桑田耕太郎(1995)

『情報技術と組織デザイン』組織科学、Vol.29 No.1

 

≪要旨≫

本論文では、長期的な視点から情報技術が組織に及ぼす影響を分析している。具体的には、「不確実性の除去」と「多義性の除去」という2つの調整活動のコストの観点から、(1)まず現代の情報技術が組織の境界に与える影響をについて検討し、(2)次いで組織に内部化された諸活動がどのように構造化されていくか、その組織デザインについて検討している。

その結果、「新しい情報技術によって組織の境界はあまり大幅に縮小することはない」「組織内にも一定以上の階層組織は残り組織規模もあまり縮小しない」という、一見保守的に映るかもしれない仮説を提示している。

 

≪情報技術が組織の境界に与える影響≫

情報技術が削減すると言われている調整コストの内容を、内部組織によって諸活動を調整する場合の「内部調整コスト」と、市場を通じた調整を行う際の「外部調整コスト」に分けて分析を行うと、もし情報技術が外部調整コストよりも内部調整コストの低下により大きく貢献するならば、組織はより多くの活動を内部で行うようになり、その組織規模は増大すると考えられる。一方、情報技術が、内部調整コストよりも外部調整コストの低下により大きく貢献するならば、組織はより多くの活動を市場を通じて調整するようになり、その組織規模は縮小すると考えられる。

このような調整活動には、「不確実性の除去」と「多義性の除去」という2つの側面が含まれている。不確実性は、情報が不足していることを意味しているため、それを除去するためには、より多くの量の情報を獲得する必要がある。一方、多義性は、状況について多様で矛盾した解釈が存在することを意味するため、この除去にはよりリッチな情報が必要になる。そして、情報技術がこの調整問題に与える効果を複雑にしているのは、情報を伝達処理するメディアやシステムには、より多くの情報量を伝えるのに適したもの(不確実性除去)と、よりリッチな情報伝達に適したもの(多義性除去)があるからである。

つまり、調整活動によって、情報技術が内部調整コストと外部調整コストに与える効果が異なるのは、新しい情報技術が、不確実性の除去と多義性の除去に及ぼす効果が異なるからである。最近までの研究の多くが示すことは、現代の情報技術は不確実性を除去するという面ではより効率的・効果的に直接的効果を示す一方、多義性の除去という面では、対面対話を核とするより人間的なメディアの方が直接的効果を示し、情報技術は間接的に貢献するに留まるということである。

以上の分析より、情報技術が組織の境界に与える影響について、以下のような仮説を導くことができる。

(1)不確実性の除去がより中心的な調整活動については、情報技術の導入によって生じる外部調整コストの低下率は、その内部調整コストの低下率より大きく、よって諸活動は外部化されたり市場メカニズムに委ねられることになる。

(2)多義性の除去がより中心的な調整活動については、情報技術の導入によって生じる内部調整コストの低下率は、その外部調整コストの低下率より大きく、よって諸活動は内部化される傾向が高い。

 

≪新しい情報技術と組織デザイン≫

一方、情報技術の導入によって組織の境界が変化するならば、内部組織のデザインも変更を迫られよう。従来の組織構造は、調整の不確実性除去の側面に焦点を当ててデザインされてきた。しかし、新しい情報技術が、不確実性除去を中心とする調整能力を大幅に改善する効果を持つとき、不確実性除去はもはや組織デザインにおける決定的な制約条件ではなくなる。反対に、従来犠牲にされてきた多義性除去を中心とする調整活動が、競争優位を実現する組織デザインにとって、最も重要なポイントになる。

したがって、新しい組織のデザインは、従来の組織の基本的利点である不確実性除去による専門化の利益を損なうことなく、顧客満足度や戦略的変革を柔軟に行える多義性除去に関わる調整側面を合わせ持った組織ということになる。そして、このような組織を構築するためには、新しい情報技術が比較優位をもつ不確実性の除去と、人間的メディアが比較優位をもつ多義性の除去という調整活動を、いかにバランスよく組み合わせていくかが重要となる。

一方、情報技術の導入に伴う組織の変化として、「組織階層がフラット化する」「ミドルマネジャーが不要になる」といった見解が頻繁に指摘されている。しかし、上述の不確実性と多義性除去の議論から言えば、確かに情報技術の導入によって不確実性除去に関わる調整活動は削減され、その分だけ組織階層はフラット化するが、一方で多義性の除去を中心とする調整活動が大幅に増え、多くの人々がこれに従事するようになるため、組織は一定以上の階層を持ち続けるであろうと主張できる。

 

≪コメント≫

従来より、情報技術と組織デザインの適合性を巡る議論は活発になされてきた。しかし、その主な主題は情報技術と不確実性除去の関係を巡る議論であった。ところが、本論文が指摘するように、情報技術がより進歩すればするほど、対面対話を核とするより人間的なメディアを対象にした多義性除去と情報技術との関係の方がより重要になる。多義的なものを多義的なものとして受け入れ、それをキーワード、シナリオ、メタファーなどの多義的な記号で適切に表現する際に、情報技術はどのような間接的役割を果たすことができるのであろうか、また、このような多義的なものを削減していく過程で、情報技術はどのように係わることができるのであろうか。まだまだ、判らないことばかりであり、今後の研究課題は山積みである。

 

以 上

(文責:坂爪 裕、1998年9月22日)