Shapiro, Carl and Varian, Hal R., "Information Rules," Harvard Business School Press, 1998.
(千本倖生・宮本喜一(訳)『ネットワーク経済の法則』IDGジャパン,1999年.)

●要旨
 本書は,テクノロジーが急速に発展する今日のインフォメーション経済の中にあっても,本質的な経済法則は変化しないことを述べ,そこでの行動原理を提示したものである.
 本書では,現代の経済の特徴として次の項目をあげている.
  1. インフォメーションの初期の制作にはコストがかかるが,追加生産(複製)のコストは極めて低い.よって価格は,コストベースではなく,顧客が認めた価値ベースとなる.
  2. ネットワーク環境において,インフォメーション製品の流通コストは低い.
  3. インフォメーション経済では,インフォメーション製品の入手よりも,その過剰な量を処理することが重要になる.
  4. インフォメーションは経験製品である.
  5. インフォメーション・テクノロジーにはロックインしがちであり,スイッチングコストが高くなりやすい.
  6. 規模の経済ではなく,ネットワーク経済(ネットワーク外部性,需要者の規模の経済性)の原理が働く.そこでは,プラス(拡張型)のフィードバックによって,勝者と敗者が明確に分かれる.
 これらの特徴から,今日のインフォメーション・ビジネスにおいてとられる諸活動を次のように説明している.
  • 1,2,4から,無料サンプルを提供するという戦略がとられることが多い.これによって,5の通り顧客をロックインしてゆく.その後,機能や品質などの点で優れたバージョンを販売する.
  • サイトライセンスやグループ向け製品はトランザクション・コストを低下させるものであり,1から知的所有権の問題(不正コピーなど)がある一方で,契約条件(緩めると顧客の価値を高め,競争相手を増やす)を調整した結果である.
  • インフォメーション製品にみられる多様なバージョンは,1のために追随者の参入が容易となることに対応して,顧客(個人・グループ)に合わせて「インフォメーションと価格の個別化」を図り製品を差別化するためのものである.
  • One to Oneマーケティングなどに見られるカスタマイズやポータルサイトは,3によって,消費者の情報処理を支援し,関心が拡散することに対応したものである.
  • ネットワーク市場での戦略として,開放化型(オープン仕様,標準化)が採用されることが増加しているが,6によって決定的多数を獲得して,成長方向のプラスのフィードバックに乗ろうとするものである.本書では「性能か互換性か」及び「開放化かコントロールか」という二つのトレードオフを組み合わせて,戦略を,性能追求型(独自開発・互換性なし,任天堂),コントロールされた移行型(独自開発・互換性あり,マイクロソフト型),開放的な移行型(オープン・互換性あり),非連続型(オープン・互換性なし,CDや3.5インチフロッピー)に分類している.

●コメント
 本書は,今日のネットワーク型経済における経済現象が,どのような原則に基づいて発生しているかについて,明快に説明する.本書によれば,ネットワーク型経済においては,ネットワーク外部性などの効果によって,デファクト・スタンダードを獲得し多数派となりえた者こそが勝者となる.このことは,一般に期待されるのとは反対に,ネットワーク型経済が必ずしも弱者救済を約束しないことを意味する.むしろ,標準化を実現するだけのパワーと質の高い情報を持ち,ブランドや評判といった資産を有するものが,より容易に勝利を収めることができるということになる.

林 幹人(2002年5月13日)