佐々木宏夫『情報の経済学―不確実性と不完全情報』日本評論社, 1991年

 

●要旨(各章のキーワードを中心に)

★利害調整の場としての市場(pp.3-11を参照)

●資源の稀少性:その資源が珍奇でないとしても与えられた状況下での人々の欲求を完全に充足させるほどたくさん存在していないという相対的な概念。

●交換(exchange)の前提条件:

・交換参加者は交換の対象について正しい知識をもっていなければならない

・交換は自発的に行われなければならず他人からの不当な影響力の行使があってはならない

・交換はその当事者以外の人々に何の影響も与えてはならない

●市場メカニズム(market mechanism):取引の行われる場が市場(market)であり、市場において財に適切な価格(price)がつけられ、貨幣(money)の助けを借りて取引を実行させるためのメカニズム。

●均衡価格(equilibrium price):需要と供給のバランスによってこれ以上変動余地のない価格。

 

★不確実性とくじ(pp.13-28を参照)

●意思決定(decision making):「消費者や企業などの経済主体が、自分がとりうる行動のなかから、自分にとってもっとも好ましい結果をもたらすものを選ぶこと」(p.16)。

 

★期待効用仮説(pp.29-48を参照)

●選好(preference):人々がさまざまな対象に対していだく好き嫌いの感情。

●効用指標(utility index):より好まれる対象にはより大きな数を割り当て、同じ程度に好まれる対象には同じ数を割り当てる原則に従って、人々の選好を数の大小で表した指標。

●基数的(cardinal):効用指標が付加的な意味合いを帯びるとき(大小のニュアンスを感じる)。

●序数的(ordinal):選好が与えた順序付けを数値表現するだけ(大小関係だけ)。

●期待効用(expected utility):期待値の合計。

●期待効用仮説(expected utility hypothesis):意思決定の時点で利用可能なあらゆるくじのなかでもっとも大きな期待効用を与えるくじの選択と見なす想定。

 

★危険に対する態度(pp.49-67を参照)

●危険回避的(risk averse):期待効用関数が上に凸。

●危険愛好的(risk loving):期待効用関数が下に凸。

●危険中立的(risk neutral):期待効用関数が直線。

 

★不確実性と市場(pp.69-89を参照)

●状態依存財:花見弁当のように、状態に依存して有用性に違いがある財。

 

★保険の理論(pp.91-108を参照)

●逆選択(adverse selection):危険度の低い人にとって保険が割高すぎて保険の市場から締め出される事態。

●道徳的危険(moral hazard):保険に加入したためかえって危険にあう可能性が高くなったり、損害が大きくなってしまうこと。

 

★情報の非対称性と競争市場(pp.111-131を参照)

●情報の非対称性(asymmmetry of information):経済的な取引において、その取引に参加する当事者全員に必要な情報がゆきわたらず、一部の当事者だけに偏在してしまう現象。

→情報の非対称性(不完全性)は、市場において取引に参加する機会を奪われてしまう客(良い客)に不利益をもたらすだけでなく、経済活動の効率性を損ない、社会全体の利益にも影響を及ぼす(市場の失敗の一例)。アカロフのレモン市場を参照。

 

★情報の非対称性と自己選抜(pp.133-150を参照)

●分離均衡(separating equilibrium):(レンタカー契約における良い客、悪い客の事例の中で)2人の客が別々の契約をレンタカー会社と結ぶ場合。

→みずからの行動によって自分の情報をあらわにしていることを「自己選抜(self selection)」と言う。

●プーリング均衡(pooling equilibrium):同じ契約をレンタカー会社と結ぶ場合。

⇔分離均衡がもたらす社会的厚生の水準は非対称的情報下の均衡に比べてかなり改善されている。

●シグナリング均衡(signaling equilibrium):ある信念に基づいて一つの宣言がだされ、その宣言のもとで人々が選んだ最適行動が信念と整合的である場合(学歴等)。

★合理的予想均衡(pp.151-170を参照)

●価格が伝える情報:価格はきわめて貴重な情報源(値引交渉時の相手の対応等)。

●予想の自己実現的:ある予想をたてて人々がそれにもとづいて行動し、結果が予想通りだった場合。

●合理的予想均衡:自己実現的な予想とともに市場が均衡した場合。

 

★合理的予想均衡と情報の価値(pp.171-192を参照)

●価値がある情報:情報を入手するためであれば自分の所得、財産を犠牲にしてもかまわない情報

→価格から学習できない市場の場合、情報は価値あるものになる。

・市場に情報をもった経済主体が1人もいないときには、たとえ合理的予想均衡が成立している場合でも情報は価値あるものになる。

・市場に最初から情報をもった消費者がいるときには、合理的予想均衡においてはすべての消費者にとって情報は価値のないものになってしまう(ただ乗り)。

→価格の情報伝達能力が強力なため、消費者のうちごくわずかの人たちが情報をもったとしても、短期間に市場全体に伝播してしまう。

 

★ノイズを伴った合理的予想均衡(pp.193-214を参照)

●ノイズのある場合の情報の価値:例え市場に情報をもった消費者がいて合理的予想均衡が成立していても情報の全てが価格を通じて市場全体に伝播していくとは限らず、ノイズがある場合、情報は価値あることがある。

 

★情報財とその市場(pp.215-233を参照)

●情報:「媒体を通じて伝播していく有益な知識」(p.216)。

 ・知識:より適切な判断や意思決定に役立つ知識、それを手に入れること自体が喜びになるような知識

 ・媒体:価格(シグナル)を通じての伝播、媒体を通じての伝播

→「その財の所有者があまり手間やコストをかけずに、原本と同一かほとんど変わらない複製をつくることができる」(p.217)。

●情報財の生産:研究開発の固定費用は大きいが、複製のための限界費用は非常に小さい

●情報財市場の特異性:情報財は需要者が供給者へと市場の立場を間単に変更可能。情報財が独占者の手を離れた瞬間に市場は競争的色合いを強める。

●情報財の価格形成:知識の創造費用をE、知識の価値をvとし、供給者A、消費者Bの市場の場合、

 ・E=0の場合、価格は限りなく0に近づいていく。

 ・E>0の場合、消費者余剰は、2v-Eとなる。

2v<E≦(n+1)vになると社会的に生産に値する情報財が生産されなくなる。そのため、複製の製造、販売の禁止、補助金の交付等の政策が有効。

 

●コメント

本書は情報の経済学的分析をわかりやすく説明している書籍である。特に、情報の非対称性、情報財の価格形成については平易に説明されており、政策への応用にも言及されている。不確実性、情報に関する経済理論の基礎を研究するには必読の包括的書籍と言えるだろう。

 

飯盛義徳(2002513)