Varian, Hal R.
"Pricing Information Goods," The author's home page, 1995.
<要旨>
Introduction
デジタル財(情報財)は最初の第一版をつくるコストが非常に大きいのに対して、ひとたびできあがってしまえばあとから複製を生産していくコストは非常に小さいという特徴がある。
完全競争市場では価格は限界費用と一致することを考えるならば、完全競争下のデジタル財の価格は限りなくゼロに近づくことになろう。よって、第一版をつくるコストすなわち巨大な固定費を事後的に回収することは不可能になる。従って、デジタル財の市場は多かれ少なかれ独占的競争の市場の性格を持たざるを得ない。
Price Discrimination
情報財に対して支払ってもよいと思う価格が消費者によって異なる場合、価格づけは困難なものになる。
三つの例の比較
ある本の第一版の生産費用が7ドルで、二冊目以降の追加生産費用はゼロと仮定する。いずれの例も潜在的な消費者はAとBの二人。
例1:Aはある本に5ドル支払ってもよいと思っている。対してBは3ドル
全体の便益は8ドル。コストの7ドルを上回っている。しかし、5ドルの価格づけをおこなうと収入も5ドルでコストを下回る。3ドルの価格をつけると二人とも購入するが、それでも収入は6ドルでやはりコストを下回る。価格差別ををおこなわない限り、開発費をまかなえる可能性はない。
例2:Aは8ドル。Bは3ドル。
全体の便益は11ドル。ただし、8ドルの価格づけではAしか購入しないので便益も8ドル、生産者の利益は1ドル。もし、価格差別が可能であれば、生産者は11−7=4ドルの利益を手にできる上、全体の便益も11ドル分実現できる。
例3:Aは20ドル。Bは8ドル。
少なくとも3.5ドルの価格づけをおこなえば、二人とも購入し、しかもコストを回収できる。 しかし、利益を最大化しようと思う生産者であれば、20ドルの価格をつけAにだけ販売し、13ドルの利益を手にする。AとBの両方ともが購入する価格の最高は8ドルであり、その場合の生産者の利益は9ドルにしかならないからである。この場合、価格差別がおこなえなければ、Bは開発費すべてをひとりで負担してもよいとさえ思っていてもその本を購入することができなくなる。
Price discrimination in practice
価格差別が有効な手段であることはわかったものの、それを実行に移すためには二つの問題がある。支払う意思のある価格を見極めることと、高い価格を支払ってもよいと思っている消費者をそれ以外のローエンドの消費者から隔離することである。
(1)見極め
学生割引などの手段がすぐに思い付く。次に、即時性を求める消費者は高い価格でも購入するだろう。また、商品の品質そのものでもよい。(例:電子本の解像度)
(2)高価格購入者の隔離
製品の品質を下げること。(例:飛行機のチケット、ハイテク商品のスペック)
品質は均一の方が実はコストが安いのだが、コストをかけてでも品質差別をおこない、価格差別を実現できた方が利益が大きい場合がある。
Bundling
価格差別を実現する別の方法が製品バンドリングである。(例:MS-Office)
例:2種類のジャーナルにそれぞれ別の価値を感じる二人の教授
| | Journal of Addition | Journal of Subtraction |
A | $120 | 100 |
B | $100 | $120 |
2種類のジャーナルを単独で販売する場合、どちらのジャーナルも二人ともに購入してもらうには、価格はどちらも100ドルで総収入は400ドル。2種類のジャーナルをバンドルして売れば、220ドルの価格をつけても二人は購入するので、総収入は440ドルになる。
<コメント>
複製コストが小さい情報財は限界費用での値付けが困難であるという問題に、解決案を具体的に提示した意欲的な論文である。著者のいう価格差別とバンドリングは消費者余剰を供給者が奪うものであるという見方もできるが、そもそも供給がゼロであるよりはましであろう。ビジネス的には現実的な戦略となりうる。
以上
(文責:森田 正隆, 1998年7月17日)