「ネットワーキング情報社会の経済学」林紘一郎/NTT出版1998年
第1章 NET+Work+ing
- 「ネットワークの特質が次第に変化していくダイナミズムと、そこに潜む新たな経済原理こそ、現在の経済現象をリードしている指導原理の一つなのではないか」という基本的視点
第2章 QWERTYの謎−ネットワークの外部性
- ネットワークの外部性が外部性のままで終わり、内部化されることがなければ、利用者の便益はclosed networkの範囲での便益に終始し、それ以上のものになり得ない(初期の電話会社の事例から)
第3章 相互接続−外部性の内部化
- ネットワークの外部性がある場合に、相互接続が社会的厚生を増大させる有効な手段になり得る。
- 相互接続は無条件によいことである。
第4章 互換性、標準化と制度−内部化を担保する技術と仕組み
各種ネットワーク間で自在に組み合わせ可能なら、ネットワークの柔軟性は格段に高まる。
そのためには、「オープン・ネットワーク」の実現が必要。
- 制度の仕組みをできるだけ「技術に依存しないもの」にすること。
- 技術と制度の相関に注意すること
- 個々のプレーヤーに全体の最適解を達成するようなインセンティブを与える。紛争解決の手段を整備する
- きわめて重要な「接続料金」の問題を検討する専門家集団を養成する
- ユニバーサル・サービスを維持すること。
- 「稀少資源」の発見と、その稀少性の減少につとめること。
第5章 ユニバーサル・サービス−「効率」を通じた「公正」
- ユニバーサル・サービスの概念が変質しつつある。
- 地域別あるいはサービス別等のCS(内部相互扶助)の計算なくしてユニバーサル・サービスを論ずるのは危険。
- 効率と公正とは順序を間違えてはいけない。効率を通じた公正こそは、ネットワーキングの経済性の1側面。
- ネットワークの外部性をうまく内部化することに成功すれば、事業全体としての効率性は高まる。あえて言えば、内部化なくして事業の成功はない。
第6章 ネットワーク産業−共有地と公衆網の悲劇
- 従来「公益事業」として一括されてきた産業群の共通項は、「巨大な設備資本」が必要であることと、事業が設備拘束性を帯びること、であった。しかし「コンテスタブル・マーケット」の理論が示唆しているのは、「設備拘束性」は固定設備があれば必ず生ずるのではなく、「転用不可能な固定費用」がある場合に限られる。したがって、インフラとなる設備に金がかかっても、その設備を使った「コモン・キャリアとしての機能」を「インフラとなる設備」から分離することができれば、「第一種」、「第二種」のような区分によって、自由化・規制緩和が可能になる。
第7章 情報ハイウェイからインターネットへ−社会資本とはなにか
- 直接生産力のある生産資本に対するものとして、間接的に生産資本の生産力を高める機能を有する、社会的間接資本として捉える考え方
- 人間生活に不可欠(必要)な財であるが、共同消費性、非排除性などの財の性格から、市場機構によっては十分な供給を期待し得ないような財として捉える考え方
- 事業の主体に注目し、公共主体によって整備される財として捉える考え方のような、機能に着目した定義が現代には適切。しかしもっぱら事業主体に着目した定義が横行している。このような定義に現れた公共投資に関する伝統的な考え方は、時代遅れ。
第8章 マルチメディア産業の市場構造−新しい枠組みを求めて
メディアの秩序が経済的規制に、メッセージの秩序が社会的規制になじむ。
今後の枠組みとしては、メディア規制=経済的規制をまずゼロにした上で、メッセージ規制=社会的規制として最小限必要なものはなにか、を追求していくことが必要。
- 本書は電気通信事業から学界に転じた著者が授業で使うための教科書的著作である。まえがきによれば「現在起きている経済現象のうち、何らかの意味でネットワークとして捉えられる事柄について、経済学および関連諸科学が答えられる限りの回答を与えてみようとする試み」であり、ネットワーク、ネットワークの外部性、相互接続に関する経済的・技術的分析、ユニバーサル・サービス、公益事業、社会資本、メディアとコンテンツの分離・融合などについて、従来の研究のレビュー、アメリカの電話事業の歴史や現在の日米両国における電気通信、情報インフラに関するさまざまな動きなどを踏まえて幅広く検討を行った、網羅的著作である。
- このようにネットワークに関して幅広く取り扱っている本書における明確な主張は、現代の経済の一つのドライビング・フォースとしてネットワークの外部性を位置づけ、これを内部化することが事業の成功や社会的厚生の増大に不可欠であるから、ネットワークの相互接続は無条件によいことであるという点につきると思われる。
以 上
(文責:澁谷覚、1998年10月4日)