MacKie-Mason, Jeffrey K., and Hal R. Varian
"Pricing Internet," The author's home page, 1994.
<要旨>
Introduction
1992年12月23日、NSFはインターネットのバックボーンであるANSのT3回線への資金供給を近い将来停止すると発表した。これはインターネットが公的資金で賄われるものではなくなり商業インターネットに転換していく大きなステップであった。しかし、インターネットという基盤にどのような価格づけをおこなうのかが問題である。放置すれば、「共有地の悲劇」が起こり、インターネットに輻輳(回線の渋滞)が起こるだろう。
Internet Technology and Costs
パケット・スイッチング技術は音声電話に用いられてきた回路スイッチング技術とはまったく異なる。後者が接続する両端間に一定のバンド幅を固定的かつ連続的に割り当てるのに対し、パケット技術ではひとつの回線を多くのユーザで共有する。音声電話であれば、たとえ無言の時間が長く続いていもその間も回線は占有されたままだが、パケット回線では、パケットを送っていない間は他のユーザに回線は開放されている。回線という資源が希少であるときにはパケット技術の方が効率的である。インターネットのプロトコルであるTCP/IPはこのパケット技術応用の典型的な例である。
ネットワークでは固定設備の費用ウェイトが大きいので、回線に余裕があるうちは追加的にパケットを送る費用はほとんどゼロである。限界費用で価格が決まるとすれば、その場合のパケット送信価格は理論的にはタダになる。
Congestion Problems
大勢の参加者で共有するインターネットのような通信基盤にも通信容量の上限があるとすれば、そこには「共有地の悲劇」の可能性がつきまとう。輻輳が起こると、遅延とパケット損失の問題が発生する。用途や目的によってこれらの遅延やパケット損失がもたらすコストの大小は違ってくる。たとえば、E-mailでは多少の遅延は許されるが、インターネット電話の場合は25msの遅延が限界である。
Should Prices Be Used?
現在のインターネットでは、ランダム性とFIFO(先入れ先出し)が資源割当のメカニズムである。前述のとおり、回線に余裕がある段階では、パケット送信価格はゼロになりうるが、輻輳が起こったときには価格をシグナルにして資源を割り当てる必要性も生じてくる。
Current Pricing Mechanisms
現在のインターネットでは、サービスプロバイダに契約している回線容量の大小に応じた固定料金を支払う形態が一般的である。利用状況に応じた追加料金がない、とりわけ輻輳時の割増料金がないというこの状態では、回線容量の資源割当メカニズムが働かない。
Matching Prices to Costs
追加パケットを送信する増分コスト(基本的にはゼロ)
輻輳時に他人のパケットを遅延させることの社会的コスト
ネットワーク基盤を提供する固定コスト
ネットワークに新規に接続する際の増分コスト
ネットワーク容量を拡張する際のコスト
効果的な価格づけメカニズムとは、以下のような内容を持つもので、用途に応じて変化する課金体系(ただし輻輳時のみに課す)となる。
非輻輳時のパケット課金はゼロ
輻輳時のパケット課金は実施
固定的な接続料金は制度や機関によって異なる
Implementing Congestion Prices
「スマート・マーケット」の提案。輻輳時に、その混雑の度合に応じて、パケット送信料金が変動する仕組み。パケット毎に値づけ(送信料金として自分が支払ってもよいと思える価格の上限値)をおこなうことで、輻輳時には値づけの高いパケットから相対的に高い優先順位が割り当てられる。あくまでも相対的な優先度である以上、送信完了までの時間が保証されるわけではない。
Other concerns about the Smart Market Mechanism
値づけはローカルの管理責任者がおこなってもよいし、コンピュータのユーザ自身、あるいはソフトウェアがやってもよい。
課金が変動することに不快感を示す向きもあるが、つけた価格は上限値であるのでそれを超えることはない。また、市場と末端ユーザの中間に入り込み、スマート・マーケットでの価格変動を吸収することによって利益を得るような「卸売り業者」の登場も期待できる。
The Roles of the Public and Private Sectors
ネットワーク基盤への固定投資の担い手が公的セクターから民間セクターへと移るにつれて、無料ハイウェイから有料ハイウェイへの転換が必要となる。いずれにせよ社会的にみて望ましいだけの投資がなされるためには、効率的な価格づけのスキームが必要不可欠である。そのスキームがあればこそ、ネットワークの活用と容量の拡張は望ましい水準で進行し、高い価値を見出すユーザにきちんと資源が割り当てられるようになるのである。
また、政府の役割も軽視できない。標準化や相互接続の促進、あるいは社会的な厚生を増大させる目的での補助金の投入など政府が担うべき役目はなくならない。
<コメント>
本論文はインターネットの商業化に際して、いわゆる「共有地の悲劇」問題を防ぐための値付けとはいかなるものかということを論じたものである。現在、スマート・マーケットは実現していないが、次世代インターネットではそれに近い仕組みが採用されるであろう。限界費用にもとづく値付けができないインターネットでどのような費用賦課と回収の仕組みを作るのかということに対して、いち早く意欲的な提言をおこなった彼らの貢献は大きい。
以上
(文責:森田 正隆, 1998年7月17日)