Williamson, Oliver E.

Markets and Hierarchies,Free Press, 1975.

(邦訳:浅沼萬里・岩崎晃『市場と企業組織』日本評論社, 1980.

本書は、「取引費用」を分析の中心においた比較制度分析の大著である。著者は、市場と階層組織は代替的な契約様式であって、取引費用がその選択の基礎にあると主張する。また、人間の本性である限定合理性と機会主義が環境要因である複雑性・不確実性と少数性とむすびつくことによって、市場の失敗も組織の失敗も起こりうることを理論的に明らかにしている。

市場での取引は、不確実性や複雑性が少なく、多数主体が参加しており、価格がシグナルとして機能しているときには低コストで契約できるが、その前提条件が崩れると、内部組織の優位性が高まると著者は主張する。たとえば、複雑性・不確実性と機会主義がむすびつくことによって、情報の偏在が生じ、「逆選択」や「モラル・ハザード」などの問題が生じるからである。そして、内部組織は、(1)適応的な逐次的意思決定によって限定合理性を節約し、(2)機会主義を弱め、(3)内部の不確実性を減少させ、(4)情報の偏在の克服を容易にし、満足すべき取引の雰囲気を生じさせることによって、市場での取引と比較して費用面で優位に立つのである。

上記の理論的な基盤の上に、著者はさらに論を進め、単純な階層組織から垂直統合組織、そして多数事業部制、コングロマリット組織などについても取引関連的なアプローチでその生成を明らかにしていく。また、独占が成立するケースを分析した上で、その弊害を指摘しているが、一方、寡占については取引費用の存在がその弊害を弱めるという主張を提示し、独占と寡占には市場成果の観点で大きな違いが生じる可能性が高いことを説明している。

なぜ、企業が、とくに階層組織が生じ、さらにそれが規模的に成長していくのかという疑問に対するひとつの回答を本書は示している。その回答とは、内部組織での取引の方が市場のそれにくらべて取引費用が低い場合に(一般にその傾向が強いとされている)、企業の規模は大きくなるというものである。しかし、現在、AT&Tの自主的な企業分割や日本の大企業におけるカンパニー制導入ブームなどを見ると、組織の解体、アウトソーシングの活用、本業への集中が業績向上のカギであるかのように取りざたされている。70年代と今日では何がどう変化したのであろうか。新たなその問いに答えるためにも、本書が提示する「取引費用」という枠組みは今なお有効であるように思える。

以上

(文責:森田正隆, 1998610日)