Porter, Michael E. and Victor E. Millar(1985)
"How Information Gives You Competitive Advantage", Harvard Business Review, July-August 1985, pp149-60.
(邦訳:『進展する情報技術を競争優位にどう取り込むか』DHB Oct. - Nov. 1985)
≪要旨≫
本論文では、(1)情報技術がなぜ戦略的意義を獲得するに至ったか、様々な事業に対してどのような影響を与えているか、(2)情報技術がどのように競争の性質を変えるか、(3)経営者の視点から情報技術を活用するため留意点、の3点について解説している。
まず、本論文では、情報技術の戦略的意義を、価値連鎖・競争範囲・情報密度という3つの概念を用いて説明している。
(1)情報技術は、各企業の価値活動の連鎖のすみずみに浸透して、各活動のやり方や各活動間の連結の性格を変えうる。
(2)情報技術は、各企業の競争範囲(セグメントの幅・垂直範囲・地理的範囲・業界範囲の4つ)に影響を与え、企業が競争優位性を達成するために競争しなければならない範囲を変えうる。
(3)情報技術は、各業界において差異はあるものの、製品そのものの情報密度を高める方向に影響を与えており、製品が買手のニーズを満たす方法をも変えうる。
次に、本論文では、情報技術が以下3つのやり方で競争のルールを変えつつあると主張する。
(1)情報技術の進歩は業界構造を変える力を持っている。
→業界の収益率を左右する5つの競争要因(買手の交渉力・供給業者の交渉力・新規参入の脅威・代替製品の脅威・既存競争業者間の競合)全てに対して影響を及ぼし、業界の魅力度を変えうる。
(2)情報技術は各企業が競争優位性を創り出すための手段としての役割を高めつつある。
→価値活動そのものに影響を与えるか競争の範囲を変化させ、コスト優位・差別化のどちらかの面で企業に競争優位性を与える影響力を持っている。
(3)情報技術は以下3つの異なった方法で、まったく新しい事業を生み出す可能性をもっている。
→技術的に実現可能にする・派生需要を喚起する・情報の高度利用に伴う余剰設備/技能を外販する
そして最後に、経営者が情報技術を有効利用するためには、以下5つのステップが必要としている。
(1)各事業毎に情報密度を評価し、情報技術の投資優先順位を識別する。
→潜在的な価値連鎖の情報密度の高さと潜在的な製品の情報密度の高さの2つの基準で評価する。
(2)5つの競争要因毎に業界構造に及ぼす情報技術の影響を調査する。
(3)情報技術が価値連鎖のどの活動に影響を与えるか、競争範囲をどのように変えうるかを識別し、競争優位性を創り出すことのできる手段を考える。
(4)情報技術がいかにして新事業を生み出しうるかを調査する。
(5)情報技術の利用計画を立案する。
≪コメント≫
元来、産業組織論では、全ての企業が超過利潤をあげられない完全競争状態が最適な資源配分効率を達成すると考え、この機能を市場に求めてきた。しかし、ポーターに代表される競争戦略論では、逆に各企業組織がこの超過利潤をあげることのできる構造をいかに戦略的に構築するかを論じており、本論文では、特にその際の情報技術が果たす機能・役割について記述している。情報技術は顧客を囲い込み、価値連鎖に影響を与えてコスト構造を変え、従来の競争の範囲を一変させるといった戦略的可能性が指摘されており、もっぱら情報技術は従来の市場機能に対して超過利潤を高める手段として位置付けられている。しかし、昨今の電子市場の台頭に伴って、情報技術はむしろ市場の機能を促進させ、超過利潤をあげられない完全競争に近い市場の形成にも働く可能性が指摘されている。その意味で、本論文は情報技術の果たす機能の1側面のみを扱っているという限界はあるものの、戦略的情報システム(SIS)論の火つけ役ともなった先駆的な論文と言えよう。
以 上
(文責:坂爪 裕、1998年6月17日)