1999年経営情報学会秋季研究発表大会発表論文

ネットオークションにおける顧客間インタラクションと価格形成

Effects of C-to-C Interaction in the Network Auction Price Determination Processes

慶応義塾大学Keio University

國領二郎 Jiro Kokuryo <kokuryo@kbs.keio.ac.jp>

 

要旨

ネットオークションサイトにおける価格形成を観察対象としつつ、ネットワーク上における顧客間インタラクションのメカニズムを分析した。ネットワーク上においては情報の非対称性がなくなり、より完全な市場が生まれ、その中では価格が一定水準に収斂していくという見方があるが、現実には同一のオークション・サイトにおいて同一の商品に大きな価格差が生まれることがある。このような現象が起こる背景を追いかけていくと、顧客間に競争的なインタラクションが起こり、その結果として価格に大きな差が生まれる現象にいきあたる。

Abstract

Person to person auction site data is used to analyze how customer to customer interaction affects price determination in an electronic market. As opposed to the common notion that electronic markets provide perfect information and converging prices, competitive interaction among buyers in network auctions create large dispersion in prices of identical items sold by same persons at same times.

 

  1. 問題意識と背景

 本論文は、近来大きな存在になりつつあるネットワーク上における個人間オークションへの参加者を取引プラットフォームにとっての顧客と認識し、その顧客間がインタラクションを通じておこす経済現象を実証的に分析している研究の途中経過を報告するものである。

 この研究の背景となっているのが当研究室で進めてきた顧客間インタラクション研究である。顧客間インタラクションとはネットワークの上で「お客さん同士」がコミュニケーションを行い、それが商品の売れ行きや顧客満足に影響を与える現象のことだ。商品評価にかかわる口コミ、パソコン利用におけるユーザ間の相互サポートなどが代表的な例である。1

  顧客間インタラクションの観点から言って1998年ころから顕著に起こり始めた現象が、顧客間インタラクションを明示的にビジネス・モデルの中に組み込み、利益を内部化するサイトの登場である。代表例が本研究の題材となったeBayである。2

eBayは誰でもが25セントから2ドルという低い出品手数料で商品をオークション販売できるサイトである。1999年9月30日段階で290万点以上の大量出品があり、ネットワーク上オークションの一大勢力となっている。eBayにとって直接的に収入の源泉となるのは売り手であるが、個人間売買を行う同サイトにおいては、潜在的な売り手は潜在的な買い手でもあり、売り手、買い手双方が顧客といえる。その意味で顧客間インタラクションを起こすことこそがこのeBayのビジネスであると言っていい。

 eBayの大きな特徴は、こういった個人間取引サイトで常に問題となる、信用の欠如の問題を顧客間インタラクションによって補っている点である。eBayのオークション・ページに行き、売り手の紹介の欄のボタンをクリックすると、過去にその売り手から購入した経験のある買い手が、その売り手からの購買経験をどのように評価したかが表示される。三段階の数値的な評価の集計表のほか、定性的なコメントも紹介されており、オークションに新たに参加しようという人はその評価を見て、売り手が信用に足る人間であるかどうかを判断できる仕組みになっている。後に分析する通り、売り手にとってeBayは極めて有利な販売の場となっており、売り手には、取引を誠実に履行して、買い手からの評価を高く維持したいという強力なインセンティブが働くこととなる。
 

2. 研究および結果

2.1 第一ステップ:予備調査

 ネットワーク上の個人間オークションという領域が極めて新しいもので、先行研究なども存在していなかったので、探索的な予備的調査を行った。この段階においてはデータのコントロールをあまり気にしないで、取引結果を抜き出した。多くの仮説をたてては比較的少数のサンプル(15から20程度)でその妥当性を検証するアプローチを取った。

中でも中心的な仮説は次の二つであった。
仮説1.1:評判の高い売り手は高い価格で販売できる。

仮説1.2:ネットワーク上においては価格の透明性が高まり、価格が一定水準に収斂する。

 仮説1.1は「顧客間インタラクションは市場に信用情報を提供し、取引リスクを下げることによって取引を活性化させる」という視点に依拠するものであり、この仮説を検証したいために、本研究を始めたというのが、当研究の出発点である。

 仮説1.2は「顧客間インタラクションを通じて市場の透明性が高まり、買い手が完全情報のもとに購買の意思決定を行うようになる」という視点に依拠するものである。

 これらのような仮説を検証するために、eBayの中で、同じ商品が同一期間に販売されているような例を集め、売り手の評価が価格に影響を与えているか、同一商品を似た評価を得ている売り手が販売している場合には価格が同一水準(10%以内かどうかを目安にした)になっているかどうかを検証した。

 ややノイズが多いデータで検証したので、その影響の可能性を排除できないが、きわだった結果として浮き上がってきたのは価格が全く安定していないということであった。同一商品がオークションごとに全く違う価格で落札されていた。

 評判の効果についても、その効果の可能性を依然として残しながら、何か別の大きな要因によって価格に大きな変動が生まれており、それをコントロールしない限り、効果が見えないとの結論を得た。
 

2.2 第二ステップ

2.2.1 仮説

 第一ステップは何か非常に大きな要因がeBayの価格形成に働いており、それが我々の検証したかった評判の効果を埋もれさせている、ということを示唆していた。

 この結果を踏まえ、現在行いつつあり、この論文で中間報告する第二ステップにおいては(1)価格が不安定である現象の確認、(2)その原因の特定を行うことを目指している。特に価格形成における顧客間インタラクションの影響に注視している。

 オークションにおける価格形成メカニズムについては経済学の領域に多くの文献があり、それらを参考に次のような仮説を導出した。

仮説2.1:ネットワーク上においては価格の透明性が高まり、価格が一定水準に収斂する。

仮説2.2:オークションが競争的になると価格がつり上がる。

仮説2.3:未熟な参加者がいると価格がつり上がる。

仮説2.4:評判の良い売り手ほど高く売れる。

仮説2.5:オークションでは価格が市場価格よりも低くなる。

 仮説2.1は第一ステップの結果を踏まえると否定されることが予想されたが、現象を確認するためにあえて設定したものである。

 仮説2.2はいわゆるwinners curse と呼ばれる現象が起こるという仮説である。オークションの過程で参加者の間で相手にせり勝つことが目的化することによって価格がつり上がるという現象である。オークションの主催者にとって、これは顧客間インタラクションの一種といえる。3

仮説2.3はwinners curse が起こる原因として参加者の未熟さが影響しているという仮説を検証するものである。 

仮説2.4はいま一度よりシステマティックにデータを取ったサンプルで評判の影響を見ることを意図したものである。

仮説2.5は価格の水準が市場価格との比較でどのようになるかを検証するものである。各オークションごとに価格に大きな違いがあるとすると、場合によっては市場価格から大きくかい離した落札価格となっている場合がありうる。それが全体として市場価格より高くなっているのか、低くなっているのかを見る。

2.2.2 データ収集と結果

 第二ステップにおいては、データをコントロールすることを重視した。すなわちeBayの中で同一人物が同一商品(商品記述も全く同一)をほとんど同じ時間(10分以内)にオークションに出す現象に注目し、その条件に合致するものだけを集めた。結果として集めたデータは全て二つないしはそれ以上の数のオークションのペアないしはセットになっている。以下本論文中で「価格差」に言及する場合は同一商品、同一売り手、同一販売時における落札価格の最高値と最低値の差のことである。採集するデータの商品カテゴリーも絞り、eBayの中でN社ゲームソフトと分類されている中に限った。

 さらに市場価格と対比するためにネットワーク上で中古ゲームソフトの売買を行っているGames for Less 4 というサイトを価格のベンチマークサイトとして利用した。

1999年3月よりデータ収集を開始し、9月の時点では162サンプルが集まった。一部の変数(特にベンチマークサイトにおける買い取り価格)についてまだデータが不足しており、現段階において各変数相互の相関関係を見ている段階でる。重回帰分析などは行っていない。その意味で、確固たる結論を得るに至っていないのだが、現段階で既に集められたデータの範囲で得られる知見を報告したい。

<仮説2.1について>

第二ステップのきつくコントロールされたデータを使っても、同一商品に大きな価格差が生じる現象が確認された。すなわち162サンプル中73サンプルにおいて価格差が10%生じ、43サンプルは20%以上あった。平均では24%、最大では608%の価格差があった(それぞれ最低の価格がついたオークションの落札価格に対する比率)。

 

表1:価格差の分布
 

区間

頻度

差なし

13

10%未満

76

10%以上20%未満

30

20%以上30%未満

15

30%以上40%未満

40%以上50%未満

50%以上100%未満

100%以上200%未満

200%以上300%未満

300%以上400%未満

400%以上500%未満

500%以上600%未満

600%以上

<仮説2.2について>

 競争的であるか否かをはかる代理変数として各オークションへの参加者の数を用いた。より多くの参加者がいる方が、競争的であるという仮定である。4その結果、オークションへの参加人数と価格の間に99%有意で相関関係が見られた。すなわち、同一売り手、同一商品について同時にオークションが行われても、より多くの買い手が参加するオークションにおいては価格が高く決まる傾向がある。

<仮説2.3について>

オークション参加者の熟練度についてはeBay上の買い手としての被評価回数を代理変数として用いた。eBay上での取引回数が少ない参加者ほどネットオークションの形式に未熟である、との前提である。落札価格の高さと未熟さの間に相関関係が見られるか否かを検討したが、現在のところ有意な相関が認められていない。

<仮説2.4について>

現段階においてもまだ評判と価格の間に有意な関係は発見されていない。今後、他の要因をコントロールして関係が発見されるかを注視していきたい。

<仮説2.5について>

 Games for Less をベンチマークとし、消費者がゲームソフトを購入する価格と販売(中古ソフト業者にひきとって貰う)価格について比較を行った。ただし、販売価格についてはサンプル数は48しかえられていない。

平均した時、買い値については平均15%安かった。これは競り上げの過程で価格が市場価格を超えてしまう場合も多々ありながら、全体としてはオークションが消費者に割安の価格を提供していることを示している。

より劇的な結果が得られたのが、出品者にとっての売り値であった。こちらは122%高いという結果が得られた。つまり、手持ちのゲームソフトを売りたい消費者にとってeBayは通常の買い取り業者に比べて122%高い価格で売る機会を提供している。

二つの現象を合わせるとネットワーク・オークションは売り手にとっては高く売る場を提供し、買う側には安く買う場を提供することに成功しているといえる。

 

3.討論

3.1 価格差の原因

研究を始めた評判の価格に対する影響の有無についてはいまだに結論は得られていない。言えることは、たとえ影響があるにしても、他にそれにも増して大きな決定要因があり、その影響の陰にかくれて、少なくとも現段階では見えないということである。評判の効果を抽出して検討したい場合には、別途の大きな要因が何であるかを特定し、それをコントロールした形で計測するという手法が当然ありえるだろう。今後の取り組み課題である。

当面の仮説的な説明としては、(仮説2.2を支持するデータがあることから推察して)、別途の大きな要因としてオークションにおける買い手間の競争の激しさが有力候補となっている。

3.2 エンターテイメントとしての顧客間インタラクション

競争的なインタラクションに対する顧客の反応を観察すると、同サイトの付加価値は単に経済的なものだけではなく、エンターテイメントとしてのオークションが成立していることを感じさせる。

雑誌などでeBayの記事を見ると、いかにオークションがゲームとして魅力的であるかを強調しているものが多い。商品を獲得するために他の顧客と競いつつ、入手が困難なものをより安く購入するためのノウハウなどがこと細かく紹介されている。

非経済的な動機によってオークションが行われているという視点を取ることは分析の枠組みを大きく変える必要があることを意味している。これも今後の検討課題として考えていきたい。

3.3 経済行為としての顧客間インタラクション

 エンターテイメントの側面が価格形成に与える影響を重視しながらも、オークションが経済行為であり、オークションサイトが取引の場を提供している点ももちろん重視しなければならない。

この研究を通じてeBayの最も大きな特徴として浮かびあがったのが個人が手持ちの品を販売するにあたっての魅力である。ネットワークは買い手にもっとも安く販売してくれる売り手を探してくれるだけでなく、売り手にとってもっとも高く買ってくれる買い手を探してくれる場となる。

 

3.4 顧客間インタラクションの価値を内部化するプラットフォーム・ビジネス

 エンターテイメントの側面を見ても、取引面を見ても、eBayのビジネスはプラットフォーム・ビジネスであると認識できる。プラットフォーム・ビジネスとは誰もが明確な条件で提供を受けられる商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こす基盤を提供する役割を私的なビジネスとして行っている存在のことである。プラットフォーム・ビジネスはその使命を果たす上で(1)取引相手の探索、(2)信用(情報)の提供、(3)経済価値評価、(4)標準的な取引手順の提供、(5)物流などの諸機能統合などの機能を提供する。6(研究経緯的には顧客間インタラクションの概念は筆者のプラットフォーム・ビジネス研究の「第三者間」取引の意味を検討する中から生まれてきたものである。)

 eBayは定義的にも提供機能的にもまさにプラットフォーム・ビジネスの条件をほとんど備えていると言ってよいだろう。7

 プラットフォーム・ビジネスのフレームワークから言うとeBayの最も大きな特徴は経済価値評価、信用提供などのメカニズムの中に顧客間インタラクションを導入したことである。これによって顧客間インタラクションはプラットフォーム・ビジネスが顧客に提供するサービスであるだけでなく、サービスを提供する価値生産メカニズムともなりうることが示されたといえよう。その意味で顧客間インタラクションをビジネス・モデルに組み込んだのがeBayであると言ってよい。

【脚注】

1 國領二郎(1997),「ネットワーク上の顧客間インタラクション」高木他編「マルチメディア社会システムの諸相」日科技連

2 http://www.ebay.com

3 Foreman, Peter and J. Keith Murnighan (1996),Learning to Avoid the Winners Curse, Organizational Behavior and Human Decision Processes, Vol 67. No. 2, pp 170-180

4 http://www.games4less.com/

5 Nelson, Jon P. (1995), Market Structure and Imcomplete Information, Journal of Economic Behavior and Organization, Vol. 27, pp 421-437

6今井賢一・國領二郎編著(1994)「プラットフォーム・ビジネス」、情報通信総合研究所

7 ただし、物流などの機能統合は提供していないことを特記する必要があろうeBayは意図的に情報の仲介に特化し、物流などに介入することを避けている。これが急激な成長や高い利益を実現する秘訣であったと見ることもできるであろう。