本川達雄『ゾウの時間ねずみの時間』中公新書, 1992.



 本書は情報システムに直接言及したものではない。しかし、生物はサイズが違えば流れる時間のリズムが異なり、結果的にそれがシステムの振る舞いに象徴的に現れてくるという下記の記述(p. 15)は、示唆に富むものとして脳裏から離れない。過度のアナロジーは危険であることを十分承知した上で、情報システムや組織にこれをあてはめて考えてみることは興味深い。
 さて、ではなぜサイズの小さいものが系統の祖先になりやすいのだろうか。その理由は、小さいものほど変異が起こりやすいことにある。小さいものは一世代の時間が短く、個体数も多いから、短期間に新しいものが突然変異で生まれでる確率が高い。また、小さいものほど移動能力が小さいので、隣りの仲間から地理的に隔離されやすく、したがって新しい変異で作られた集団が、独自の発展を遂げる機会が多い。また、小さいものほど環境の変化に弱いので、たまたまうまく適応したものを残してあとは淘汰されてしまうということ可能性も高いだろう。こう考えると、小さいものが新しい系統の祖先になりやすいことが理解できる。

 大きいものは、ちょっとした環境の変化はものともせず、長生きできる、これは優れた性質ではあるが、この安定性があだとなり、新しいものを生みだしにくい。大きいと個体数が少ないし、一世代の時間も長いから、ひとたび克服できないような大きな環境の変化に出会うと、新しい変異種を生みだすこともできずに絶滅してしまう。一方、小さいものは、どんどん食べられ、ばたばた死んでいくが、つぎつぎと変異を生みだし、「へたな鉄砲も数打ちゃ当たる」という流儀で後継者を残していく。

以上
(文責:森田 正隆, 1998/2/17)