島田達巳・高原康彦(1993)
『経営情報システム(第1章、第2章)』日科技連
≪要旨≫
第1章 序論
●組織を情報という視点から捉えるアプローチ
情報の重要性が認識されるにつれて、組織を情報という視点から捉える主張が一般化してきた。H.A.サイモンは「情報についての理解を深めることによって、われわれは、組織とは情報を製造し、変換するシステムであるということがわかってきた」と述べている。
●状況適応理論の考え方
このH.A.サイモンの考え方を発展させ、組織と情報システムに関する状況適応理論(contingency theory)の発展に貢献したのがJ.R.ガルブレイスである。状況適応理論は、唯一最善の普遍的方策の存在を否定し、方策の状況的適応の必要性を実証によって示すものである。J.R.ガルブレイスは、組織を情報処理機構、すなわち情報システムとして捉え組織設計のあり方を説明している。
●J.R.ガルブレイスの組織設計理論
J.R.ガルブレイスによれば、不確実性とは、タスク(課業)遂行上必要とされる情報量とすでに組織によって保有されている情報量とのギャップである。不確実性が大きくなるにしたがって、意思決定者とその意思決定を実行していく部門との間で交換される情報量が増える。そして、この組織に負荷される情報量(情報処理必要量)に対処するのは情報処理能力であり、それはどのような組織形態をとるかに依存していると言明した。その上で、彼は、組織が情報処理負荷を増大するに伴って、(1)調整付加資源の投入(2)自己完結的職務の形成、(3)垂直的情報システムの強化(4)組織横断的関係の形成の合計4つの組織戦略が有効であると主張した。
●ノーランの発展段階説
一方、情報システムの発展段階論として著名なものに、ノーランの発展段階説が挙げられる。ノーランは、E.シャインの「技術が組織にどのように同化するか」という4段階説をコンピュータに応用し、コンピュータ資源の管理に関する6段階の発展段階モデル((1)初期(2)普及(3)統制(4)統合(5)データ管理(6)成熟)を呈示し、各段階は、@適用業務ポートフォリオA資源(技術・人)Bマネジメント(組織化・計画・統制)Cユーザの意識の4つの成長変数で説明できるとした。
●戦略的情報システムとは?
戦略的情報システム(SIS)は、上記の概念変遷の流れにおいて、従来の概念とは非連続であるとした上で、SISを次のように定義している。つまり、「SISとは、経営戦略を実現するために、組織の基幹システムについて、情報技術を用いた組織内または組織間、あるいは両者間の業務結合により有機的に築かれた、差別化による競争優位の情報システムである」としている。ここでポイントとなるのは、情報システムが企業の競争優位性を獲得する戦略の実現に寄与しているならば、従来のどのような概念もSISとして位置づけ可能であるとしている点である。しかし、競争優位性の獲得という目的を達成するための手段は情報システム以外にも多様に存在し、また、SISの代表例と言われた情報システムも意図的に構築したものではなく試行錯誤の結果としてでき上がったものであることを考えあわせると、「結果としてのSIS、振り向けばSIS」という言葉は味わい深い言葉である。
第2章 組織と情報システム
●組織の定義/組織の構成要素
個人としての人間は、その能力に限界をもっている。組織とは、協働のために意図的に調整された複数の人間による活動や諸力のシステムである。
●組織のダイナミックス
組織は、経営環境を走査(スキャン)することにより認知し、認知した環境に適応するために経営戦略・経営目標を立案する。情報技術自体も組織の環境認知の結果、組織に取り込まれるものの一つである。組織は、環境であると自ら考えるものに反応するわけであるから、環境をエナクト(enact:創造する)すると解せられる(Weick、1979)。すなわち、組織は、エナクトされた多義的な入力情報に対して、経験から形成された因果マップにより、多義性を除去し環境の意味を理解している。
●意思決定プロセスとは?
H.A.サイモンは、意思決定過程を@情報収集(intelligence)A情報設計(design)B情報選択(choice)の3つの段階に分けている(Simon、1960)。さらに、宮川によれば、意思決定は、本質的に一種の情報処理プロセスであり、そこでは意思決定を必要とする問題に関連あるものと認知された情報を処理して、決定という別の情報に変換するプロセスである。そして、その決定がリーダーシップのプロセスを経て、さらに行動へと変換される。企業経営において成功するには、意思決定のプロセスとリーダーシップのプロセスのバランスをとることが必要である(宮川、1975)。
●情報の概念
情報の概念については、種々の解釈があるが、意思決定との関連で捉えるには、A.M.マクドノウの定義が有用である。それによると、情報とは、特定の状況における価値が評価されたデータとし、データとは、人が利用することができるメッセージで、特定の問題、状況に関してまだその価値を評価されて いないものとする。加えて、知識については、将来起りうるであろう問題に関しての一般的利用可能性を評価されたデータであるとする(McDonough、1963)。つまり、人は問題解決の必要が生じた時に、データの集積の中から問題解決に役立つものを見い出す。この過程は、データを問題と関連づけて価値的側面から評価しているに他ならず、データを情報に変換している過程と言える。
●意思決定理論の変遷と情報システムの役割
古典的決定理論は、20世紀初頭に古典的経済理論の成果として生まれたものであり、そこでの意思決定は、環境からの未知の入力とは隔離されており、意思決定者は、事前に選択可能な代替案の内容・結果・優先順位をすべて知っているというような合理的な人間像が想定されており、選択は「最適基準」で行われるとしている。これに対して、H.A.サイモンは、意思決定においては、代替案のすべて、およびそれがもたらす結果のすべてをあらかじめ分かっているのではなく、少数の代替案を見つけるために限られた探索を行い、選択は、従来の「最適基準」ではなく、要求水準を満足させる「満足基準」による選択で行われると主張し、彼はこれを「限定合理性」と呼んだ。
●組織認識論と情報システムの役割
近年になって、情報から意味を解釈する認識過程を重視じた、いわゆる組織認識論が登場してきた(加護野、1988)。この理論によると、従来の情報と意思決定の概念には「意味」の側面が欠落しているという。つまり、意味とは、人々が主観的に想起する状態や事象のことを言い、人々が外界から受け取る情報は多義的であると考えるが、従来の情報と意思決定で扱う情報は、暗黙のうちに情報は一義的であるということを前提にしてしまっているというのである。従来の意思決定論は、「決める」「選ぶ」「解く」という認識過程に重点が置かれているが、それに先立つ「見る」「知る」「わかる」などの認識過程に充分な注意を払う必要があると主張している。
また、組織認識論では、人間は、自分自身の意思のもとに意味の付与と決定を行う自由な存在であるが、その自由意思そのものが自分自身の知識によって制約されているという意味で、自らの知識に囚われた存在であるという人間モデルに基づいている。したがって、人間の問題解決は、コンピュータに見られるような形式論理からは系統的に逸脱し、文脈と集団の雰囲気に影響されるとしている。このように考えると、従来は、形式的情報と意味的情報を区別しない単純な情報システムモデルを描いていたが、情報技術の進展が主に形式的情報の処理の側面が強いとすれば、知識の利用と獲得の重要性が高まるにつれて、ますます人間が主な対象とする意味的情報の処理の側面が重要視される必要がある。
≪コメント≫
本書は、もともと大学及び大学院での「経営情報システム論」「経営情報論」のテキストとして著わされたものであり、理論と実務の統合性・関連研究の網羅性などの点から、経営情報システム分野では他に類をみない入門書である。1970年代半ば以降、わが国では、大学に経営情報学部や経営情報学科が設けられるようになったが、同じ「経営情報システム」といっても、そこで教えられていた内容にはかなりの差異があり、この分野における大学のテキストを目的として著わされた市販本も極めて少ないのが実態であった。そこで、これまでの経営情報システム分野の理論と実践の統合を図り、最新の技術動向を加味しつつ標準的な教科書となるよう企画・執筆されたのが本書である。本書は、以下に示す通り、上述した2章に加え全体で8章からなる構成となっている(括弧内は執筆者)。この分野を志すものにとって、一読に値する一冊と言えよう。特に、巻末にある参考文献リストは非常に参考になると思われる。
第1章 序論(島田)
第2章 組織と情報システム(島田)
第3章 問題解決の道具としてのコンピュータシステム(高原)
第4章 個人情報システム(高原)
第5章 グループ情報システム(高原)
第6章 組織情報システム(島田)
第7章 情報システムの開発(島田)
第8章 意思決定支援とエキスパートシステム(高原)
以 上
(文責:坂爪 裕、1998年5月6日)