Varian, Hal R.
"Markets for Information Goods," Draft, 1998.
<要旨>
Introduction
新古典派経済学では「情報」を取り扱うことは難しいが、皮肉にも米国経済における最大のセクターは今やICE(Information, Communication, and Entertainment)である。
Definition of information good
「情報財」のここでの定義はデジタル化することができるすべてのものである。デジタル化できる可能性を持っているかどうかが重要であって、現実にデジタル化されているかどうかは必要としない。
Information as an economic good
経済財としての情報が有する三つの属性
経験財(Experience good)
情報財は経験してみて始めてその中身がわかる。
規模の経済、収穫逓増(Returns to scale)
高い開発コストと低い再生産コストという性質を情報財は持つ。
公共財(Public goods)
情報財は典型的に非競合的な財であり、同時に非排除的である場合もある。
Information as experience good
Previewing and browsing
プレビューやブラウジングによって、試しで経験してもらう。(例:ラジオ放送にかける音楽、カプチーノを飲みながら座り読みできる本屋)
Reviews
製品を批評し、その評価を消費者に提供することを商売にしている専門の評論家がいる。映画評論家、書評家、音楽評論家など、とくに娯楽業界ではポピュラーである。
Reputation
過去の製品で得た評価やあるいはブランドというかたちで肯定的な評判を事前に確立することで、新規の情報財を購買する前に消費者がその品質を予測することができるようにする。
Returns to scale
情報財は高い固定費用(開発費用)と低い限界費用(追加生産費用)という特徴を持っている。完全競争市場を仮定するならば、価格は限界費用と一致するところで均衡するので、情報財の市場価格は限りなくゼロに近づく。
だが、情報財はきわめて差別化しやすい財でもある。結果として、情報財の多くは独占的競争の市場構造となりやすい。
情報財をバージョニングすることができる。さまざまな次元でバージョンを変えることができる。
Information as a public good
純公共財は非競合的であり、かつ非排除的である。情報財は本質的に非競合性を有する。しかし、非排除性を有するかどうかは法制度に依存する。
Economics of intellectual property
知的財産法は、何も非排除性を認められなければ知的財産を生産するインセンティブが弱くなってしまうと考えている。が同時に、永久に続く知的所有権を認めてしまうと独占による死荷重が生じる。適切な期間とは。とくに著作権の及ぶ期間は経済的に見てあまりにも長い。
Software patents
1980年代半ばまで、米国特許局および裁判所はソフトウェアには特許を認めてこなかった。しかし、政策は変更され、ソフトウェアのアルゴリズムにも特許権が認められるようになった。ソフトウェアに特許権が乱発されることの弊害を正すため、新奇性のハードルを高くすることや特許期間を短縮することが提案されている。だが、技術進歩のスピードが十分に速ければ、特許期間の長短はあまり問題とならないので、やはり新奇性のチェックを厳しくする方が効果的だろう。
Other ways to deal with exclusion
所有権を割り当てることだけが知的財産をうまく取り扱う唯一の方法ではない。コンテンツを排除性のある財とバンドルするというのもひとつの方法である。伝統的なメディアである、本、レコード、ビデオ、CDなどもバンドリングの例である。しかし、純粋なデジタル財の場合、メディアに焼き付けるというわけにはいかない。しかし、暗号技術などがその代替の役割を演じることがありうる。
あとは、監査や統計的追跡、あるいは広告などとの抱き合わせ提供などがありうる。
Terms and conditions
ライセンスなどのように期間と条件をより柔軟に設定し、共同使用や再販売などを認めることができれば、潜在的ユーザにとっての情報財の価値は増加する。しかし、一方で販売数量は減るだろう。両者のトレードオフのバランスの中に最適な選択はある。
Piracy
不正コピー対策は永遠の課題である。しかし、不正コピーを販売しようと思えば、消費者に自らの販売窓口を知らしめなければならないので、当局に捕捉される危険性も高くなる。よって、法を強制するために要する労力は比較的小さくてすむ。
International concerns
自ら知的財産を余り生産していないような発展途上国においては、海賊版を取り締まるための国内的な圧力は強く働かない。国際的なただ乗りはこうして起こる。しかし、そのような国も国内で知的財産が活発に生産されるようになると、国内の市場を確立し、国内の生産者を海外から保護するために知的所有権の保護に目が向き始める。
US as copyright pirate
米国も19世紀には国内での著作権しか認めず、英国人著作物の海賊版が米国内で横行することを許していた。
Overload
サイモンは「情報の増大は注目(attention)の欠乏をもたらす」と指摘した。まさしく、インターネット上ではその現象が起こっている。自分の好みのものや関心の対象となるものを推奨してくれるシステム(recommender systems)や雑多な情報をふるいに掛けて肝心なものだけを取り出してくれるくれるシステム(collaborative filtering systems)が求められるようになってくる。
Business Models
上記のようなシステムの経済的なモデルとは?インセンティブ問題が発生する。
レーティングする人に適切な対価を支払う仕組み、レーティング共同体システムなどが解決案として考えられる。
知識は本質的にコピーすることと分かち合うことが容易である。シェアすることにコストがかからないのであるから、社会的にはそうやって知識を分かち合うことが効率的である。しかし、その場合に知識生産のインセンティブ設計の問題が発生する。知的所有権で取り扱うことには限界がある。なぜなら考えや思想(idea)には特許権は与えられない。また、著作権では思想の表現方法が保護されるのみであって、思想そのものは保護の対象ではない。
アカデミック世界が持つ特色に解決のヒントがあるかもしれない(出版か消滅か、終身在職権、盗作のタブー、仲間間批評、引用など)。これらはよい考えや思想を生産するためのインセンティブを提供している。
Institutions
ふるい分け問題の解決方法として制度的なアプローチもある。中間媒介者がオンライン情報のふるい分けと編制をおこなうやり方である。だがこのやり方が前提とする「大衆市場」はこれからますます小さなものとなっていくだろう。大衆の興味や関心はますます細分化される傾向にあり、インターネットがそれに拍車を掛ける。
我々はみずから情報を「配置し、編制し、ふるい分け、検索し、利用する」専門能力を必要とするようになるだろう。
<コメント>
本論文は、情報財の性質をわかりやすく定義し、市場でそれを取引することの困難と、それに対する対応策を論じた好著である。
以上
(文責:森田 正隆, 1998年7月17日)