梅棹忠夫『情報の文明学』中央公論社, 1988年

 

●要旨(中心的な章ごとのまとめ)

★情報産業論

●情報産業

情報を、「人間と人間とのあいだで伝達されるいっさいの記号の系列」(pp.29-30)と定義すれば、情報産業とは、新聞、ラジオ、テレビといったマスコミのほか、出版、興信所、旅行代理店、予想屋なども含まれる。また、組織的に情報をうることを業務としたのは、教育や宗教であり、これらも情報産業の一部である。

●産業史の三段階

情報産業そのものは、第一次産業、第二次産業といった一般的な実業の概念からはみだしており、擬似商品であるし、虚業でもある。人類の産業は、農業の時代から工業の時代、精神産業の時代に進化してきた。これらの段階は、第一次産業、第二次産業、第三次産業という産業分類に対応するものではない。第三次産業の商業や運輸業、サービス業の大部分は、工業の時代の生産物を処理するための付帯的、補助的な産業であり、情報産業は完全な精神産業なのである。また、情報産業と工業は相互補完的な関係である(pp.40-42)。

●外胚葉産業の時代

 上記の三段階を生物学的な意味を考えた場合、

・農業の時代…内胚葉産業(消化器官):食糧生産、くうことが主体

・工業の時代…中胚葉産業(筋肉):生産物資とエネルギー生産

・精神産業の時代…外胚葉産業(脳、感覚器官):情報

と分類できる(pp.42-43)。今までの経済学は、中胚葉産業時代の経済学に過ぎず、価格決定理論についても考察の対象は目に見える商品である。これからは、外胚葉産業時代の経済学-つまり情報の価格の決定-にも注目していかなければならない。

●お布施の原理

外肺葉産業中心の経済の時代においては、情報の価格の問題はますます重要になってくる。この暗示的な事例がお布施である。お布施は、定価があるわけではないし、お経の長さや、労働量で決定されるわけではない。「情報の提供者と、うけとり手との、それぞれの社会的、経済的な格づけ」(p.50)の交点で決定される。そして、原稿料、講演料、電波料等がまさしくお布施の原理で決定されるのである。格は「社会的、公共的性格を相互に認め合う」(p.52)ことであり、外胚葉産業は本来公共的、社会的性格の産業なのである。

 

★情報の文明学

●情報の意味

私たちは情報を得ることによってつぎにとるべき行動をきめるという点で、情報はプラグマティックな意味をもつ。そして、その大部分は無意味情報である。しかし、それは現実に存在しているのであり、流通している(p.187)。

●情報の堆積と拡散

人間が紙に文字を書くようになって、情報は非時間的なものになった。情報は、「髪という物質的媒体の形をとって、現にそこに存在する」(p.204)のであり、「文字と紙によって情報は存在となった」(p.204)のである。次に、電気によって情報は「いっきょに担荷体としての物質から解放」(p.205)されたのであり、紙、印刷による文字情報に比較して、はるかに広大に、一気に拡大し、全人類をまきこんだ。

●工業の成果にたって

情報と媒体との関係は、相互的なものである。情報を印刷するために紙という媒体が用意され、情報の存在そのものが紙の製造を促進する。このように工業と情報産業との間には相互作用がある。さらに、「人間はそれ自体、情報の担荷体」(p.211)なのであり、交通機関は、その意味では、いまや情報機関である。

●文明系の発展

文明とは、「人間と人間をとりまく装置群とでつくる、ひとつの系」(p.220)であり、システムである。装置群とは、「具体的な器物、構築物のほかに、諸制度あるいは組織をもふくめる」(p.220)ことができる。農業、工業と続いてきた人類の歴史は生態系から文明系への進化の歴史であり、文明の歴史は、人間・装置系の自己発展の歴史である。

●文明の情報史観

「情報の伝達、処理、蓄積のための装置群の大規模な開発は、それほどふるいことではない。現代を特徴付けるのは、それら情報関連装置群の爆発的展開である。それによって、いまやあたらしい時代がひらけようとしている」(p.222)のだ。情報の時代こそ、人類史が到達しうる最終段階かもしれない。工業の時代は、それを目指して営々と装置群(人工環境)づくりを行う過渡期だったのかもしれない。「あたらしい時代において、情報は人間の装置、制度、組織に、いっそう根本的な変革をもたらすであろう。人間はそのときにこそ、根本的な価値の大転換を経験する」(p.223)であろう。

 

●コメント

 情報という観点で産業、都市、文明全体を見渡し、将来の情報中心の文明の姿を見通したところは驚くべき洞察力である。工業社会と情報との相互作用の記述などは、昨今のブランドブームなどにもつながる視点であり、日本において情報の威力を提示した最も初期の書物であろう。また、日本の昔からの慣習であるお布施の理論については、昨今のインターネットビジネスにおける課金の問題にも解決の糸口を与えてくれる、古くて新しい視点である。情報技術が進展して社会がどのように変容するかも、本書の洞察に基づいて、さらに深く研究していく必要性があろう。

 

飯盛義徳(2002520)