藤本隆宏(1997)

『製品開発の産業間比較分析に関する温故知新的な試論』ビジネスレビュー、Vol.45 No.2

 

≪要旨≫

本論文は、新製品開発プロセスに対して、多義性・複雑性・不確実性といった既存の組織理論における分析概念がどのような形で応用できるか考察し、以下に示す、今後の新製品開発プロセスの産業間比較分析を行う際の基本的な仮説導出を試みている。

(1)新製品開発プロセスは「顧客満足創出プロセスのシミュレーション」であり、効果的な製品開発のパターンは、こうしたプロセスの因果マップやシミュレーションの善し悪しに左右される。

(2)顧客満足創出プロセスの諸属性のパターンは、多義性・複雑性・不確実性の観点から産業間・製品間で異なりうる。

(3)したがって、仮に同等の因果知識やシミュレーション能力を持った製品開発組織であっても、効果的な製品開発のパターンは、産業間・製品間で異なりうる。

 

≪導出された仮説の概要≫

製品開発過程は、未だ実現していない顧客満足創出過程を逆行して遡る形で疑似体験することに他ならず、その意味では、将来の生産・消費過程のシミュレーションと位置付けることができる。よって、製品開発の基本的なプロセスは、(1)製品コンセプト(顧客満足の写像)→(2)機能設計(製品機能の写像)→(3)構造設計(製品構造の写像)→(4)工程設計(生産工程の写像)という、顧客満足創出過程(括弧内)と一定の同形性を保った「目的・手段連鎖」と考えることができる。

さらに、これら2つの過程の間には、ある種の記号的な関係が成り立つ。つまり、「現実空間」の存在である生産工程・製品構造・製品機能・顧客満足と、それを表象する「記号空間」の工程設計・構造設計・機能設計・製品コンセプトとは、物理的な測定・制御関係を通じて直接結び付いているだけでなく、同時に「現実空間」は「解釈」を通じて、また「記号空間」は「指示」を通じて、開発者の頭の中の意味空間と連結していると考えることができる。

一方、この顧客満足創出過程は、製品や産業の違いによって異なるパターンを持つ可能性がある。そうしたプロセスの差異は、(1)多義性(2)複雑性(3)不確実性といった基本的なシステム属性の概念を用いて記述できる。したがって、顧客満足創出過程の基本属性が製品毎に異なることによって、産業間で効果的な製品開発過程がもつ問題解決やシミュレーションのパターンも違ってくると言える。

 

≪コメント≫

本論文は、新製品開発プロセスに対して、多義性・複雑性・不確実性といった既存の分析概念がどのような形で応用できるか考察し、今後の新製品開発プロセスの産業間比較分析を行う際の基本的な仮説導出を試みている。著者の展開している議論の善し悪しは、今後の比較分析研究の結果を待たなければ判断できない部分もある。しかし、顧客満足創出過程のシミュレーションとしての新製品開発プロセスには、多義性・複雑性・不確実性といった側面から様々な困難が存在しており、これら困難を克服するためには、困難を事前に除去するか、あるいは解決能力を高めて吸収するかの2つのアプローチが存在するという著者の主張には、奥深いものを感じる。とかく、組織の問題解決能力を高めるかという方向しか目が向かない折、いかにその困難(問題)を事前に除去してしまうかという考え方は、本質に迫るものであろう。

 

以 上

(文責:坂爪 裕、1998年9月22日)