわば費用の固まりである。だから1人だけしか加入していないネットの価値はゼロで、2人、3人と増えることによって価値が増えていく。これをネットワーク産業は「Nx(N−1)型」をしている、と表現してもいいだろう。N人の主体が(N−1)人を相手に情報を受発信し、その情報が結合することでどんどん価値が増殖していく。ただしこの現象は人口カバー率が高い時に限られ、低いと起こらない。ポイントはコミュニケーションは、人と人との組み合わせでしか成立しないということである。例えば、人口の5割をカバーしても、それによって実現できる組み合わせは
0.5×0.5=0.25、つまり全体の25%にしかならない。つまり人口の半分をカバーする投資をしても、市場の25%しか獲得できないということで極めて投資効率が悪い。(注:所得格差や利用度の個人差などがないと仮定。また、人数が多く1人の増減が比率に影響しないとも仮定)いったん人口カバー率が50%を超えると、1%カバーを増やすことで市場が1%以上増えるようになる。たとえば51%になると0.51×0.51=0.2601である。そこから先は人口カバーとともにどんどん市場カバー率が大きくなる。このあたりがネットワーク産業のようなNx(N−1)型産業が製造業などの工場で集中的に価値を生産して周囲に配る「N型」産業と異なるところである。N型産業は人口カバーに比例して直線的に成長するが、ネットワーク産業は立ち上がりこそ遅いものの、成長し始めると級数的に成長する。
・非効率分野にも高い利益率実現
電子商取引などについても、その本質が大企業で生産されたものを流通させるメカニズムであると考えれば「N型」産業となり、もっとも人口密度の高いところから順次ネットワーク化を広げてゆけばいいということになるが、インターネット上の商空間を地方の特色ある工芸品や個人の創作品などの販売に特に適した道具であると考えるなら、Nx(N−1)型であって、より多くの小さな伝統工芸などに参加していただくことが、ネットワーク全体の成功の鍵ということになる。筆者のこれまでの研究から、電子商取引にはN型ビジネス、Nx(N−1)型ビジネスの両方のタイプがあるが、後者に適用された時の効果は大きく、これまでの非効率が大きかった分だけ高い利益率を実現するように見える。
このように考えていくと、通信業界にとっては当面苦しくても、低額・定額を全国展開していくことが、業界自身にとっても、ネットビジネス業界にとっても、そして何よりユーザにとっても利益が大きいことと認識できる。関係者で力を合わせて、早期に立ち上がりの苦しい段階を突破してしまいたいものである。