The Science of the Artificial second edition
Herbert A. Simon 1981
The Massachusetts Institute of Technology
新版 システムの科学/ハーバード・A・サイモン
稲葉元吉・吉原英樹訳
1987年 パーソナル・メディア株式会社
第1章 自然的世界と人工的世界の理解
- 自然科学は自然の物体と現象についての知識の体系であるが、人工的な物体と現象に関 する知識の体系である「人工科学」というものは、あり得ないだろうか?
- 外見上は自然物を模倣しているかもしれないが、多かれ少なかれ自然物の実質を欠く
- とくに設計されているときには、記述法のみならず命令法によっても議論されることが 多い
- 人工物は、それ自体の内部環境と外部環境の接合点(インターフェース)としてみるこ とができる。また人工物の科学は、内部環境と外部環境の接面が比較的単純。
- 人工的なシステムを研究するにあたって、内部環境と外部環境を区別することの利点は
- そのシステムの目標と外部環境の知識があれば、その内部環境についてはほんの最小限 の仮定を置くだけで、そのシステムの行動を予測することができる
- たいていの場合、ある特定のシステムが特定の目標あるいは適応を達成するかどうかは、 その外部環境のごく少数の特性によって決まるため、外部環境の細部の特性を知らなく ても、そのシステムの行動を予測することができる
第7章 複雑性の構造
- 複雑なシステムとは、単純でない仕方で相互に関連し合う多数の部分から成り立つシス テムである。そのようなシステムにおいては、全体は部分の合計以上のものである。
- 複雑性はしばしば階層的な形態をとる。そして階層的システムは、それぞれのシステム の個別的内容から独立した共通の特性を持つ。階層こそ、複雑性の構築に利用される構 造的仕組みの中心的なものの1つである。
- 階層的システムとは、相互に関連するいくつかの下位システムから成り立っており、その下位システムがまた順次、もっとも低いレベルの基本的な下位システムに至るまで、 それぞれ階層的構造を持って連なっているシステムである。
- たいていの物理的および生物的な階層は、空間という次元で記述される。下位システム は、より大きな構造の中で空間的に特定の位置を占めており、視覚的に識別される。ほ とんどの物理的および生物的システムにおいては、相互作用の緊密度は空間的近接度を 意味する。これに対して社会的な階層は、だれがだれの近くに住んでいるかを観察する ことによってではなく、誰が誰と相互作用を持つかを観察することによって明らかにさ れる。相互作用が特殊なコミュニケーションや輸送のシステムを通して行われるにつれ て、空間的近接は構造の決定要因として重要ではなくなる。
- 単純な要素から複雑な形態が進化するのに必要な時間は、決定的と言っていいほどに、 安定した潜在的中間形態がいくつあるか、またどのように分布しているかに依存してい る。たとえば問題解決の過程では、目標へのはっきりした前進を示す部分的な結果が、 また精密部品の組立工程では、安定したサブアセンブリーが、この中間形態の役割を果 たす。
- 安定した中間形態がある場合、生まれてくる複雑なシステムの形態は階層的になる。
- 階層的システムの場合、そのシステムの下位システムの間の相互作用と、下位システム 内部における相互作用を区別することができ、一般に前者は後者より弱い。このような 構造を持つシステムを、準分解可能システムと呼ぶことにする。
- 自然界には準分解可能システムはまれではない。それどころか、各要素がほとんどすべ て他の要素とほぼ等しい強さで関連し合っているようなシステムのほうがはるかにめず らしい。構成メンバーが他のメンバーと意志疎通をし合ったり、影響し合ったりする社 会システムでは、一般的に、準分解可能システムが非常に顕著に見られる。公式組織は 典型例である。生物化学物理学の分野でよく知られている複雑なシステムにおいても、 同様な構造がはっきりと認められる。
- これらのシステムにおいては、頻度の高いダイナミクスが下位システムと、頻度の低い ダイナミクスが上位システムとそれぞれ関係する。つまり、階層は準分解可能性の特性 を持つ。
- 多くの複雑なシステムが、準分解可能で階層的な構造を持っているという事実は、それ らのシステムやその部分についてのわれわれの理解や記述を可能にし、それらを目に見 えるようにさえする主要な要因である。逆に言えば、もしこの世に複雑であるが階層的 でない重要なシステムがあれば、それらはほとんどわれわれの観察と理解を超えるだろう。
- ある複雑な構造がまったく重複を含んでいないのであれば、それ自身がもっとも簡潔な 記述であるが、一般に階層的構造は非常に重複度が高いので、簡約的な表現でそれを記 述できることが多い。
○まとめ
本書は、限定合理性の理論を提唱して経済学に偉大な貢献をし、コンピュータ科学、組織管理、心理学、コンピュータ・シミュレーション、人間の意思決定など広範な分野にわたって精力的な研究を続けているH・A・サイモンの1967年の原著の第2版である。システム研究のひとつの原点ともいうべき重要な著作であるため、長めに引用を行ったが、
本書の第1章と第7章におけるサイモンの主張をそれぞれ一言でまとめると、
- システムはその外部構造と内部構造を識別し、システムを両者のインターフェース としてとらえられることにより、最小限の特性をもって適切にこれらを理解できる
- 複雑なシステムはすべて階層構造によって理解することにより、単純な記述により 表し、理解することができる
の2点であろう。本書の中でサイモンも述べているように、複雑な対象に対して比較的単純な記述法を見出すことは、この世界についての人間知識の理解という点からも意義がある。複雑なシステムを単純な記述で表すことも同様である。
約30年前にサイモンが論じたこれらの主張は、複雑なシステムについての研究がますます盛んになり、また必要性が高まる今日においてもなお、もっとも重要なわれわれの一つのリファレンス・ポイントであると言えるだろう。
以 上
(文責:澁谷覚、1998年10月4日)