March, James G. and Herbert A. Simon(1958)

"Organizations" , John Wiley & Sons, Inc.

(邦訳:土屋守章『オーガニゼーションズ』ダイヤモンド社、1977年)

 

≪要旨≫

本書は、組織メンバーを「受動的な機械であって、仕事を遂行し指示を受けることはできるが、自ら行動を引き起こし影響力を行使するという点ではほとんど重要ではない」と仮定する古典的組織理論の限界を以下の5点であるとした上で、既存の諸理論の分析、及び独自の考察を展開している。

(1)組織行動の動機的・態度的側面に関する仮定が不完全・不明確である。

(2)利害に対する組織内コンフリクトのもつ役割をほとんど認めていない。

(3)人間の合理性に対する限界のために発生している諸制約条件がほとんど考慮されていない。

(4)課業の認定と分類における認知の役割、意思決定における認知の役割について、ほとんど注意が向けられていない。

(5)プログラム形成の現象をほとんど重視していない。

その上で、本書では、組織メンバーが欲求、動機、意欲をもっているということ、またその知識と、学習し問題解決する能力に、ともに限界があるということを認める新しい抽象化の方向を打ち出している。特に、後者の命題は、従来ほとんど探求されてこなかった組織行動の認知的側面についての記述であり、本書の特徴をなすテーマとなっている。

本書の構成としては、まず、第2章において、組織行動における機械的側面から2つの研究の流れを外観し、上記5つの限界を整理している。続く第3、4章では、上記@の限界に対して、人間関係論の流れから、組織行動の2つの動機的側面(生産の意思決定・参加の意思決定)について論及し、実際の組織活動の中では、古典的機械モデルが予期していたものよりもはるかに複雑な動機づけや学習行動が行われていることを確認している。また、第5章では、上記(2)の限界に関連して、個人から組織間に及ぶコンフリクト現象を分類した上で、組織の中でコンフリクトが起る条件、コンフリクトに対する個人もしくは組織の対応、コンフリクトが及ぼす結果について考察している。その上で、第6、7章では、組織行動の認知的側面について検討し、従来にはない意欲的な考察を展開している。第6章では、組織の構造と機能の基本的特色が生じてくるのは、人間の合理的行動の認知的限界からであるとし、最適基準から満足基準による意思決定、組織の中の実行プログラムと組織構造、分業構造、コミュニケーションなどの問題について論及している。また、第7章では、組織の「定常状態」ではなく、変化・革新の過程に着目し、人間の合理性に対する認知的限界によって組織の変化とプログラムの形成過程がどのような影響を受けるかについて論及している。

 

≪コメント≫

本書は、C.I.バーナードによる『経営者の役割』から始まった組織研究の流れに沿うものであり、この 流れはバーナード以来約10年を経て、H.A.サイモンの『経営行動』に受け継がれ、さらに10年を経て本書につながっている。組織を構成しているメンバーを意思決定者として見て、その上で組織としての諸現象や組織の中での人間行動を解明しようとするこれら研究の流れの中にあって、本書は従来ほとんど探求されてこなかった組織内行動の認知的側面に初めて光りをあて、その内容と論理的厳密性において組織を科学的に研究するための出発点となった研究の一つであり、その意味で組織研究の金字塔に値する一冊と言えよう。

 

以 上

(文責:坂爪 裕、1998年5月13日)