Weick, Karl E.(1979)
"The Social Psychology of Organizing, 2nd ed" ,Addison-Wesley
(邦訳:遠田雄志「組織化の社会心理学(第2版)」文真堂)
≪要旨≫
本書は、組織化過程を通じて形成される「イナクトされた環境」という考え方を議論の中心に据えている。人は今現在の環境にではなく、人それぞれが心の中で受け止めた「イナクトされた環境」に適応する。そして、組織は、自らが順応しなければならない事実とみなす現実を創造するものであると主張している。
このような組織化の過程は、人々がコミュニケーションを通じて一定の答えや解釈を引き出そうとする多義性削減に向けた集合的情報処理過程に他ならない。ワイクは、このような多義性削減の過程を自然淘汰の過程(変異・淘汰・保持)になぞらえて、イナクトメント・淘汰・保持という3ステップからなる組織化の進化論モデルを展開した。組織化にとってのイナクトメントは、いわば自然淘汰における変異にあたるが、あえて変異と言わずにイナクトメントと呼んでいるのは、この言葉が組織の変異に対して積極的な役割を果たしているからである。
一方、このような組織化の過程は、相互に依存関係のある2人の相互連結行動が単位となって組み立てられた過程である。よって、組織にとって肝心なのは、「実体」としての組織メンバー個々人の資質や力量よりもむしろメンバー間の「関係」である。
しかし、組織を構成しているこのようなメンバー間の関係は、目標やビジョンの点でもコミットメントの点でも、通常思われているほど緊密なものではない。むしろこの2つのシステムの関係は、少数のあるいは弱い共通変数によって緩く結合した状態(=ルース・カップリング)にある。
このようなルース・カップリングは、組織を外界の変動や撹乱から守るだけでなく、組織を適応的にもしている。これは、システム制御の領域で言われている「必要多様性の法則(多様性を駆逐できるのは多様性だけである)」が適用できるからである。つまり、組織はインプットの多義性を精確に把握しこれに対処するために、組織化の過程自体を多義的にしなければならないが、異質なルースに制約された相互連結サイクルは、タイトなそれよりも多様性があり、よってこのような多義性をうまく処理できるのである。
≪コメント≫
本書は、組織論や経営学が意思決定をメインの研究領域としていた時代から、組織の学習や知識、より一般的に言って組織の認識といった問題へと関心テーマを移行させてきた時期に、このような流れを予感し、大胆な発想で経営学を導いたエポック・メーキング的な書籍の一つである。著者は、組織化の過程において、多義的な過程はあまりキチンとしていなく、いくつもの目的に仕え、無駄で非効率に見えることが多いが、この一見非効率こそが、組織化の過程の機能不全どころか有効性の証なのであると主張している。このような主張は、合理的・整合的・無駄排除といった考え方の近視眼的志向の問題点を浮き彫りにしており、考えさせられる面の多い指摘である。
以 上
(文責:坂爪 裕、1998年9月22日)