Blau, Peter M.(1964)
"Exchange and Power in Social Life", John Wiley & Sons, Inc.
(邦訳:間場寿一・居安正・塩原勉『交換と権力』新曜社、1974年)
≪要旨≫
本書の目的は、対人関係や集団間の関係を支配している比較的単純な社会過程(=社会的交換過程)を分析することで、権力の発生を説明し、それに基づいてより複雑な社会構造(統合・分化・組織化・反抗)に対する適切な理解を引き出すことにある。
著者は、対人関係や集団間の社会的相互作用の過程を社会的交換の概念で説明している。ここで言う交換とは、自我と他者という2人の行為者の間で、互いに満足の源泉が相手の行為者であるような相互行為を指しており、この社会的交換は、他者への印象づけに代表される社会的誘引によって引き起こされ、この誘引の存在故に社会的結合と分化が進み、集団が形成されると述べている。
この社会的交換の基本になっている原理は、自我Aが他者Bに報酬としての意味を持つサービスを供与することによって、Bは自発的に義務感を感じ、Bはその義務を果たすためにAに返礼する、というメカニズムにある(互酬的誘引による均衡)。しかし、Aのサービスが希少であり、BもAからのサービスを継続的に必要とするが、返礼として何も持ち合わせていない場合、つまり社会的独立の条件が満たされていない場合、彼に残された唯一の行為は、相手が自分に対して権力を持つことを認めて、相手に服従することである。相手の権力を認めて様々な要求に喜んで応じることは、返礼の一形態であり、この権力の分化によって、交換は均衡しうる。また、このような権力の分化による均衡関係に対して、AはさらにBに対してサービスを供与し、その地位を確固たるものにしようと権力の源泉となる信用を蓄積しようとすることもある(新たなインバランスの創出)。この際、BがAのこのようなさらなる権力の行使を社会的規範に照らし合わせて是認すれば、Aの権力は権威として正当化され組織化が進む一方、反対に否認すれば搾取への報復を喚起する社会的反抗に至るとしている。
このような社会的交換が経済的交換と決定的に異なる点は、まず第一に、社会的交換は交換によって得られると期待される利益の性質が経済財のような外的報酬だけでなく、他者との精神的・情緒的交流とでも呼ぶべき内的報酬をも含んだ中間的なケースに相当する点である。また第二に、これにともなって、返礼に対する義務は、経済的交換における貨幣の支払いのような「特定化された」義務ではなく、むしろ「特定化され得ない」義務を伴うものであるという点である。社会的交換では、この「特定化され得ない」義務ゆえに、経済的交換と違って、相互の信頼(コミットメント)に強く依存し、いつまでも完結することがなく時間的に持続した相互義務と相互信頼の観念を伴うことなしには成立し得ない。
ただ、この社会的交換に関しても経済的交換と同様、限界効用低減の原理が当てはまり、貨幣をメディアとする経済的交換に固有な「価格」に対する相当物を考えることができることから、社会的交換における需要と供給の変動・調整の分析は、ある程度まで経済的交換と共通の限界分析の手法(無差別曲線とボックスダイアグラム)を適用できる。
≪コメント≫
今後のネットワーク社会では、従来の価格をシグナルとした市場での経済的交換に加えて、本書で主張されているような共感とコミットメントによる社会的交換が必要になると言われている。経済的動機と社会的動機とを接合し、経済的動機を軸にネットワークを運営しながらも、そこに共感とコミットメントという社会的行為を組み込むことがネットワークの本質に他ならない。その意味で、社会的交換過程によって権力が生まれ、それに基づいてより複雑な社会構造が構築されるとする本書の主張は、ネットワーク社会を目前にした35年後の現在においてもなお有効な考え方と言えよう。
以 上
(文責:坂爪 裕、1998年7月17日)