Senge, Peter M.(1990)
"The Fifth Discipline", Currency and Doubleday.
(邦訳:守部信之『最強組織の法則』徳間書店、1995年)
≪要旨≫
本書では、「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」という経営コンセプトについて紹介しており、このような組織を実現するための法則として、以下5つの点を指摘している。
(1)自己マスタリー : 組織の各メンバーは、絶えずビジョンと現実のギャップ(クリエイティブ・テンション)を認識して、個人の習熟度を高めていくことが必要である。
(2)メンタル・モデルの克服 : メンタル・モデルとは、人々の心に固定化されたイメージや概念のことであり、これが個人や組織の行動に深い影響を及ぼしている。激変するビジネス環境の中で、絶えず適応し成長できるか否かは、組織の各メンバーが市場や競争相手に関して共有するメンタル・モデルを変えていけるか否かにかかっている。
(3)共有ビジョンの構築 : 企業が達成すべき将来のイメージを各メンバーと共有し、企業の目標や価値観、使命を組織全体に浸透させることで、各メンバーの献身を促し、組織全体の生産性を高めることができる。
(4)チーム学習 : 「対話」を通じたチームでの相互学習によって、メンバー単独での学習成果を上回ることができる。
(5)システム思考 : 最後の「システム思考」は、上記4つのディシプリンを統合するものであり、本書の主張の中心をなすものである。その基本的な考え方は、概ね以下の通りである。
「システム思考」とは、全体を見るためのディシプリンである。それは物事自体ではなく、その相互関係を捉えるための枠組みである。この考え方では、複雑なシステムの根底にある「構造」を捉え、どこに働きかけどこを変えれば決定的かつ持続的な改善に繋がるかという要因(レバレッジ)を把握し、些細でも影響力の大きく的を得た改善活動を推進することが必要である。
この考え方は、従来のシステム分析が対象としてきた静止的な断片としての「細部の複雑さ」を対象にするのではなく、絶えず変化していく「動態的な複雑さ」を対象にしている。これは、原因と結果が時間的・空間的に近接していないために因果関係が捉えにくく、対策に対する効果が見えにくいという複雑さを示している。本書で言う「システム思考」は、このような複雑な原因と結果の相互関係を線的な繋がりとしてではなく、「フィードバック・プロセス」の構造として認識するものである。
この「フィードバック・プロセス」には、まったく異なる2つの種類、拡張(増大)フィードバックと平衡(安定)フィードバックがある。拡張(増大)フィードバック・プロセスは、一般に「雪だるま現象」「便乗効果」「悪循環」などといった言い回しで表現されるものであり、小さな変化が積み重なることで加速していく成長や衰退を表わしている。一方、平衡(安定)フィードバック・プロセスとは、ある目標値を維持しようとする安定・抵抗のプロセスであり、一見何も起こっていないように見えることから暗黙的・潜在的なプロセスである。そして、この平衡(安定)フィードバック・プロセスが、システム全体の構造を変え、行動パターンを変える要因(レバレッジ)となりうるものである。
この2つのフィードバック・プロセスを前提に、ビジネスに生じる悪循環のパターンを分類すると、2つのパターンに分けられる。一つは、「成長の限界」とも呼ぶべきもので、拡張フィードバックと平衡フィードバックからなり、暗黙的・潜在的な平衡フィードバック・プロセスが拡張フィードバックの成長を制限・抑制しているというパターンである。もう一つは、「問題のすり替え」とも呼ぶべきもので、2つの平衡フィードバックから構成されており、善かれと思ってとった「解決策」が実際には長期的に見て問題を悪化させるような短期的・対症療法的な解決策にしかなっていないような様々な行動を説明するものである。
≪コメント≫
本書で主張されている「システム思考」という考え方は、著者が身を置くMITで長年研究されてきたシステムダイナミクス研究の流れを汲む考え方であり、フィードバックプロセスや自己組織化現象について言及している点で昨今流行の「複雑系システム」の議論とも密接に関連した考え方である。本書は、このような「システム思考」という考え方を主に組織改革に応用したものであり、「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」という経営コンセプトをもとに、混迷を増す経営環境の中で組織改革の目指すべき方向性について5つの視点から考察を加えている。組織研究のみならず、経営情報研究分野においても、一読に値する一冊と言えよう。
以 上
(文責:坂爪 裕、1998年7月8日)