ネットワーク上の顧客間インタラクション

The Nature of Inter-Customer Interactions on Computer Networks

November 3, 1996

Jiro Kokuryo

國領 二郎

慶応義塾大学大学院経営管理研究科

この論文の主題はコンピュータ・ネットワークにおいて展開される、筆者が「顧客間インタラクション」と呼ぶ現象である。単純に言うとネットワークの上で「お客さん同士」がコミュニケーションを行い、それが商品の売れ行きや顧客満足に影響を与える現象のことだ。理論的には、一つの売り手と複数の買い手が、共通の情報交換手段(コンピュータ・ネットワーク)とインタフェースで連結されることでポリエージェントシステム(高木・木嶋・出口(1995))を形成する中での、エージェント間の相互作用の分析と位置づけることができる。

「インタラクティブ性」の概念 Norman and Ramirez (1994)、矢作・青井・嶋口・和田(1996))が今日の経営、特に企業と顧客との関わりを考える上で極めて重要であるという指摘は既に多くなされている。企業が一方的に顧客にメッセージを伝える従来の形から、企業が顧客の声を十分に商品開発や供給に反映させ、顧客と企業が一体となって供給連鎖を維持しよう、という考え方である。マーケティングにおける「関係性」(嶋口(1995))に対する関心の高まりなどもこの一環と考えることができるだろう。

ただし、今までのところ、インタラクティブ性の議論の多くは企業と顧客のインタラクションや関係について語っている。筆者もその重要性を十分認識した上で、情報化が進む環境の中で相対的に重要度を高めているのが「お客さん同士の関係」であるというのが本論文のメッセージである。

顧客間インタラクションの高まりの背景にあるのが、よりオープンなコンピュータ・ネットワークの発展である。従来のビジネス用のコンピュータ・ネットワークの多くが、企業内やメンバーの狭く限定された企業グループの中でのコミュニケーションを成立させるものであったのに対して、今日のネットワークはよりオープンで、ほとんど不特定多数と言ってもよい位の幅広い参加者が自由に情報交換できる環境を提供してくれる。従来コミュニケーションの物理的制約から交流することのなかった消費者が、互いに情報を共有し、売り手に情報をフィードバックし、時には自らが生産活動に参加できる環境が整いつつある。

コンピュータ・ネットワーク上の顧客間インタラクションは、パソコン通信のいわゆるフォーラムに参加していらっしゃる方にはもうおなじみのことかもしれない。ソフトウエアやプリンタなどの機械を買ってうまく動かない時、メーカーに問い合わせるより、フォーラムに載せてユーザ仲間に聞いた方がはるかに早く、的確な答えが返ってくる場合が多い。全く見知らぬ他人が無報酬で自分の疑問に親切に応えてくれるのに驚くことが多い世界である。

インターネットの普及はパソコン通信をさらに超えるオープンな環境を提供する。パソコン通信がメンバーに限定されたサービスだとすると、インターネットは全てのコンピュータを網羅的につなぐインフラストラクチャとして発展しつつある。このような環境の発展の中で顧客間インタラクションが拡大し、加速しつつある。この現象を的確に理解し、対処することが企業にとって極めて重要な課題となることであろう。

とは言っても、ネットワーク上の顧客間インタラクションが企業にとっていかなる意味を持っているかについては、「まだ良く分からない」というのが本当のところである。この問題意識のもとでさまざまな事象を観察してきたが、それが非常に大きな影響を持ちつつあることだけは分かっても、その動き方のメカニズムにはまだまだ分からないことが多い。この論文はまず本格的な研究を行うためのフレームワークを作るための試論としてお読みいただければ幸いである。

もっと分からないのは企業としてそれをコントロールするすべを持っているか否か、という問題である。ネットワーク上では時に強い悪意が流れる場合がある。特定商品に対する誹謗とまで行かなくても、悪い評判が流れる(はっきり否定できる誹謗より、悪い評価の方がやっかいかもしれない)がことが十分想定できる。かつてのクチコミしかなかった時代にくらべて、このような情報の伝播が極端に早いのがネットワーク社会の特徴である。このような効果が良い方にも悪い方にも現れることは企業にとって重大な関心事となろうが、そのプロセスに対する介入は不可能であるどころか、それを試みることが逆効果になることも多いようだ。

てがかりとして、研究をする過程で頻繁に浮かび上がってくるのが「共感」の重要性である。顧客に共感を持たれた企業には顧客間インタラクションは大きな味方となる。善意が善意を生み、顧客が企業を助けてくれる。阪神タイガースや、アップルなど、ファンが倒れそうな企業をかろうじて支えているとしか見えない。ファンが文句を言うときも愛情のこもった罵声であって、心の中に抜き難い愛着がある。マッキントッシュのファンの互助精神は利害を全く超越している。それによって同社がどれだけの経費を節減できているかはかりしれない。この反面、強くていい商品を出しているように見える企業でも、共感を呼んでいないものが見受けられる。この現象はいったい何なのだろうか?「共感を生む企業」となることがネットワーク時代にとって極めて重要となるのではないかとの予感を持って分析をしているところである。

1. インタラクティブ性

顧客間インタラクションとは何だろうか?これを説明するためにはまず、インタラクションの一般論から入らなければならないだろう。

図1は売り手と顧客、さらには顧客間の関係を単純に表したものである。図中の「売り手からの一方的なコミュニケーション」というのが伝統的な企業と顧客との関係であったいって良いだろう。財が不足し、売り手市場であったとき、情報の伝達は売り手から買い手に対する一方的なもので構わなかった。

ところが環境が売り手市場から買い手市場になってきた。企業がより顧客ニーズを反映したものを作らないと売れない、という状況が現れるに従って出てきたのが、売り手と買い手との双方向コミュニケーションの考え方である。顧客の声を商品の改良や開発にまで反映させ、より市場のニーズに近いものを提供していこうという姿勢である。日用雑貨品メーカーなどによって、消費者からの声をシステム化された形でデータベース化する試みなどが行われている。これよりは間接的なものになるが、対チャネルとの関係で、「営業」の役割を従来の売り込みから、小売店との協力関係の構築へと再定義しようという考え方も強くなってきている。(石井、嶋口(1995)



企業と顧客をめぐるコミュニケーションのさらなる発展形が小論の主題とする顧客間インタラクションである。インタラクションが顧客と企業とだけにとどまらず、顧客同士で商品の評価や使い方のアドバイスなどについて情報が交換される。

BBS(パソコン通信上の会議室)などの中では、新製品に関する情報が極めて大量に流れている。それも売り手が売る目的で出したものではなく、ユーザが利用体験を発露している。これが後続の潜在的顧客に与える影響は甚大である。自分が信頼する先進ユーザが「あれはいいよ」と薦めると雪崩をうったように信奉者がそれを購入する、という現象が見られる。

ここで留意したいのは、一般に主体間にインタラクションが成立するためにはいくつかの条件があることだ。ここでは二つあげておこう。

第一にコミュニケーションチャネルが確立していなければならない。コミュニケーションの相手が物理的に隔絶していたり、コミュニケーションに伴う費用(機会費用を含む)が大きすぎると、顧客間インタラクションと言ってみても絵にかいた餅に終わってしまう。

商品が極めて日常的なものである場合には、フェース・ツー・フェースのコミュニケーション・チャネルしかない環境においても顧客間インタラクションが成立する。もう今はあまり見られないのかもしれないが、井戸端会議で買い物情報を交換する、などといった状況がこれにあたる。しかし、この形態では顧客が散在したり、生活時間帯がずれていたりして、物理的な空間を日常的には共有しえない状況ではコミュニケーションが成立しない。

コンピュータ・ネットワークは遠隔コミュニケーションを可能にすることに加えて、メディアとして(1)非即時性(時間の会わない人間同士でもコミュニケーションできる)(2)同報性(簡単な操作で非常に多くに人間にメッセージを送ることができる)、(3)双方向性(一方的な伝達ではなく、お互いのフィードバックが可能)、などを属性として持っており、従来では物理的、時間的に隔絶し、コミュニケーションすることが不可能だった組み合わせの人間が機動的にコミュニケーションを行うことを可能にした。

これを反映して、パソコン通信上のフォーラムなどは特定のトピックに興味を持つ人間が交流を行う場として、大変に発達している。近年においてはさまざまなトピック別にインターネット上のメーリングリストが開設されている。

第二は広い意味でのことばと文化の共有である。単に物理的なコミュニケーション・チャネルが開かれても、その中でコミュニケーションをする主体間でことばが共有されていなければ、顧客間インタラクションは成立しない。國領(1996)において、筆者は主体間で経済活動を共同で行うためには(1)記号・語彙、(2)表現形式、(3)プロセス、(4)行動規範、の四つのレベルにおいてインターフェースの共有化が必要であると主張した。

後に詳述するネットワーク上の囲碁ゲームの事例の場合、囲碁という極めて明示的に定義されたゲームのルールが国境を超えたコミュニケーションを成立させた。母国語を全く異にする世界のプレーヤーが、限られた囲碁の語彙と、囲碁の慣例に基づいて生き生きと交流し、場の雰囲気をかもしだしている。それに引かれて新しいメンバーが入ってくるという、顧客間インタラクションによって顧客が顧客を呼ぶ理想的な循環に入っている。パソコン通信上のフォーラムでもそうだが、この囲碁の事例は共通の関心を持つ人間同士であれば、会ったことがない人間でも十分コミュニケーションが可能であることを示している。フェース・ツー・フェース・コミュニケーションは共通の言葉や文脈を作る上で強力だが、何らかの仕組みで事前に共通の言葉と規範を共有している人間同士であれば顧客間インタラクションが十分に成立する。

ことばと文化の共有は、ポリエージェント理論の中では内部モデルの共有化(高木(1995))のための文法と表現できるだろう。ネットワーク上で売り手や買い手は商品ないしサービスの売買や、使用についての情報や気持ちを交換し、その相互関係を通じて互いの意図やねらいや感想に関するモデル化された理解(簡略化され主観的に単純化された構図)を構築していくのである(そのモデル化された理解がポリエージェントシステム理論では内部モデルと呼ばれる)。

2. 事例紹介

本論文は顧客間インタラクションの類型および特性を、多くの事例から帰納的に整理したものである。この節では参考にした多くの事例の中から後節において特に頻繁に言及するものについて事前に多少の紹介を行っておこう。

(1)インターネット碁サーバ(IGS)

ボランティアの手によって創設されたインターネット上の囲碁対局サービスである。当初米国の大学に設置されたサービスは、愛好家の手によって育てられた。1996年8月段階で一万人をこえる囲碁の愛好家がインターネットにより、国境を超えて囲碁の対局を楽しんでいる。(武川(1995))

専用ソフトを使ってIGSのサーバに接続すると、同じく接続した人間が対局を待っており、そのリストの中から相手を選べる仕組みである。他人が対局しているところを観戦することもでき、言わばテレビの囲碁番組が同時に数十局見られるような状態に近くなっている。実際、かなりの高段者が対局しており、それを見ることを楽しみにしているメンバーも多いということである。

このシステムは「無料だが会員制」という仕組みで始まった。会員として登録され、対戦が行われる。対戦を積み重ねると対戦成績により段級の認定が行われる。国によって段級の認定にばらつきがある現状の中で、IGSは国際的に客観的に段級を認定する手段となりつつある。

IGSのシステムは対局用のソフトウエアがおかれるホストであるサーバとインターネットにつながれた多くのクライアントによって構成される。IGSの特徴はサーバ側は主宰者が準備するが、そのサーバがクライアントソフトとの通信手順が公開されているため、クライアントソフト側を誰でも開発できるようになっていることである。実際、多様なクライアントソフトが第三者によって提供され、シェアウエアなどの形で流通している。優れた機能をもつクライアントソフトの開発がIGSの使いやすさの向上に貢献したと言える。

1995年にIGSの権利は韓国の商用インターネット・サービス・プロバイダに売却された。それ以降、IGSを商業的に運用する試みが始められている。そこで大きな課題となったのが、従来のボランティア的な文化と商業的な意図とのすり合わせである。これは顧客間インタラクションによって育ってきたものが、その良さを失わずに商業ベースにのせられるか否かの挑戦といっても良いだろう。

(2) JW−CAD

ソフトウエア業界に波紋を投げかけたフリー(無料)ソフトウエアの事例である。(この分析は綾部(1995)に基づく)建築用CAD(computer aided design)用ソフトウエアであるJW−CADは1991年頃に配布され始まって以来、非常に高い顧客満足を達成し、日経CG誌の最優秀CADに二年連続して選ばれるなどの実績を残した。同様の機能を持つソフトウエアが数十万円といった額で売られる中で、全く無料のソフトウエアがパソコン通信上のライブラリに登録され、誰しもが入手できるようになったのである。

JW−CADだけでなく、フリーソフトの多くに見られる大きな特徴はユーザ間の支援体制のレベルが非常に高いことである。JW−CADについても、登録されたパソコン通信の会議室内では、顧客同士が活発に交流し、お互いの疑問に答え合う現象が見られた。また、有力なフリーソフトの登場に脅威を感じた既存の商業ソフトウエアベンダーが、著作権や、信頼性についての疑義を提示した時にはユーザコミュニティから、JW−CADを擁護する声がほうふつとして沸き上がり、逆にJW−CADの正統性が強く印象づけられる結果となった。

(3) パソコン通信上の会議室

これは一つの事例ではなく、より一般的な事例の集合として取り上げたい。すでに例にあげたが、パソコン通信上には特定のメーカーや商品のユーザの会議室が設定されている。最近ではインターネット上でのメーリングリストやWWWのサイトもあり、数え切れないほどの交流の場が存在する。このような場にはユーザが自発的に開設・運営しているものと、メーカーが開設しているものとがある。

IGSの事例の中で、第三者がクライアントソフトを開発している話を書いたが、パソコン通信上の会議室では、似たような現象が頻繁に起こる。さまざまな機械や基盤ソフトウエアの使い勝手をよくするような関連ソフトが、無料、有料両方の形態で会議室に登録されている。いまや小型コンピュータのビジネスの世界では、多くの商品の成否がこのような周辺のサポーターがどれだけ集まるか、ということにかかっているとさえ言える状況になってきている。

3.顧客間インタラクションの諸形態

先にも述べた通り、ネットワーク上の顧客間インタラクションといっても、いくつかのタイプがある。共通する特性を持っているものの、それぞれに固有の現象も多々あるので、全てを一律に論ずることには危険があると言わねばならない。そこでこの節ではいくつかの類型を指摘し、それぞれの特性について論じてみたい。

(1) 商品型:顧客間インタラクションそのものが商品である場合

ネットワーク上で提供されるサービスには顧客間インタラクションがサービスそのものである場合も多い。例えばIGSは、メンバー間の対局を主たるサービスとしている。ログインすると、その時点でログイン中のメンバーのリストを段級情報付きで表示する。対局したい相手を見つけたら、このシステムにはチャットの機能がついているので、相手に対局の申込みをすることができる。

インターネットのプロバイダなど、通信事業者のサービスも顧客間インタラクションの環境を作るところに付加価値があるものであろう。通信事業者自身は何の情報も提供せずに、顧客がさまざまな形態の情報をお互いに交換し合うことによって、通信サービスの効用が高まっていく。

ネットワーク上ではないが、筆者が勤務するビジネススクールの授業における「ケース・メソッド」も討論を通じて学生同士で教え合うことを前面に打ち出している。顧客間インタラクションそのものが付加価値としいえよう。ケース・ディスカッションを行う場合には、討論が教員と学生の間だけのものにはさせずに、学生同士が議論をたたかわせるようにするところが成功の秘訣となる。そのために教員は学生の発言を整理し、学生相互の相違点を明確に浮び上がらせて議論を導く。同時に非生産的な水掛け論になったときにはすばやく論点を再整理し、より生産的な議論になるように方向づける。職業経験を持つ学生同士が自分の体験を踏まえて議論に参加することによって、参加者は教師とのみ対話するのでは得られない学習経験を得ることができる。

顧客間インタラクションをサービスとして提供する事業者の役割を「場」の提供業、と性格づけることが出来るであろう。さまざまな形態の場の提供者が顧客間インタラクションの仲立ちをしている。IGSの場合はインターネットとIGSサーバ提供者が場の提供を行っている。JW−CADの例ではパソコン通信事業者とその中での会議室運営者がその役割をもっている。顧客間インタラクションにおける場の提供者の役割については次節でさらに詳しく分析することとしよう。

(2)ユーザサポート型

ソフトウエア、パソコンなど、購入した後に多くのユーザサポートが必要な商品に多く見られるのが、顧客同士が使用方法の疑問やトラブル対応において助け合う現象である。

メーカーのユーザサポート窓口に電話をしても、まずは電話がかからず、かかっても要領をえない回答しかえられずフラストレーションをためた経験をお持ちの方は私だけではあるまい。それに対して、パソコン通信の会議室などで、大勢が見ているネットワークの上で質問をした人は、非常に短期間に的確な返事が返ってくることに驚く場合が多い。

これが既存の商品に対する驚異となったのがJW−CADの例である。上述の通り、JW−CADフリーソフトでありながら、建築業界において実用的かつ本格的なCADソフトとして受け入れられた。これが一本数十万円といった価格で売られていた商業ソフト会社にとって大変な驚異になった。

JW−CADなどのフリーソフトの一大特徴がユーザーの相互サポートである。この例でもユーザはニフティサーブ内のフォーラムで相互にサポートし合っていた。ユーザサポートに多額のコストを払わねばならない商業ソフトベンダーにとってこれは脅威といって良い。メーカーの直接サポートに対する、ユーザの相互サポートの優位性はコンピュータやソフトウエアが大衆化すればするほど、高まってくる。

ユーザサポート型の顧客間インタラクションがどのような心理状態のもとに起こるのかは分からないことが多い。この型において、顧客は単なるサービスの受け手である領域を大きく踏み越えて、ほとんどボランティアのように商品に付加価値をつけてくれる。いかなる動機のもとに顧客は他の顧客にサービスを提供するのであろうか?

JW−CADの場合のように、全くの無料である場合にはネットワーク上のボランティア(金子(1994))の研究の範疇として考えられるのかもしれない。面白いのはボランティアが資本主義の外であるような思い込みがある反面で、この論文で言う顧客間インタラクションは商業ベースで売られている商品についても立派におこっていることである。顧客が相互に助け合うだけでなく、明らかにメーカーのために一肌ぬいでしまったりしている。残念ながら、まだこのような現象についての体系的な説明はない。今後の研究課題としたい。

(3) 評価クチコミ型

伊丹(1984)は「顧客同士の相互作用」として、「初めに客になったグループに企業が受け入れられたことによって、企業の信用やブランドイメージ、あるいは口コミ広告のチャネルといった見えざる資産が蓄積される」効果と、「込んでる寿司屋はますますはやる」顕示効果(デモンストレーション効果)の二つをあげている。ここではこの二つを総合して商品評価にかかわる顧客間インタラクションと呼ぶことにしよう。

こういったコミュニケーションは何も新しいものではなく、評判やうわさなどの形で、かつてからあったものといえよう。コンピュータ・ネットワークが可能としているのは、距離と空間を超えることによって、極めて広域に散在している同好の士が頻繁、かつ大量の情報を、労少なくして交換することである。このように原稿を書いている間も筆者の所属しているいくつかのグループの仲間が発信しているメッセージがサーバに蓄積され、原稿書きに疲れた筆者がアクセスすると整理された形で一覧される。かつて某社のプロセッサに欠陥がある、というニュースも、1995年にサリン騒ぎで新宿の駅ビルが急に閉まることになったというニュースもそのような中で知った。前者のニュースの場合、それに基づき学生たちにそのプロセッサを積んだ機械の購入をしばらく待つようにアドバイスを出した。サリン騒ぎの例は、ネットワーク上の出来事自体が騒ぎの結果でもあり、原因にもなっていると思われ、ネットワークが社会的なパニックを引き起こしかねず、その中で経済的なダメージを受ける主体が現れかねない危険を持っていることを示唆している。

ネットワークの上では商品の評価などがあっと言う間に駆けめぐる。ネットワークの利用者だと、もう経験済みと思うが、多くの商品について、新しいものが好きだったり、職業として新製品を試す人種がいる。昔からこのような方はいたのだが、ネットワークの上では、彼らの情報が驚くほど早く広く伝わる。良い評価を受ければ、急激に売れ行きが伸びるだろうし、悪い方にいくと壊滅的なことなことになりかねない。

(4) 開発参加型

顧客間インタラクションがユーザサポートの殻を破って、ユーザの手によって商品を補完するような補助的商品が開発されることがある。ネットワーク・コミュニケーションで使う小道具ソフトウエアなどにはこの範疇に入るものが多い。

IGSはそもそもの成り立ちが囲碁の愛好家でコンピュータ技術に詳しい人間がボランティアとして始めたものである。しかも開発者が全てをコントロールするのではなく、サーバと呼ばれる対局情報が集まるホストのみを提供し、アクセス方法を公開することによって、世界中の利用者(クライアント)のコンピュータがそこにアクセスできるようにした。結果、さまざまなクライアントソフトが自発的に開発され、普及することによって、IGSのサービスが広まっていった。

JW−CADに見られた面白い出来事は、ある全く独立した会社がフリーソフトのガイドブックを有料で提供し始めたことである。ある雑誌の特集号にJW−CADのフロッピーとソフトの解説が掲載された。これを購入すれば、商業ソフトなら数十万円もする機能が数千円で手に入るしかけだ。ソフト業者と顧客の関係の輪の中に第三者が入ってきて、商売という形態で付加価値をつけていく、という現象である。

電気通信事業者とインターネットの関係は、もっともドラマチックな顧客間インタラクションの事例といって良いだろう。電気通信事業者から見るとお金を払って自社の回線を使ってくれる(つまりユーザである)さまざまなサーバの持ち主が、ネットワークに機能をつけてくれる。かつてアナログ電話の時代にはネットワークに機能を追加するのは電話会社の研究開発部門に限られていた。優秀なエンジニアが奥の院に陣取って、メーカーのエンジニアを指揮しながら計画的に開発し、計画的に交換機に導入していった。ユーザはただ電話会社のサービスメニューが増えていくのを待つばかりだった。

これがインターネットだと、新しい機能の追加はケーブルを貸す電話会社でも、交換設備を貸すインターネット・プロバイダでもなく、ユーザ自身や、ユーザ機器に入るソフトウエアベンダが行う。毎日のように世界のどこかで誰かが新しいソフトを開発し、ユーザ仲間に無償や有償で配布する。結果としてネットワークの機能が向上しする。会津(1994)が「進化するネットワーク」という表現をしているが、自律的、分散的にネットワークが進化していくのだ。この論文の観点からいってさらに面白いのは、そのようなユーザが自主的に追加した機能により、ネットワークの付加価値が高まり、結果としてISDNの需要が伸びたり、インターネットアクセスサービスへの需要が高まったりしている。顧客間インタラクションによってサービス提供者にも便益を与えている好例だ。

(5) クリティカル・マス形成型

以上4つとはいささか異質なものとなるが、クリティカル・マスの形成も顧客間インタラクションの一種と言ってよいように思う。クリティカル・マスとは、いわゆるネットワークの外部性、つまりある商品のユーザの数が増えれば増えるほど、その商品からユーザがえられる便益が高まる現象において、受けられる便益が限界費用を超え、商品に対する需要が加速度的に高まる点のことを指す。(浅羽(1995)

ビデオなど、互換性が問題となる商品については、購入の時に他の消費者が何を使っているか、ということが選択の大きな要因となる。(山田(1993))このような場合、あるものを買った消費者は他の消費者の購買行動に影響を与えている、ということが出来る。定性的、定量的な他者の購買情報がネットワークの上を駆け巡り、他者に影響を与えていく、という現象はクリティカル・マスの形成の一環であり、顧客間インタラクションの一部と考えて良いだろう。

4. 顧客間インタラクションの諸相

本節では、さまざまな事例の中から抽出される顧客間インタラクションに関わるさまざま事象について論じてみたい。残念ながら、現時点ではまだ体系化された知識とは言い難く、いくつかのテーマを並列的に指摘できるにとどまっている。これらを統一された理論モデルによって説明することが今後と目標となる。

(1) プラットフォーム−場−の役割

「場」がコミュニケーションの結節点として大切である、(金子(1986)、嶋口(1995))という指摘は、顧客間インタラクションのチャネルの設定にあたっても極めて適切な分析である。特定のトピックについて関心のある人間が集まることによって、コミュニケーション・チャネルが形成され、活発な相互作用が始まる。場には文脈が蓄積され、コミュニケーションをさらに濃密なものにしていく。(Hall(1976))

「場」の設定は偶然おこる場合もあるが、意識的な努力の結果である場合も多い。筆者はコンピュータ・ネットワーク上に構築される電子市場の中で、取引の仲立ちをする場を構築する主体を取引仲介型プラットフォーム・ビジネスと呼んだ(今井・國領(1994))。プラットフォーム・ビジネスは「その存在により第三者間の取引や創造的な活動を活性化させる」ことが役割であり、顧客間インタラクションを起こすことが使命そのものである、といって良い。そこであげたプラットフォーム・ビジネスの機能の多くは顧客間インタラクションの環境づくりを行うものだ。この論文の目的に合わせて少し修正した形で紹介しよう。次のようなものがある。

(イ) コミュニケーション・チャネルの確保。コミュニケーションに必要な環境を整える。

(ロ) 探索。同じ関心を持つ人間を引き合わせる機能である。場をひらき、名前をつける、といったことからこのプロセスは始まる。

(ハ)信用の確立。メンバー間の信頼関係を何らかの形で作りだす。場への参加の審査などはその例となる。コンフリクトの仲裁を行うこと、秩序破壊者を排除することなども役割となる。

(ニ)評価メカニズムの形成。人間や情報の評価を行うことによって場に流れる情報に権威づけを行う。

(ホ)標準的なプロトコルの形成。第一節にあげた四つのレベル(記号・語彙、表現形式、プロセス、行動規範)において顧客間に共通のインターフェースを提供する。

IGSのケースにおいては、IGSという場の運営者が囲碁ファンのために(イ)サーバを提供し、(ロ)対局相手を探すシステムを提供し、(ハ)メンバー制によって相互の信頼を高め、(ニ)対戦実績によって段級を与え、(ホ)どの相手と対戦する時にも同じ手順とルールで対局が出来るようなルールづくりをしている。

(2)「ヘビーユーザ」の役割

顧客間インタラクションの事例をあたると必ずと言っても良いほど出てくる現象が顧客側で中核となるような人物の存在である。田村((1996))の研究においては、パソコン通信の会議室などで、企業やパソコン通信事業者からは独立していながら、ユーザの立場で頻繁に発言を行い、周囲の面倒を見つつ、意見形成などの中心になる人間を「ヘビーユーザ」と呼んでいる。

ヘビーユーザにもいくつかの異なる役割があるように思われる。ここでは二つあげよう。第一は世話役である。自発的に顧客間の取りまとめを行い、一般顧客の提起する疑問に活発に答えていく。第二は情報の権威づけである。かならずしも信頼度が高いとは限らない噂の類が多く流布する中では、評価能力の高い人間の言葉に皆が注目するようになる。その言葉は信奉者によって世の中に広められる。宗教における教祖と弟子の関係のようなもの、とでも表現すれば良いだろうか。

田村の調査で興味深いのは、パソコン通信上である会社の商品について会議室が開かれている場合、会社側の人間がヘビーユーザを有り難がっているのと同時に、恐れている場合が多いようだ、ということである。これは理解できることで、ヘビーユーザは極めて影響力が大きいのと同時に、会社の利害からは離れたところにおり、会社にとって都合のいいことばかり言ってくれるわけではなく、時には会社批判の急先鋒になったりするからだ。

(3)商品特性と顧客間インタラクション

顧客間インタラクションが、ある商品をめぐって起こるような場合、その商品の特性が顧客間インタラクションに影響を与えると思われる。もっと単純に言うと、そもそも顧客間インタラクションが起こりやすい商品と起こりにくい商品がある、ということだ。この点については実証研究を行ったわけではなく、単なる推測になってしまうが、今後の実証研究にあたっての仮説提起というような形で、考えられる要因を洗い出してみよう。

顧客間インタラクションに影響を与える商品特性第一は商品の購買と使用における不確実性である。主婦が野菜を買うにあたって情報交換を行うのは生鮮食料品は価格や品質が不安定で、その購買の不確実性を下げる情報の価値が大きいからである。どこで買うかについて自由度が低く、いつ買っても価格が同じようなもの(役所の手数料など)については顧客間インタラクションは起こりにくいだろう。

いま一つ例をあげると、一般のテレビは内部構造はともあれ、操作的にはパソコンなどよりもはるかに単純である。この場合、顧客間の自主的なユーザサポートはテレビに比してパソコンの方に起こりやすい。このようにユーザサポート型の顧客間インタラクションは複雑さが大きく、情報の価値の高い商品について起こると考えられる。



第二に、システムがそもそも顧客や他のベンダによって、改造や機能追加が行われることを想定した造りになっていると、開発型の顧客間インタラクションが成立しやすくなる。図2ではこれを商品のモジュール化の度合、という表現で記した。商品を、元々作った個人や会社以外の手によって改造がほどしやすくしたり、機能を追加する補完製品が作られやすいようにするには、商品をモジュール化し、明確なインターフェースを持たせることが有効である。サードパーティーによる補完製品の開発を自社の事業の前提とおくオートデスク社などは、商品を階層構造化し、それぞれに明確なインターフェースを作ることによって、さまざまな形での機能追加ソフトが生まれることを促している。

第三に商品によって顧客のプロフィールが異なることが考えられる。逆に言うと熱狂的なファンがつくタイプの商品とつかないタイプの商品がある、ということだ。例えばポルシェのファンは、私の乗っている定番実用大衆車よりも明らかに熱狂的なファンがいる。仲間で情報交換をし、サーキットを借り切り、嬉々として車を疾走させているようである。単に車の機能的な情報が交換されるだけでなく、車に対するものの考え方、ひいてはライフスタイルそのものについて共感が生まれる場がそこに作られているようだ。

(4)顧客間インタラクションの経営戦略上の含意

顧客間インタラクションは明らかに大きな経済効果を持っている。ユーザサポート型のことを考えるだけでも、ユーザ相互で助け合っている時間をもし、メーカーが自社の要員の人件費でまかなったなら、その金額が膨大なものとなるであろうことは容易に想像がつく。

これが今、決定的な重みを持っているのはソフトウエア業界である。オープンシステム化が進むにつれて、ソフトウエア業界では同一ソフトで売れる本数が桁違いのものが出始めている。ネットスケープ社はほんの二年の間に数千万本のソフトウエアのユーザを獲得したが、同社の社員は2000名にも満たない。筆者が同社会長のClark氏に顧客間インタラクションの概念を説明したところ、「顧客が紹介し合い、助け合ってくれなかったらあれほど速く、あれほど小人数で数千万本広めることなどできたはずもなかった」との返事を得た。

従来の高額の商品を限定的な数の顧客に売るソフトウエアであれば、メーカーが直接サポートしきれるが、コンピュータがこれほど広く広まってきた現状では、特殊用途のソフトウエア以外は低価格、大量販売戦略とならざるをえない。この時に顧客間インタラクションがどの程度働いてくれるかは大きな要因だろう。この面での顧客間インタラクションの経済効果を具体的に計測する試みを筆者としても行ってみたいと考えている。

開発参加型、評価クチコミ型、クリティカル・マス形成型などもそれぞれ大きな企業の経営戦略上の意味は大きい。開発参加型はいわゆる「外部資源活用型」(國領(1995))の経営の優位さの一つの表われだと理解できる。自社の中で全てを開発するのではなく、自分は得意領域だけに集中し、それ以外は他者にまかせる。コストのこともあるが、それより開発競争の激しい業界ではこれでないと開発のスピードについていけないようになってきている。ここでポイントは「外部資源」というのに顧客の能力までが含まれていることだ。

評価クチコミ型、クリティカル・マス型はともに、メーカーのマーケティング上の大きな要因となる。マーケティングを行う上で単に、顧客とメーカーのコミュニケーションだけでなく、顧客間でどのようなコミュニケーションがなされ、顧客間に流れる噂、評判などに対して、どのような対応ができるかが、ネットワーク時代を生き抜くためには必要となることであろう。

5. まとめ:企業は顧客間インタラクションどどのように付き合えばいいのか

顧客間インタラクションが存在し、それがネットワーク化が進むにつれて企業にとって非常に大きな意味を持つ、ということについては以上でご理解いただけたのではないかと思う。問題はその認識を持ったときに何ができるか、ということである。

厄介なのは、顧客間インタラクションは商品提供者の介入があると、活力が落ちたり、逆に顧客から商品提供者への反感を高める方向に進む場合が多いからだ。田村の研究が現在そのメカニズムの解明にあたっているが、中間的な報告によれば、彼が特に詳しく観察している二社のパソコン通信上の会議室のうち、企業の担当者が顧客の質問に丁寧に応えている会議室ではかえって顧客間インタラクションが起こりにくく、かつ全体として活動量が低いようだ。反面、会社以外のヘビーユーザが活発に面倒を見ており、会社側の人間は後ろにひいている会議室が顧客間インタラクションを生んで、活性化していると観察している。また、これも実証的に検証をしている最中であるが、一般論として、企業がスポンサーとなっている会議室よりユーザが自発的に運営している会議室の方が活性化されている、というのもどうやら事実のようだ。このように、どうやら顧客は商品提供者側が彼らを「利用する」というそぶりを少しでも見せるとそっぽを向いてしまうようだ。

より一般化すると、売り手と買い手からなるポリエージェントシステムにおいて、一つのエージェントに過ぎない売り手からの明示的意図的操作(行動)は、新たなインタラクション(自己組織化現象)を引き起こすに過ぎず、売り手の意図通りにシステムが動く保証はない、と表現することが出来るだろう。

筆者は扱いの難しい顧客間インタラクションを味方につける鍵は「共感を受ける」ことだろうと考えている。本論文の冒頭にマッキントッシュや阪神タイガースの例を出したが、一部の熱狂的な支持を受けた商品をめぐる顧客間インタラクションに参加している人たちを見ると、皆あたかも自分のことであるがごとく、その商品を愛し、語り、ボランティア的な奉仕をしている。

ポリエージェント理論を援用するなら、これはインタラクションそのものに介入するのではなく、エージェントが共有される内部モデルに影響を与える戦略、と行って良いだろう。ホンダの自動車、アップルのコンピュータなどは商品を超えてライフスタイル全体に対するメッセージを内包している。人々はこのメッセージに基づく内部モデルに共振し、行動を起こす。

企業がコンセプトを体現し、共感を呼び、顧客の支持を得た時、顧客間インタラクションは大きな力となる。この論文の構想を練っている時に研究室に来た女子学生も「友達のマック信者に引きずられて店に行き、無理矢理買わされた」という経験を語ってくれた。顧客が営業をし、サポートをし、関連ソフトを開発してくれる。危機に陥った時も裏切ることなく最後まで支持してくれる。

占有し、支配しよういうものにとっては難しく、共有し、連帯しをしようとするものに対しては優しい。ややきれいごとに過ぎる表現かもしれないが、そんな時代を作るチャンスを我々は迎えているのだと思う。

参考文献

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