Kauffman, Stuart
At Home in the Universe: The Search for Laws of Self-organization and Complexity, Oxford University Press, 1995.
(邦訳:米沢富美子『自己組織化と進化の論理: 宇宙を貫く複雑系の法則 』日本経済新聞社, 1999.)

生物の進化を説明するにあたり、「自然淘汰」と「突然変異」だけでは不十分であり、「自己組織化」がもたらす適切な秩序がそこに加わる必要がある。これが、本書の主題である。システムが十分に多様化していて複雑であるときには、自発的に自己触媒機能が働き始め、そこに秩序や生命現象が自然に生まれるという「創発理論」がその基礎に据えられている。著者は複雑な系を(1)構成要素どうしがまばらに結合している状態、(2)非常に数多くが結合している状態、そして、(3)それらの間にある相転移の状態(適度に結合した状態)とに分けることで、秩序の表れ方を説明する。(1)の状態では、非常に安定的な秩序が生まれ、局所で起きた変化は全体にほとんど影響をもたらさない。(2)の状態では、局所で起きた小さな変化が急速に全体に大きな影響をもたらし、いわゆるカオスの状態になる。ところが、(3)のいわゆる「カオスの縁」では、安定性を保証できるだけの十分な規則性があると同時に、変化に対する柔軟性と意外性を備えている。そして、生態系などの複雑系はカオスの縁において、環境の変化を取り込み、そして自ら変化することで環境変化を作り出し、他の系と相互作用を繰り返す中で共進化を続け、適応度を高めていくことができる。そして、社会体制や経済の動きなどの複雑な人工物もまた同様の文脈で説明することができる。

なぜ、十分多様性があるシステムでは自己触媒機能が生まれるのかという点については、本書中のモデルを用いた説明を読んでいただくほかないが、その説明は十分に説得力があるものだとはいえる。ただし、複雑系の議論では、システム全体の振る舞いを説明することはできるが、個々の行動についての最適性については議論することができず、当然結果の予測もできない。たとえば、大規模の絶滅が起こる確率については説明することができるが、その原因に関してはほとんど説明できない。正直言って、それを防ぐ手段すら説明できないことが多い。系の中ではいつもと同じ行為が繰り返されているのに、ある時には小さな崩壊しか起こらず、ごくまれではあるがある時には大規模な崩壊が起こってしまうからである。十分多様化したシステムでは柔軟な秩序が創発するという説明には心躍る部分があると同時に、そのような長い視点で見れば、単なる確率的な突然変異や局所レベルの気まぐれや近視眼的な努力といったところにこそ、ミクロレベルの経営問題があるのだと言いたくなる。あと100年も経ってしまえば、今ここに生きているわれわれが感じた喜びや達成感あるいは悲しみなどもその存在自体が消えてなくなってしまうだろう。しかし、いつかは消えてなくなってしまう小さな叫び声のためにわれわれは働いているのである。複雑系と経営学を結ぶ仕事はまだまだたくさん残されている。

以上

(文責:森田正隆、1999年11月16日)