本書は、「古典科学」あるいは「ニュートン主義」と呼ばれる機械論的世界観が持つ静的かつ決定論的な法則に対し、時間の概念を導入した動的かつ確率論的な「熱力学論」の法則を融合させる試みである。
古典科学においては、安定・秩序・均質・平衡・線形関係・可逆性が強調され、無秩序・不安定性・多様性・非平衡性・非線型関係・不可逆性は例外ないしは観察者による誤差であるとして退けられてきた。しかし、本書で著者らが指摘するように、決定論的かつ可逆な世界こそが例外であって、現実の宇宙や自然は不可逆性すなわち「時の矢」を持つ確率論的な世界であると考えるべきである。
しかし、時間の概念を取り入れた熱力学の第二法則というのは、宇宙はエントロピーの増大(=エネルギーの損失)へと一方向に進行していて、やがては熱的な死に至るというものでもある。このように宇宙が一方通行の道を歩んでいるのであれば、全く同一の条件の時間というものは存在せず、古典科学の可逆性は否定されざるをえない。しかし同時に、宇宙が時間の経過とともに秩序から無秩序へ、組織から乱雑へ、差異から均一へと向かうことを認めたとたん、同じく時間の概念と関係している「進化」や「組織化」といった現象との間に深刻な矛盾が生じる。この矛盾を解決させる試みこそが本書のもうひとつの中心論題であろう。
開いた系では、平衡から遠く離れた条件下において、無秩序あるいは熱的混沌から秩序への転移が起こることがある。そこでは、非線型・不安定性・ゆらぎなどによって説明される現象が起きている。そして、そのような開放系と外部環境との相互作用を通じて新たに生じた規則的な秩序状態を散逸構造と呼ぶ。非平衡状態では、物質同士がコミュニケーションを取り合い、コヒーレントでリズミカルな動きを見せることがあり、それが秩序や組織化の源泉となっている。
一方、時間的な非可逆性、すなわち過去に向かって発展することはありえないことを著者は無限のエントロピー障壁を使って説明している。つまり、無限の情報がなければ、時間を逆行することができないのである。光速を上回る速さでコミュニケートできないことがその一例であげられている。
著者は古典科学すなわち力学と熱力学の融合を試みているのであって、力学を対立概念として否定しているわけではない。よって、「線形=必然的」に進行する現象と「非線型+分岐=偶然的」に進行する現象が交互に現れたりするのがこの世界であると主張しているのである。また、宇宙すべてが熱的な死に向かうという単純な過程ではなく、エントロピーが増大している中から新たな秩序が生まれるという自己組織化現象が起こるというある意味矛盾した出来事をも包含するような説明を施している。ここでは、宇宙は崩壊しつつも自己組織化しつつあり、偶然と必然が混ざり合って起こっている。
以上
(文責:森田 正隆, 1998年7月8日)