THE GUTENBERG GALAXY- The Making of Typographic Man
By Marshall Mcluhan
University of Toronto Press,1962
グーテンベルグの銀河系- 活字人間の形成
マーシャル・マクルーハン著、森常治訳
みすず書房 1986年
非文字社会の特徴
- 五感の中で互いに反響しあう話し言葉や音が作り出す暗示的・呪術的世界
- さまざまな要素が同時進行し、構成要素どうしが共鳴する詩の様式
- 聴き手にとって自分の生活と直接関係のある重要な意味をいっぱい宿す世界
- 話し言葉の聴覚的空間が作り出し、瞬間的に相互関係が成り立つ
- 見る人と対象とは共にあり、対象の中に感情移入によりのめり込む。眼は見通すために使われるのではなく、触知するために用いられる。
- 対象を同時的に共存するモザイクとして提出するスコラ哲学の方法
○音から意味を取り去り、次に音を視覚的なコードに移しかえるという二重の作業をともなう表音文字(ア ルファベット)の発明以来、人間は非文字社会から文字社会への変質を開始した。
- 五感どうしの相互作用の絡み合いの網の中から視覚を取り出して分離する過程により人 間を聖なる時空か ら世俗的時空すなわちプラグマティックな文明人の非部族化した時空へと導いた
- すべての感覚機能を視覚的、そして絵画的な囲まれた空間に翻訳、還元する力
- さらに印刷術が完全な同一性と反復可能性を達成することで書かれたページの視覚性を ますます高めてい ったことにより、視点を固定する習慣が生まれ、視覚的に統一された空間もしくは絵画的空間、さらには 透視画法的視点が生まれた。
- 印刷物は人間が持つ諸機能を性的な断面で切り離す技術性や分離と区分けをこととする専門主義的見地を 生み出した
- 行動と機能と役割という、実際には一つの現実の側面であるものを切り離し、各々独立に扱うという原則 が確立し、必要とあらばいかなる分野でも組織的にこの原則が適用されるようになった。運動やエネルギ ーのような非視覚的現象を視覚的なものへと翻訳する、中世後期に発見された視覚定量化の原理は、時代・ 場所を問わず応用知識の原理そのものとなり、印刷技術はこの原理を書字や言語に延長し、あらゆる種類の学 問のコード化と伝達を推進した
- 買い手と売り手との個別交渉によって品物の価格が決まった時代は、印刷により均質化され反復可能な商 品(本)が登場したことにより、現代の市場や価格システムを創り出した
- 本の製造は大きな資本を必要とする投機事業であり、産業として存続するために大きな市場を必要とした ため、本の製造と流通とは大衆文化と標準化を出現をもたらし、新しい種類の消費者世界を形成した
- 本の製造により、書き手と読み手、生産者と消費者、統治者と被統治者というような人間の機能をはっき りと明確な範疇にわけてしまう世界へと移行
- 印刷技術(特に新聞)が中央集権的な国民の組織化を生み出した。印刷技術によって民族語が視覚化され、 統合され、国民生活において中心的なものになるにつれ、近代ナショナリズムが勃興した
文字社会の特徴
- 均質で連続する抽象的な時間・空間(ユークリッド空間)
- 対象をはっきり限定し、視覚化して提出する技術が作り出したものに囲まれる
- 原因はすぐに結果を生みだし、それがまた次の原因になるという連鎖性をもち、事象は同一平面のうえで つぎつぎと連続的に発生する
- 言葉による思考を行動から切り離すことによる自由な観念形成が可能
- 一時に一事だけをし、それからはずれた余計なことは一切手を出さない組織的・官僚的 規則
現代は電子時代
- 印刷文化の意味が縁遠くなる時代の前半
- 機械の時代ではなく有機的組織化の時代
- 電気的情報構造から生まれる「同時発現野」は、今日の社会のあらゆる面で専門主義や個人の創意より対 話や参加のための条件や必要を復活させている
- 今日われわれは5世紀にわたって続いた均質性を強調する機械装置の時代と、同時共存性を強調する電子 時代とが境を接する場所に住んでいる
- 電信・ラジオ・テレビは印刷技術による経験の等質化を切り崩すかたちにあり、われわれに非印刷技術型文化の可能性に気づかせ始めた
- 現代の物理学はデカルトやニュートンの経験の一面だけを抽出する専門主義的視覚空間を捨て去り、非文字世界の微妙な聴覚空間に再突入している
- 電気技術はわれわれのもっとも日常的な知覚認識や行動習慣に根底から影響を及ぼすため、現代人たるわれわれの中にいちばん未開な心理状態が急速に再現されつつある
- 電磁気をめぐる諸発見がすべての人間活動に同時的な「場」を再創造し、そのために人間家族はいまやひとつの地球村とでもいうべき状態のもとに存在している。われわれは部族の太鼓の響きわたる狭く窮屈な単一の空間の中に住んでいる
- テレビは視覚より聴覚・触覚に近い。これがテレビが感情移入を引き起こす理由であり、テレビ映像に最 適なマンガが未開民族に訴えるのと同じように子供たちにも訴える
- 本書はアルファベットという表音文字の使用と印刷技術というイノベーションによって、人間のものの見 方や考え方が変化し、それが社会システム全体を変容させていった過程を、あらゆる角度から詳細に検討 した大著である。非文字使用社会が、過渡期のギリシャ時代と本格的にアルファベットを使用したローマ 時代に変質を開始し、さらにその変化が中世の写本時代を経て中世末期の印刷技術の発明によって決定的 になったプロセスを検討している。そして、テレビなどの新しいメディアが登場した今日を、非文字使用 社会の人間の感性に戻りつつある時代として捉えている。
- 本書はそのタイトルの通り、グーテンベルグによってもたらされた印刷技術というイノベーションによる 中世社会の変質の過程を詳細に分析することに主眼を置いており、テレビを中心とした新しいメディアが 現代社会に与える影響についての分析が目的ではないため、それについては本文中の各所で軽く触れられ ている程度であるが、あえてその特徴をあげれば、内容ではなくメディアそのものを捉えていること、そ して表音文字と印刷技術による視覚偏重の時代から、五感のバランスのとれた古代人の世界へわれわれを 連れ戻してくれるものとしての、新しいメディアに対する期待感である。
- マクルーハンが本書の中でテレビを中心とした新しいメディアに大きな期待を寄せた1960年代からさら に30年が経ち、現在もっとも新しいメディアとして期待されているのは、マクルーハンの時代にはいま だ登場していなかった双方向性をもったネットワークであり、これがわれわれにどのような変化を及ぼす のかを検討するにあたり、本書の意義を再度確認するべきである。
以 上
(文責:澁谷覚、1998年10月4日)