Wiseman, Charles(1988)
"Strategic Information Systems", Richard D. Irwin, Inc.
(邦訳:土屋守章・辻新六『戦略的情報システム』ダイヤモンド社、1989年)
≪要旨≫
本書では、SISを「それぞれの企業が事業を展開し、業界で競争力を高めたり、それを維持したりするための戦略を支援または形成することを意図した情報システム」と定義した上で、このSISという概念(=パラダイム)を持つことによってはじめて情報システムに対する見方(パースペクティブ)を従来の管理的なものから戦略的なものに転換することができ、SISの機会と脅威を体系的に把握できると主張している。そして、このSISが支援する戦略には、様々なものがあり得るが、大別すれば「差別化」「コスト」「革新」「成長」「提携」の5つの戦略スラスト(推進力)があるとしている。
従来の情報システムに対する見方(慣習的パースペクティブ)では、ロバート・アンソニーが提唱したプランニングとコントロールのモデルに立脚して、情報システムの適用目的を考えている。すなわち、このパースペクティブでの情報システム適用の用途は、(1)基本的な事務処理の自動化(MIS:経営情報システム)、(2)意思決定のための情報提供(MSS:経営支援システム)の2点である。
一方、本書で展開している新しい情報システムに対する見方(戦略的パースペクティブ)では、ポーターに代表される競争優位と競争戦略に関する経済学者の狭い観点を拡張し、実務家の視点から実際の諸企業にみられるような多様な競争優位性・競争戦略を包含した上で、SISの戦略的活用の機会と脅威をより広く捉えている。具体的には、競争優位性を短期・中期・長期のものとして、持続力のあるものや対抗可能なものとして、また価格や製品特性以外の優位性も認め、競争の舞台もライバル関係だけでなく、供給業者や流通チャネル、顧客まで拡げて考えることで、SISの機会と脅威をより広く捉えることが可能となると主張している。
そして最終的に、本書で展開される5つの戦略スラストの理論は、チャンドラーとポーターの戦略に関する諸理論と密接に関係し、情報技術に関する戦略的パースペクティブを根底から支える概念枠組みであるとした上で、この戦略スラストの理論によって、SISの機会と脅威を体系的に識別するための概念的道具(戦略オプション・ジェネレータ)を示すことができると主張している。この戦略オプション・ジェネレータは、利用者がSISの機会と脅威を探索・発見することを支援するツールであり、その意味で、ウォーレン・マクファーラン、マイケル・ポーター他によって示されている情報技術の戦略的利用法を分類する一般的な目的のための図式とは異なるとしている。
≪コメント≫
本書は、戦略的情報システム(SIS)という概念を初めて体系的に論じた先駆的な書籍である。しかも、本書で展開している新しい情報システムに対する見方(戦略的パースペクティブ)は、情報技術の戦略的活用について論じたウォーレン・マクファーラン、マイケル・ポーターらの先駆的論文と比較して、実務家の視点から実際の諸企業にみられるような多様な競争優位性・競争戦略を豊富な事例で説明し、SISの戦略的活用の機会と脅威をより広く捉えているという意味で価値のあるものであろう。
以 上
(文責:坂爪 裕、1998年6月17日)