The Limits of Organization
Kenneth J. Arrow
1974 W.W.Norton&Company
第1章 個人的合理性と社会的合理性
- 経済学的観点からも、社会の運営にとっては良心と呼ばれるもの、すなわち自分自身の行動の他人に対す る影響についての責任の感覚、すなわち倫理や道徳の原則をわれわ れが持っていることが不可欠。
- 社会的文脈と個人的文脈との間の完全な一致の感覚はあり得ない。人間の社会的な態度は、彼の個人的な 観点とのある程度の妥協を常に反映しなければならない。
第2章 組織と情報
- 非市場的な意思決定の価値はある程度までは、情報の流れのネットワークの特性によって決まり、情報チ ャネルの容量やそれを通じて移転されるシグナルのタイプは、コストとベネフィットの比較に基づく選択 によって決まる。
第3章 組織の行動計画
第4章 権威と責任
- 組織における権威は意思決定の集権化であり、情報の伝達と処理についてのコスト節約に役立つ。
- 権威は人々の期待の収束する焦点にとどまる限りにおいて持続しうる。
- 組織における権威がその機能的な役割を果たすためには、下位者による修正にも応ずるようなシステムが 必要(権威には責任が必要)であり、責任のない権威は誤りを犯す可能性が高い。
- 責任メカニズムは権威の誤りを修正できなければならないが、権威の真の価値を破壊するようなものであるべきでない。
- 本書は、個人が自分だけのためにひたすら目標(利潤)を追求することが社会全体の利益に結びつくという価格システムの幻想を否定し、価格システムの機能しない領域での組織の役割とその限界を分析したものであり、本書における指摘は今日でも1つのレファレンス・ポイントとしてなお有効である。
- 順が前後するが、本書の第2章では、従来の情報の量に注目したモデルではなく、情報の質的側面から意志決定を論じ、第3章では組織における計画変更のむずかしさをさまざまな角度から分析した。また第4章では、そのような組織を有効に機能させる上で必要な権威について分析し、「情報の過大負担という要因を考慮すれば、権威を責任あるものに保つことが組織にとって価値があることは明白である」と主張している。
- しかし、本書のもっとも特徴的な主張は、第1章に述べられている。ここでは、「各個人の専門化されて異なった能力をまたぐ、交易と分業の全体的なシステム」の代表としての価格システム、すなわち市場について、そのメリットとデメリットを整理した上で、これが社会生活の完全な裁定者とはなりえないこと、価格システムを通じて達成された所得分配が、もっとも公正なものであると主張すべき根拠はないこと、「信頼」を扱えないこと、などの根拠をあげ、「価格システムすなわち市場より以上のなにものかが求められている」としている。
- そして、「経済学的な観点から出発するにしても、他人に対して金を払うことを通じる仲裁によってわれわれの他人に対する責任のすべてを果たせるものではないという事実がある以上、社会の運営にとっては良心と呼ばれるもの、すなわち自分自身の行動の他人に対する影響についての責任の感覚をわれわれが持っていることが不可欠になる」と主張している。
- ノーベル経済学賞受賞の経歴を持ち、「多数決の非有効性」などのユニークな視点から研究を続けてきた著者が、経済学的な観点から出発しても市場システムが有効に機能するためには、倫理や道徳の考え方が不可欠と指摘しているのである。
以 上
(文責:澁谷覚、1998年10月4日)