インターネット時代のビジネス・モデル

慶応義塾大学ビジネス・スクール助教授 國領二郎
<要約版。紙に印刷してお読みになりたい方、電話代が気になる方はこちらの版をご覧ください。>

1.  ネットワークが新しいビジネス・モデルを生み、経済に活力をもたらす

  今日の情報通信革命の大きな意義は、それが、さまざまな経営資源の従来にない新結合を可能にし、新しい価値を生み出すビジネス・モデルを構築する基盤を提供しているところにある。すでに、コンピュータ・ネットワーク時代ならではの新しいビジネス・モデルが生まれ、経済活動に革新の風を巻き起こしている。 現在、筆者の研究室でとりまとめ始めている、情報化に伴って広がりを見せているビジネス・モデルを整理しているリストが<ここ>にある。現在進化させているところで、今後変更があるかもしれないが、1998年9月9日時点には次のような項目が含まれている。

このようにリストアップし、中味も見ていくと、 現代がいかに新しいビジネス・チャンスにあふれた時代かが認識できる。情報技術によって従来では理論的に存在し得ても、現実のものとはならなかったビジネス・モデルが次々に実現し始まっている。過去の秩序を守ろうとする方にとっては、これまでの仕事のやり方が通用しなくなる怖い時代かもしれないが、新しいビジネス・モデルを創造し、価値を生み出そうとされている方には、ほとんど無限の可能性がある。このような新しいビジネス・モデルの担い手に活躍していただくことによって、この国の活力を守り、新しい雇用機会を作っていくべきではないだろうか?

2.多様な知恵をネットワーク空間で結合させ、その利益を内部化するビジネス・モデル

事例研究の蓄積から、共通のテーマを探すと、インターネット時代のビジネス・モデルは多様な主体の多様な知が、ネットワーク上で結合していくモデルである、と表現できると思う。 そこには個別のモデルをまたがって、共通した流れがいくつか見える。 次のようなものがある。

  • 顧客が価値生産に参加する。 もう少し解説
  • 流通チャネルが販売代理業から購買代理業になる。 もう少し解説
  • 顧客の情報量の多さを織り込んだビジネス・モデルになる。 もう少し解説
  • デジタル財の物財とは異なるコスト構造を反映した・モデルが増える。 もう少し解説
  • アウトソーシングなどを活用したバーチャルな組織構造が増える。 もう少し解説
  • 販売代理から購買代理という流れも、顧客の情報量の多さを織り込むビジネス・モデルも、かつては分断されて、情報発信するすべがなかった消費者が、POSシステムや、インターネットによる口コミなどによって、その声を世の中に発信しはじめた現われと言える。情報技術は個別的には小さな個人の声を集積し、集約し、大きな渦にしていく。それが商品の企画や生産や流通に影響を与え始めた。

    アウトソーシングなどのバーチャル化は、当面の固定費を下げたり、事業部門を切り離してリストラを行う手段としてアウトソーシングを行う手段として始まる場合が多い。そのような現実を踏まえた上でなお、アウトソーシングの本質は最良の経営資源やノウハウの結合である、と主張したい。ビジネスを遂行する上で必要な全ての機能を全て自前で抱え込むのではなく、いくつかの機能に分解し、それぞれの機能についてもっとも優秀な企業が担当するのだ。 ベスト・プラクティスやベスト・プロダクトがネットワーク上で結合して、新しい価値を生み出す。

      かくして情報ネットワークは社会のすみずみで分断されていた情報を出会わせ、相互作用を促してその価値を高めていく。

    3. 通信料金体系の改革を

    結合の空間を形成する上で重要なのが、情報通信料金体系の改革だ。情報通信革命の本質は生活者まで含めた多様な主体が参加する情報の結合にある。商品知識を川上から川下に一方的に流すのではなく、顧客が発信する情報が価値を生む。従って、ネットワークの利用料金は彼らの情報発信を促すものが望ましい。ところが、日本においては、CATVなどがある一部地域や深夜時間帯を除き、個人に現実的に手が届く料金水準のサービスとしては従量制料金のものしかない。

    比して米国においては市内通信料金が定額制である。結果として月額定額の料金を払うと、インターネットが無制限に利用できる。それが膨大な情報の発信と結合による、新しいビジネス・モデルの勃興をうながしている。日本の現実は逆だ。個人が情報発信することに対して対価を払うべきだとさえ言えるのに、かえってペナルティが課される。これでは新しいビジネス・モデルが育たない。

    ベスト・エフォート型と呼ばれる、回線の空き容量を活用する通信(インターネットがその代表)については、定額制を導入することに経済合理性があり、日本でもいずれはその方向で進むのだろう。問題はそのタイミングだ。米国において、既にネットワーク時代に適合したビジネス・モデルが次々に開発され、競争力の高い企業が生まれているのに、そのテンポに日本の社会が追いついていない。時間はもうない。

    新政権のもと、次の緊急目標を掲げたらいかがだろうか?「2000年までに、競争原理のもとで、全国で月額1万円未満でベスト・エフォート型128キロビット/秒(電話2回線分)以上の定額サービスを利用できるようにする。」日本の全住民がマルチメディアでのびのび受発信し、自由な発想で新ビジネスを興す最低限の基盤を作るのだ。