総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課御中

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「IT競争政策特別部会 第二次答申(草案)」(「IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方について」(平成12年諮問第29号)関連)に対する意見

意見表明者:國領二郎(大学教員)

1.主要論旨

 まず、多岐にわたる要考慮点について広く検討され、多角的な視点から公平な判断をされようとしたご努力の跡が見られることに対して、敬意を表します。その上で、重要と思われる論点につきご意見を申し上げます。

 基本的な論点はただ一つです。すなわち「もはや電話(公衆)網の枠内での状況判断や競争導入策を中心とする政策に組み立てをする時代ではなく、多様な技術やビジネスモデル間の競争によって利便性と経済性の向上をはかるべきである」ということです。答申案第一章を拝読して「1.競争をめぐる環境の変化」がIP網の伸長など多様なサービスの展開を分析されているにもかかわらず、「2.競争政策の基本的考え方」が時計を20年戻したような電話網中心の議論になっていることに違和感をおぼえるのは私だけではないと思います。せっかく的確に把握された環境の変化を受けて、政策も21世紀に合ったものとすべきです。すなわち、いまや主役はインターネットや移動体の通信で、電話は過去のものになりつつあることをきちんと認識して政策をたてるべき時代です。これは具体的には次のようなことを意味します。

(1)電話(公衆)網における独占性の解消はIP網など非電話の発展に期待をかけるべきで、電話網再販はかかる費用に対して便益が小さすぎるので、今から行うのは得策ではない。

(2)事前的な規制を伴う競争政策はネットワーク開放型政策と密接に関連した新規参入促進型に絞り、開放の対象は「公衆網の再販」や「OSSの開放」を外して電波を加えた「電柱・管路・電波等の開放」とすべきである。(7ページ(1)(a))。

(3)ユニバーサルサービスについても、いまや贅沢な技術となった電話だけでなく、インターネットに緊急通信を組み合わせたものも併用しながらトータルで実現することを検討すべきである。

(4)IP網を中心に考えれば当面のボトルネックはアクセスの物理層だけであり、そのボトルネックも電力等の参入により解消することができる。そのあかつきにはブロードバンド上のコンテンツのビジネスモデルに対する不必要な規制も回避することができる。

(5)ビジネスモデルの選択は第一義的に私企業による経営判断によって行われるべきであり多様性が許容されるべきである。

2.分析

 NTTを持株会社下に再編した時点以降の通信業界における競争の進展を(1)異質技術間競争:インターネットや移動体通信など従来の有線電話公衆網とは異質な技術による競争と、(2)同質技術間競争:マイラインなどによる同質の技術の枠内での競争、の二つに分けて考えられますが、その両者を評価したときに、異質技術間競争が大成功したのに対して、同質技術間競争の成功はあったとしても極めて限定的で、逆にその弊害が目立ったとさえ言えます。

 異質技術間競争については、例えば家庭や中小企業でも使えるインターネット用の定額接続サービスが1998年当時、128キロビットといった低速回線でも最低3万円以上していたものが、いまやその10倍以上のスピードのサービスが10分の1以下の価格で提供されており、ビットあたりの価格は100分の1以下になっています。これが今日のブロードバンドへの需要の爆発につながっていることは言うまでもありません。ADSL専門業者が卸売りするサービスをISPが小売する形態も一般的となり、消費者は価格・サービス両面で多様な選択を行えるようになっています。そして、いまや通話も可能な品質のアクセスサービスが急激に普及しつつあり、独占に近い状態にあるとされている電話網に対する現実的かつ手ごわい競争相手となりつつあります。このような進展が見られた大きな理由の一つに既存電話用ケーブルの芯線開放がありました。この状態を実現した政策当局のご努力は大いに評価されるしかるべきでしょう。

 これに対して同質技術間競争を推進したはずのマイラインは、若干の価格引下げはもたらしたものの、その幅はインターネットとは比べ物にならず、かえってNTTのマーケットシェアを固定化するだけにとどまったというのが大方の評価と言ってよいように思います。(電話網再販の強制があの空しい騒ぎを繰り返すことにつながりかねないという危機感が本意見を書いている主たる動機です。)

 異質技術間競争が有効で、同質技術間競争に限界があるのには理由があります。

 異質技術間競争は従来とは異なる機能と費用体系を市場に持ち込む−新しい価値を創造する−ことによって、ユーザにより低価格で機能も高いものを提供しつつ事業者も利益を高めることを可能とします。また、新技術のベースとした設備を使うことで、既存の大企業が持つ資産を無意味化して、新規事業者が対等以上の立場で競争をしかけることもできます。

 これに対して同質技術間競争は消費者に対して価格低下をもたらしたとしても、それは単に業者の利潤を消費者に移転して実現するゼロサムゲームです。業界内の競争関係についても、同質技術間競争下で接続料などの料金水準の操作によって新規事業者の利益をはかっても、単に利潤をある業者から他の業者に移転するだけ−独占利潤の奪い合いをするだけ−で本質的な利得はありません。ゼロサムゲームでは独占利潤が枯れる中で早期に限界が露呈してしまいます。さらに大きな問題は接続料金水準決定をめぐって、過剰な政府による市場への介入を招きがちであることです。いちいち政府が介入しないと問題がかたづかない業界の現状は不健全で、固定化してはいけません。

 1980年代において異質技術間競争が現実的に考えられなかった時には、次善の策として同質技術間競争を誘導する政策に合理性があったと思いますが、これから5年を考えた時に、消え行く電話網の縮小するパイの中で再販による競争が行われるというシナリオよりも、多様な事業者によるIP網構築が進展することで音声通話サービスにおけるNTTの独占性が薄まる道のようがはるかに建設的であるし、現実的であると考えます。若年層の利用形態などを見ても移動体通信とADSL(ないしは光IPサービス)にだけ使って加入電話の契約はしないというユーザが増えてくることが容易に想定され、そのあかつきには設備設置負担金問題も電話基本料金問題も消滅していくでしょう。

 電話網再販にコストがかからないのであれば、電話網再販とIP網促進の両方を追いかけてもいいと思いますが、実際には膨大な費用がかかることは確実ですし、やる場合にはどのように切り分けるか、いくらで接続するかなどといった点での合意形成に際限ない政府介入が必要になると思われます。しかもそのような費用と手間をかけて結果として得られるものが、会計的な収益のつけかえだけで、消費者に対して提供できる機能は従来どおりで価格低下は限定的になるということですと、電話網再販は有害無益と結論づけられます。マイラインが業界を疲弊させるだけで、大した成果をあげられなかった教訓を学習せずに電話網再販に突っ込んでいくのは愚かだと思います。

 追求すべきはむしろADSL、光アクセス、無線LAN、移動体通信など多様な技術によるサービスが展開しやすい環境を整備することだろうと思います。そのために必要なのは電柱・管路などの開放などを実効性のある形で進めることですし、電波資源の利用効率を最大にする配分を行うことです。

 異質技術間競争の大きな魅力はネットワーク開放型競争政策を低いレイヤに対して適用するだけで、競争状態が実現し、複雑な高位レイヤの機能分離や構造的競争政策を必要としないことにあります。ダークファイバやドライカッパーを提供する方式は他の方策に比して安価にできるだけでなく、ラストマイルにおける電力事業者等の参入も促進するもので、効率が高いものと判断できます。

 アクセスの分野に設備ベースの競争を進展させることによって、ビジネスモデルに対する規制を行うことを回避することもできます。オープンなビジネスモデルにはメリットが大きく私も常々企業に採用をお勧めしていますが、ビジネスモデルの選択は第一義的に企業が経済合理性に基づいて判断すべきもので、行政が規制を通じて強制すべきものではありません。デジタルコンテンツは限界費用が極端に低いという特性を持つことから、完全にアンバンドルされた形態では収益モデルが確立できない可能性があって、現在、多様なビジネスモデルの実験が必要とされている局面です。ブロードバンドネットワーク上に多彩なコンテンツが流れて産業として立ち上がることには日本経済の未来がかかっていると言ってよいと思いますが、実態はNTTや電力事業者による独占を心配する以前に、全く立ち上がらないことを心配すべき局面であると思います。NTTや電力事業者を含めて多くの事業者が、バンドル・非バンドル両タイプのビジネスモデルを自由に試みられるようにしたいものです。少なくとも当面、IP網についてアクセスの物理層の開放徹底を条件に、それ以外の余計な規制を行って不必要な重荷を課すことはないことをはっきり打ち出すべきと考えます。立ち上がった上で独占が問題になるようでしたら、事後的に対処すればよいと考えます。

 ユニバーサルサービスについても、異質技術間競争の文脈の中で考える必要があります。コスト高が顕著であり、市街地においても今後消滅していくことが想定される電話網に頼ることができなくなる局面を、いまのうちに想定しなくてはならないと思います。その場合に問題となるのが、緊急通信でしょう。電話網に頼らない緊急通信網について真剣に検討すべきだと思います。前向きに考えれば、いまよりもはるかに低いコストであまねく通信サービスを提供することが可能となります。

3.コメント

 ご意見を申し上げようとすると、どうしても相違点が浮かび上がってしまいますが、競争の中から新たな発展を生もうとされている姿勢には賛意と敬意を表します。近年の移動体通信やブロードバンドの発展を見ると、わが国が情報通信分野において新しい技術やビジネスモデルを創りだすリーダーになることも決して夢ではないと思いますし、この答申の分析を有効に活用することでイノベーションがどんどん起こる土壌を作ることが可能であると思います。視線を未来に向けてみんなで進みましょう。

以上

本意見に関する連絡先:

慶應義塾大学ビジネス・スクール國領研究室

電子メール:kokuryo@kbs.keio.ac.jp

電話:045-564-2040