中山信弘,『マルチメディアと著作権』,岩波新書,1996年.

●要旨
 本書は、マルチメディア時代の到来によって著作権がどのように変貌するか、という視点から今後の展望を論ずることを目的とする。以下に章毎のポイントを抽出する。

第1章 著作権とは
<知的財産>
 知的財産とは、人の知的・精神的な創作活動の成果である創作物と営業上の信用を化体した営業標識等の総称であり、それらを守る方が「知的財産法」または「無体財産法」と呼ばれている。知的財産法は諸法の総称であり(詳細p.4)、本質は財産的情報の保護にある。具体的には、国民全体に広く浸透するもので、高額な特別資金を必要とせず、創作等のインセンティブを与えるシステムが最も望ましい。情報流通の観点からは、知的財産法は、情報の利用に独占権を与えることによって、公共財(経済学上、利用の排他性のない財のこと)としての情報を私的財に変える法である。しかし、独占権の付与は社会的利益に相反する権利でもあることから、知的財産法は、時代の要請に応じた政策的判断によって変遷する。
 近年、経済の国際化(ボーダレス化)、経済のソフト化、研究開発費の巨大化を要因として、知的財産問題は通商問題と密接な関連を示すようになった。これに伴い、知的財産法は企業戦略、国家戦略において急速に重要性を増しつつある。国内法レベルでの知的財産法の強化、国際的協調は大きな課題である。
<著作権>
代表的な知的財産権のひとつ。技術情報の特許権、信用情報の商標権と同様に、表現情報を保護する法として存在。元来、文化の発展を目的としており、産業政策的考慮は払われていないという側面を持つ。流通経路の多様化、流通量の急増等、新たな情報流通に対応する著作権を考慮することが課題となる。

第2章 マルチメディアと著作権
 マルチメディアは「文字、音、静止画、動画等の多様な表現形態を、デジタル技術を用いて統合したデンタル媒体またはその利用手段でインタラクティブに操作できる環境」と定義される。
 今後、デジタル技術の発達により、爆発的な情報拡散現象=情報の流通革命が起こるであろう。また革命の結果を人類にとって吉とするため、何より情報の偏在を防ぐ必要がある。著作権法は、情報の供給促進と流通促進という2つの観点から、マルチメディア時代の制度的インフラとして重要であり、その整備は喫緊の課題である。
 従来の著作物にはなかったマルチメディアソフトの@大量の素材の利用(著作権コストの問題)、A改変加工の容易性(著作者人格権のなかの同一性保持権との兼ね合い)B素材の一部のみの利用(権利処理の問題)といった特質をふまえ、著作権を考慮する必要がある。利用者の立場では、あらゆるジャンルの著作物の権利情報を一元管理する団体の設立が理想であるが、それは非現実的なので、少なくとも、分野毎に管理団体を設立し、各管理団体の間の連絡をとることが望まれる。

第3章 著作権法の将来像
 マルチメディア時代では、著作権法の基礎的概念(著作者概念・著作物概念)のゆらぎが起こる。
・@外部情報の大量利用、A情報の自己増殖現象、B単なるデータと創作物との融合等により、「翻訳文化」が台頭してくるためである。(負のイメージではなく、積み上げ要素の強い文化のこと)
・今後の著作権法は、従来型と様々な新しい著作権制度とが併存する複線形態となる。
・新たな著作権制度としては、情報のパーソナルユースの増加=権利者が管理不可能な状況、を前提とした対価徴収権制度が考えられる。(私権制と公共性の問題、内外人平等という問題の克服が必要)
・従来の著作権法では、創作性を基礎とするため、情報が、単なる労力でなく知的創作活動の成果である必要がある、一部利用を想定していないなど、マルチメディア時代に適用するには限界がある。
 以上の要素や、EUで採用された相互主義(レシプロシティの原則)等を踏まえ、日本は、現在の著作権法を前提として、それを改良し、不足部分については補充する新制度を考えることが現実的であろう。

北垣 武文(2002年6月10日)